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第百十三話 都合が良すぎる

「お目覚めになりましたか。私の名前はタンバ」


 エスティオンと+5基地の丁度中間に位置する、荒れ果てた大地。ディヅィを強奪したタンバリンは、そこに彼女を拘束した状態で安置していたのだが……

 ディヅィは、目覚めた瞬間に拘束を破壊して逃亡。タンバリンが何かアクションを起こす前に、目の前から消えるようにして逃げてしまった。セリフを言い切る前に逃げるとは、中々の反応速度だ。【楽爆】の遺産は伊達ではない。


「……どうしましょう。私は連絡手段を持っていません」


 再確認するようにして呟き、懐から典型的な色形をした起爆スイッチを取り出した。神器を一部応用した、遠隔起爆装置だ。今、エスティオンの神器部隊居住区に仕掛けてある。

 どうしましょう、などと言っておきながら……タンバリンは、こうなった場合の作戦も用意してある。

 ディヅィの強奪時に一つ。そして、キャッツが一つ。既に爆弾を設置してある……+5は計画的な組織なのだ。


「キャッツ。アルウェンティア様。それでは、さあ」


 ポピッ! と気の抜ける音を出しながら、起爆スイッチを押した。エスティオン基地の方角から爆音が聞こえた。

 威力自体は大したことのないものだ。しかし、エスティオンの技術力を持ってしても、復興に数週間を要する程度の損害を与えることは出来る。今頃大慌てだろう。


「頼みましたよ」


 誰にも知られず。+5の陰謀が始まりつつあった。


 ――――――


「なんじゃこりゃああああ!!!」


 神器部隊居住区のアンタレスに異常が発生したので見に来た黄燐は、そこで目を疑いたくなるような事態に直面していた。凄まじい爆発痕と共に、全て消え去っている。

 全リソースを注いでも、復興にそれなりの時間がかかる。誰だ、誰がこんなことを。まさか、外部の人間か?


「……有り得る。あのトーナメントのせいだ」


 二つ目の名を持つ者や、他組織の者も参加したであろう最上第九席トーナメント。結果的に、優勝は軌光だったが……トーナメント期間、様々な人間が基地内にいた。

 一番怪しいのは……傍虎絆か。ただでさえ、職員を一名殺害している……このぐらい、平気でやりそうだ。


「え〜……どうするよ。神器部隊の住む場所がないぞ」


 一縷の望みをかけて、予備区域も確認してみるが……案の定、爆破されている。本格的にどうしたものか。


「なんだなんだ何があったんだ……何してんだよ黄燐!」


「僕じゃない! 逆になんで僕だと思ったんだバカ!」


 訓練を一時中断した神器部隊が集まりだした。反応は様々だが、全員住む場所がなくなったことを嘆いているのは変わらない。建築部門の人間も発狂しながら暴れている。

 誰のせいか、というのは……今はどうでもいい。とりあえず、しばらくの間神器部隊の寝泊まりをどうするか……


「……ん。こんな時に侵入者反応」


「この場にいる全てに告げる! 《黙れ》!」


 もうちょっと言い方なかった? というツッコミは、発する前に封じられた。口を開こうとしても、何故か……絶対に喋ってはならない。そんな気がしてならないのだ。

 +5幹部、アルウェンティア。その背後にいるのは……キャッツか? そうか、彼女の所属は+5だったのか。


「状況から説明しよう。我々は、ここ近辺での任務中に爆発を観測した。何事かと思い、こうして駆けつけた次第」


「うわ〜凄い大爆発にゃねえ。大変そうにゃあ」


 焼け焦げた瓦礫をつまんで、焦げ臭! と言いながら飛び退くキャッツ。リィカネルとの試合は大盛り上がりで、エスティオンでも一度会ってみたいという声が多かったが……

 こうして見ると結構、動物的というか幼いというか……人間的な魅力をあまり感じられないように思う。


「エスティオン諸君。トーナメントに、我々のトップが参戦したことはご存知だと思う。そして、このキャッツも」


「にゃ〜。楽しかったにゃよ、リィカネルくん」


「迷惑をかけた。そこで、どうだろう。元々+5とエスティオンには大した軋轢もなし。以前交戦したことについては、水に流すと仰っている。つまり、我々は友好関係にある」


 それは無理があるんじゃないか、と言おうとしたが……やはり喋れない。今は黙って聞く他にない。

 云々かんぬんと喋り続けるアルウェンティア。何やら小難しいワードや言い訳を続けているが……何が目的だ? こうもタイミングがいいと、大方犯人も絞れてくるのだが……


「……つまり。復興までの間、諸君を+5に招待しよう」


 もし言葉を発することが出来れば、ざわめきがあったのだろう。その提案は……エスティオンからすれば有難い。

 +5側が水に流してくれるのならば……確かに、+5とエスティオンは友好関係にあると言えなくもない。そんな組織であれば、しばらくの間住まわせてもらうことに抵抗もないだろう。……だが、裏になにかあるのは確実と見ていい。


 (……アルウェンティア、つくづく面倒臭い女だな。言霊がこうも厄介だとは……)


「沈黙は肯定と見なす! ようこそ+5へ!」


 こうして。

 神器部隊員たちは何の抵抗も許されずに、神器部隊居住区復興を待つ間……+5へと身を寄せることになったのだった

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