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第百話 亡者

終わりは唐突に来る。というのは誰の言葉だったか。その終わりというのがなんなのか。核ミサイル? 病気? それとも、人間では理解出来ないような超常現象?

 まあ、それはなんだっていい。前触れもなく予兆もなく、その人にとっての終わりというのは、突然訪れる。

 私にとって……否、この世界にとってのソレは……


「多分、これなんだろうなあ」


 西暦20XX年。私は日本の一般家庭に生まれて、ちょっと頭が良くて親が金を持っていたから、いいとこの大学に通って、それなりに裕福で満たされた生活を送っていた。

 その頃は丁度アメリカに留学していて、生物の寿命に関する研究をしていた。生物が生きている間のことには特になんの興味もないが、死ぬ瞬間だとか、死んだ後の反応だとか、そういうものが好きな私にはぴったりの分野だった。

 共同チームと顔合わせするために、大学から出た時。空は血のように紅く染まっていて、凸凹が見えるほどに大きな隕石が、炎を纏いながら落ちてきていた。

 自分でもびっくりするほど落ち着いていて、これが終わりかあ、なんて呑気に考えていた。渋滞していた車の、適当に選んだ一つに乗り込んで、研究資料を広げた。

 最後に自分の研究を見返そう。散々追い求めた“死”を、自分で体験出来る時が来たのだから。そう思った。

 結局、生き残ってしまったのだけれど。


 ――――――


 我ながら奇跡的なことをしたと思っている。まず飛んできたビルの破片が、道路の一番端にあった私の乗り込んだ車に激突した。かなり吹っ飛ばされて、全身の骨が折れた。

 その拍子にドアが開いて、飛び散る研究資料をぼんやりと見つめながら転がり出た。無様な大の字に寝転んで、隕石が落ちてくる瞬間を待っていた。色んなものが、飛んでいた。

 その時ふと、手の先に何かが触れた。心做しか、淡く光り輝いているようにも見える死体だった。子供のものだった。

 ぐちゃぐちゃになっていたそれを、なんとなく握りしめた。人間の肉など何度も研究材料にして来たが、手袋を嵌めずに、生身の手で触ったのはこれが初めてだった。

 そして、ようやく隕石は地表に激突した。


「あレ、なんで生きテるんだ……んン、理解出来ナいぞ」


 完全に死んだ。そう思っていたのだが、私は目を覚ましたのだ。まだ熱を孕む、どこかの荒野のような地獄の中で。

 最初は訳が分からなかったが、どうせ死の間際の夢。もしくは幻覚だろうと思って、とりあえずやりたい放題することにした。したかったけど人道的な問題で出来なかった実験。他分野への進出。人肉を食ってみたりもした。

 地頭の良さ。そして残ってはいなかったけど、頭の中には全部入ってた研究結果。それらを応用して、色んなことを研究した。もう南北アメリカで行ってない場所はないだろう。

 そして、その頃にもなればもう気付いた。理由は分からないが私はあの隕石を生き延びたのだと。

 あと、死んでいた。まあそれは些細な問題だ。この世界の根幹に関わる法則が色々ねじ曲がってたり、以前は存在を確認出来なかったエネルギーがあったりしていたのだ。今更私が生きていても死んでいても大した意味は持たない。


「別の場所に行きタいな。よシ、なんカ作るか」


 そういえば故郷が日本だったことを、その頃になって思い出した。アメリカにいた時間が長すぎたし、親との連絡もとってなかったし……完全に忘れていた。

 崩壊した世界には、ある特殊なエネルギーと、それを利用して能力を発動することが出来る道具があった。私はこれを神器と呼称し、なんとなく集めることにしていた。

 使える数には限りがあるし、そもそも自分は上手く使えなかったが……以前改良を施した死体に使わせることは出来たので、何かの役には立つだろうと思って集めたのだ。


「難しイな……ふム、死体の橋とか面白ソうだな」


 独り言が増えていた。

 神器を使って何か出来たら面白そうだと思ったのだが、これがまた難しい。仕方ないので海を泳ぐ仕様にした死体で橋を作って、数ヶ月かけて日本に渡った。

 日本は予想に反して沢山の人間がいたが、荒野になっている点は変わらなかった。あの隕石は、やはり世界中に落ちていたようだ。まあ、そんなことはどうでもいい。

 人がいなければ出来ないこともあった。また色々しよう。


「さて、まズやることハ……おや。死にかケのガキ」


 海水を洗いながら、一歩踏み出した瞬間……辛うじて息が残っているだけの子供を発見した。栄養失調の極みのような状態で、放置すれば間違いなく死んでいくだろう。

 見捨てても良かった。でも、幸か不幸か子供の死体のサンプルは足りている。結果として、救助を選択していた。


「無駄に殺す意味はナいしねッと……」


 生きた肉体に必要な栄養全てを詰め込んだ点滴を打ち、数日面倒を見てやった。ダルかったが、悪い気はしなかった。

 すっかり回復し、これ以上世話をかける訳にはいかないので出ていくと言う子供を、そうか、とだけ言って見送った。


「あ、その前に……また会いたいので、名前を……」


「ない。私ハもう死んでイる。人間の名前はナい」


「えー……お願いしますよ、知っておきたいんです」


 しつこかったので、その場で改めて考えた。

 生前好きだった小説のヒロインの名前が思い浮かんだ。それと、今の自分の状況を考えると……多分、この名前が最適だろう。我ながら適当極まる組み合わせだった。


「……エルミュイユ・レヴナント。そういうコとにしておくヨ。誰かに話すこトがあれば、こノ名前を使ってクれ」

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