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第十一話 天変地異

(厄介ですね……やはり私との相性は壊滅的ですか)


 最上第九席は、その隔絶した力故に最上第九席同士で行動することが多い。その中でも、海華と月峰がペアとして認知されているように、一緒に行動する者は大体決まっている。

 兎牙にとってのソレは斥腐だった。貴重なおばあちゃん属性として可愛がってくれる斥腐のことは好きだ。

 それ故に、こうして模擬戦をする回数も斥腐とのソレが最も多い。彼女の神器がどのようなものかは知り尽くしているが、“知っている”ことがメリットになり得ない能力なのだ。

 異界との接続、召喚。端的に表すとそうなる。


「まあ、近寄りさえすれば勝ちなんです、が……!」


 胸の前で札を構えたまま、接近と後退を繰り返す。どう動こうが、どう攻撃しようが、際限なく湧き出る骸骨たちが邪魔をする。一体一体は脆いのに、とにかく数が多い。

 砕け散った骨も視界を遮る要素となる。何一つ無駄のない召喚と使い捨て……効率に全てを捧げた戦闘スタイル。


「それが何よりも難しい……そうじゃろう兎牙ちゃん?」


「ええ、本当に! 慣れませんね、いつまで経っても!」


「惜しまずに使いたまえよ。加減していては勝てん」


「言いましたね! では遠慮なく!」


 不利だった。接近さえ出来ないほどの物量だった。

 それは、神器を使わない状態での話だ。


「赫爆砕岩武装・コネクションファイブ!」


「……五割。縛りプレイの実験台にでもするつもりかえ?」


 兎牙の神器、神聖神器ネイティスィルはそのユニークな使い方が故に対処が難しい。八種の札を適宜解放し、そこに込められた力を鎧として纏って使うという能力だ。

 切り替えに予備動作や兆候はなく、本来ならば札を取り出す必要すらない。虎の相手をしていたら、突然その虎が鷲に変わって襲ってくるようなものと、斥腐は表現している。

 そして、その八種の力にはモチーフがある。旧文明における大国、中国において崇められた四聖獣。

 今回纏ったのは応龍。近接特化の武装を展開する。

 五割、引き出した。


「本領発揮してないのは、そっちもでしょう!」


 前進。地は、割れる。

 正拳の構えから、腰だめに拳を置く。

 放つは五、六。一秒にも満たぬ一瞬の破壊劇。


「こうも容易くなるかい。怖いねえ、怖い怖い……」


 骸の群体による妨害は最早機能しない。まとわりついたところでその全ては破壊される。神の如き剛力。

 加えて、向上した防御力が恐れを消した。骨の煙幕があったところで、半端な攻撃は微塵もダメージ足り得ない。


「天光、宵宵啼き絞める主従。時鳥の声音、千編の夜は兵共の天と地と朝焼けの地平を彩り奏でる。【かしゃ】」


 同時、斥腐の神器も本領を発揮し始める。

 詠唱を捧げることにより、異界の生物を召喚する能力。本来のとは違う、複合化された怪異。


「燃え尽きな。【砕】の炎は鎧程度では止められん」


「言うようになりましたねえ、お忘れですかァ!?」


 武装変換。凍界破砕武装。コネクションシックス。

 全身を氷の外殻で纏った武装。両手の部分は回転するエンジンの如く、常に零下の氷の欠片を吐き出し続ける。


「炎がァ! 私に勝てると思ってるんですかァ!?」


 鬼の顔面を中心に嵌め込んだ炎の車輪。斥腐の召喚した骸たちを破壊しながら突き進むソレは、しかし兎牙の拳一発で凍り、砕け散った。斥腐の表情が病んだように歪む。

 トン、と軽い感触。誰かに肩を叩かれたような軽さ。

 それが、致命となるなどと。


「【千手よびごえ】」


 その指は、離れることを知らず。

 凍土の上に立っていた兎牙の全身を、いつの間にか病的なまでに白い無数の手が包み込んでいた。蠢く。


 (これ、は……まだ、見たことが)


 ぐじゅり、と全身を侵食されたような気がした。

 液体のように崩れていく【千手】は、兎牙の全身に張り巡らされた神経節を蝕んでいった。少しづつ、少しづつ、動きが止まっていく。視界が揺らぎ、世界の輪郭が……


閃雷千億武装せんらいせんおくぶそう


 訂正。世界は変わらず映っている。


「コネクション……オーバードライヴ!」


 視界に異常が訪れたのは、斥腐だったのだろう。

 数え切れない、流れ星の如き光芒。それは、光速に限りなく近い速度で宙を駆け回る兎牙の残光であった。

 閃雷千億武装。それは、兎牙の切り札である。赫爆砕岩武装のようなパワーも、凍界破砕武装のような特殊な妨害能力も有していない……ソレは、“ただ速いだけ”の武装である。


「オーバードライヴ……! そこまでして!」


 外野の黄燐にとって、それは一瞬の攻防であった。

 その異常なまでの速度により、【千手】はその全てが引きちぎられ、力を失っていた。また斥腐の詠唱も挟む隙などある訳がなく、呆然と、迫り来る光に圧倒されていた。

 だが、兎牙の想定にないたった一つの事象。斥腐の召喚した【千手】は、彼女を拘束していたものが全てではない。


 (私の移動速度は、限りなく光速に近い……)


 斥腐の笑みは、未だ消えていないのだ。

 【千手】は、ただただ地下から姿を現しただけだ。それでも、兎牙の移動速度は光速と言っても差し支えない。加えて【千手】は、兎牙の反応速度が間に合わない位置にいる。

 光速で動く物体は、衝突ですら甚大なダメージとなる。


 (……お見事です。決着を急ぎすぎました、か)


 世界が闇に包まれた。

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