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第百二話 いつの間に

「そういやあ、おまえさんの神器、珍しいなあ」


「……ルルクか? いつ神器ナんか手に入レたんだ」


「いやいや、おまえさんだよ。エルミュイユ。肉体そのものが神器じゃねえか……まさか、気付いてなかったのか?」


 ピタリと足が止まる。新しい拠点へと移動する旅路の中での発言であった。軌光もルルクも首を傾げている。

 知っていたのか? 気付いてなかったのは自分だけ? いやそれ以前に、この身が神器だとするならば、気付かない訳がない。絶対気付く。おかしいのはこの二人だ。


「馬鹿な。ワタシは様々な神器を装備しヨうと試みたが、成功しタ試しはない。ワタシに神器適性はナいんだよ」


「そりゃあ、もう装備してるからな。二つ目は無理だろ」


「そういウことだっタのか……!?」


「たまにクソボケになるよなおまえの師匠」


「そこが可愛いんですけどね」


 確かに、それなら全てに説明がつく。

 エルミュイユは既に神器を装備しているから、もう別の神器は装備出来ない。死んでも動いているのは神器の力。睡眠も、試したことはないが食事が必要ないのも……!

 盲点だった。日本に溢れかえっている神器の多様性を見て気付くべきだった。まさか、既に神器使いだったとは!


「き、軌光。珍シいとは、どウいうことダ」


「おまえさんが適合したとこ見てねえからなんとも言えねんだが……多分そりゃ、死後に発動するタイプの神器だ。俺も立場上色んな神器を見てきたが、流石に初めてだな」


「……アレか! あのガキの死体!」


「たまにめちゃくちゃ口悪いよなおまえの師匠」


「そこが可愛いんですけどね」


「なんでもありじゃねえか」


 日本に来てから、研究材料が多すぎて自分の体をまったく弄っていなかった。突然隕石が落ちて世界が滅ぶのだ、死んでも動くやつなどごまんといるだろうと思っていた……!

 自分だけだったとは! これは……面白い! 早く次の拠点に行って、自分の体を弄り倒さなくては!


「急ぐぞ二人とモ! 知的好奇心がワタシを待っテいる!」


「そこが可愛いんですけどね」


「まだ何も言ってねえぞ」


 スタコラと駆け出したエルミュイユに、苦笑を浮かべながらついていく。普段は落ち着きがあって、こういう何かを急ぐことはないのだが……どうも、未知なことに弱い。

 研究者らしいと言えばそうなのだが。たまに出るこの超暴君ムーブ。しかし、ルルクたちはそう嫌いでもなかった。

 これこそがエルミュイユ・レヴナント。そんな彼女だからこそ、共にいるのだから。


 ――――――


「よっ……と。ここ置いときますよ、師匠」


「ああ。おまエが雑用してくレるお陰で研究が順調だよ」


「へへっ……ありがとうございます」


 新しい拠点に移って数年が経過した。ルルクもすっかり成長し、旧文明であれば成人とされている歳になった。

 エルミュイユと軌光には、外見的な変化が一切ない。エルミュイユはともかくとして、軌光は何故歳を取らないのか。いずれ研究してみたいものだ、と思っている。

 もう“死”については調べ尽くしたエルミュイユ。最近の研究はもっぱら神器についてであり、異なる状態のサンプルが無限に湧き出るこの分野は、終わりが見えそうになかった。


「軌光は? またイつもの食糧補給か?」


「あれ、師匠も知らないんですか?」


 拠点での役割分担も出来ていた。エルミュイユは研究、ルルクは雑用と家事。そして軌光は食糧の補給。

 決まった時間に拠点を出て、決まった時間に帰ってくる。意外とこまめな時間管理をする軌光は、この習慣を崩したことはなかったのだが……最近、どうもおかしい。


「ふむ……少し探シてくる。ルルクはこコを出るなよ」


「分かりました。師匠、気を付けてくださいね」


 頷いて、拠点を出る。元々、軌光が一緒に生活してくれているのはルルクが食糧を恵んだから。もう十分に恩は返してもらったし、無理に引き止める理由もない。

 エルミュイユの考えでは、きっと軌光はエルミュイユたちとの生活が嫌になったのだろう、ということになっていた。あんなに活発な性格の男が、同じ日常の繰り返しなど……嫌になって当然。ただ、そうならそうと言ってくれれば……


「……いた。こンな所で何をシている、軌光……」


「ん、んん!? エルミュイユ! おまっなんで……」


 数時間ほど歩き回って探すと、軌光は崩れかけの瓦礫の山の中にいた。殴って開けたのであろう穴が荒々しく、その中を見つめている。そこには、痩せ細った子供がいた。


「この子は?」


「あ〜……拾ったんだよ。ずっと目ぇ覚まさねえし、死んでるのかと思ったが……息だけはしてるみてえでな。ちょいと前から世話してんだが、全然変化がなくてよ」


「ふむ。心当たリがある、見せテみろ」


 どうも、死にかけの子供に縁がある。

 生きているが目を覚まさない。それが数日間にも渡れば、少なくともこの世界では水分補給や栄養失調で死亡してしまうものだが……それでも生きているという奇異な状況。

 完全に、神器適応障害だ。神器に適合したはいいものの、肉体がその負荷に耐えられていない状態。

 放置すれば命の危険もあるが、幸いにも軌光が無理やり栄養補給したお陰で、今から治療すれば間に合う。


「何故拠点に連れてコなかった。最近帰っテくるのが遅いのハこれが理由か? 何故ワタシたちに隠しテいたんだ」


「物騒な研究ばっかしてるから……こいつも、殺しちまうかと思ったんだよ。助けてくれるんだな……意外だ」


「……考えガ変わッたんだよ」


 生きている生物には興味がない。死が好きだ。

 でも、ルルクも軌光も……この子供も。生きているから、一緒にいることが出来るのだ。そう考えるとまあ、うん。

 人を生かすのも、悪くない。


「帰るぞ、軌光。ルルクが待っている」


 子供を抱きかかえ、立ち上がる。


「ワタシたちの家に」


「……おう!」


 子供の寝息が、随分と心地よく聞こえた。

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