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第十話 チームメイト

「僕の名前はリィカネル・ビット。この部隊のリーダーをやらせてもらってる。一緒に下克上、頑張ろう!」


「おう、よろしく。なんだか気が合いそうな気配がするな」


「HAHAHA、光栄だよ。じゃ次は綺楼lady、どうぞ」


 格好がおかしい二人のうち一人、顔全体をボロボロの呪符で隠した少女が前に出た。小汚くボロボロなのに、妙に清潔感があるのは何故だろう。布自体は綺麗に見える。

 しかし、それを打ち消す陰鬱な雰囲気。見ているだけでも呪われそうな気がしてくるほどの……陰の気。


「へへ、私は新異綺楼あらいきろう……見ての通り呪詛師と呼ばれています。これから頑張りましょうね……」


 因みに服は毎日洗濯してますよ、と言って綺楼は軌光の手を強く握った。リィカネルの時のように何かコメントしようかと思ったが、少し生きる世界の違いを感じて何も言えなかった。絆の暗い部分を百倍濃縮したかのような……

 そんな様子を見届け、満足そうに頷いたリィカネルが最後の一人の手を引いた。視線はずっと紙束に落ちている。


「……これは本。情報の集積した媒体よ。あと私の名前は胡蝶狐依こちょうこより。接触は最低限で頼むわ」


 綺楼とは別の方向で近寄りにくい。どうやら本と言うらしい紙の束から決して視線を外そうとしない。凄まじいまでに目つきが悪く、正直見られたくないというのが本音だ。

 握手を交わすこともなく自己紹介が終わる。リィカネルに視線を送ると、「ナイスコミュニケーション!」と言われたがそんなわけないだろう。目がついてないのかこいつは。


「じゃ、最後は君だ。僕は立場的に名前を知っているが、他の二人は知らないからね。大切なチームメイトのことだ、ここでしっかり記憶しよう! ほら狐依ladyも!」


「仕方ないわね……手短に済ませてちょうだいね」


 パタンと本を閉じて、狐依の視線が軌光を射抜いた。鋭い以外の表現方法が見つからない……刃物か何かか?


「俺は焔緋軌光。えと……神器は剛腕神器で、まだ組織入りたてのド素人だから……色々と、頼むわ」


「ん〜! 任せてくれたまえ軌光boy! この僕が君を導いてあげよう! そして一緒に下克上だ!」


「下克上、相変わらずお好きですねえ……ふひひ……」


 勝手に盛り上がっているリィカネルと、不気味な笑みを浮かべながら茶化す綺楼。我関せずと本を読む狐依……個性が強すぎる気がする。もっと馴染みやすいところが良かった。

 ただまあ、泣き言を言っても仕方がない。与えられたこの部隊で頑張るしかないのか……


「あ、そうだ。本当はもう一人いるんだけど、今は外していてね。彼女は我がチームの……いや、エスティオンのエースと言っても過言じゃないほど強いんだよ!」


「なんでそんなのが……下級? 部隊にいるんだよ」


「彼女が言うには……同年代の友達が欲しいらしい。まだ若いのに、凄いよねえ。帰ってきたら紹介するよ!」


 こいつらよりはアクのないやつがいいなあ……

 そう思いながら、軌光は窓の外を見つめた。


 ――――――


「む……誰かが私の話をしている気がしますよ」


 エスティオン屋外競技場で準備運動をしながら、その少女は呟いた。猫のように柔らかい体を動かして飛び跳ね、音もなく着地。素の身体能力の高さが際立つ動きだ。

 同じ競技場内で彼女の動きを観察している黄燐が、眉間を揉みながら今日も健康なようで何よりだよ、と呟いた。

 突然だが、海華は幼女体型なのであの服装が許されている、というのはエスティオンでは常識だ。だからこそダメなのではないかという意見もあるが、あくまで服装は強要するものではない。

 だが、彼女は……ダメだ。海華のようなボディラインの浮き出るスーツを着た彼女は、戦闘スタイルがステゴロでの殴り合い。加えてその体型は、正にボンキュッボンの擬人化というのが相応しいもの。半分犯罪である。

 一部の男性職員から、熱烈な服装変更指示反対の署名が届くせいで服装を変えさせられないという裏事情がある。黄燐からすれば、頭の痛い話だ。組織の風紀が乱れる。


「なあ兎牙くん……辞めないか、その服装。男性職員から好かれるのは分かるんだが、少し刺激というかなんというか」


「動きやすいんですもん〜。というか! 私がダメなら海華先輩もダメだと思います! そこどうなんですか!」


「いや彼女は……はあ、いいや。聞かないのは分かってる」


 もう何度目か分からない説得に、また失敗した。

 名を【兎牙響ときばひびき】という。リィカネルのチームに所属してはいるが、階級はエスティオンにおいて最上位の神器使いであることを示す【最上第九席】の第八席。

 リィカネルの部隊にいるのは、本心から同年代の友達が欲しいからである。立場上周囲が歳上だらけの彼女は、どうしても青春というものを謳歌してみたかった。


「ほ、ほ。強情だの……若さかのう……ほほ」


 兎牙の対面に座する少女……否、幼女が口を開いた。口調は完全に老婆だが、その声や姿は海華のように若々しい。

 名を【斥腐黒雪せきふくろゆき】。兎牙と同じく最上第九席の一人であり、第九席に位置している。


「黒雪さんもまだまだ若いでしょ〜? っと、よし!準備出来ました! 私はいつでもOKですよ黄燐さん!」


「ワシもじゃよ。いつでも始められる」


 了解、と答えて黄燐はストップウォッチを取り出した。

 これから行われるのは、最上第九席二名による決闘。日頃の鬱憤を晴らすために模擬戦を開くのだ。ただ、周囲の施設への影響を考えてタイムリミットは五分とする。

 熱が入った時のストッパー役として黄燐がいるが、正直意味はない。寧ろ命の危険もあるので即刻帰りたい。


「じゃ、僕に気を付けて……始め!」


 空気の波が、押し寄せた。

 先手を取ったのは兎牙だった。幼女体型のくせにダボダボのローブや大きな樫の木の杖を持った斥腐は、その重みのせいで反応すら出来ない。兎牙の拳が顔面に迫る。

 だが。


「始められる……それは、少し誤りだったの」


 突如地面から手が生える。皮膚や肉を完全に失ったその腕は骨だけで構成されており、一本一本は脆いが視認出来るだけでもその数は百を越えていた。正に黄泉がえり。

 兎牙の腕を掴んだソレらは一斉に砕け散り、塵と化した。擬似的な煙幕。警戒しつつ兎牙が距離を取った。


「もう始まっている、と言うべきだったかの?」


 にたり、と笑った。兎牙も舌なめずりをしながら、一枚の札を取り出す。胸の前で構えて、斥腐を睨んだ。


「流石ですね……こうでなくては、面白くない!」


 大気そのものが揺れているように錯覚する気迫。

 終わった時、生きてられるかな……そう呟いて、黄燐は盛大なため息を吐いた。

 兎牙は神器の能力を使ってすらいない。

 第一の交錯。

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