1.『完全告知』のスキル。
(*'▽')応援よろしく。
「なぁ、ルーシー! 聞いてくれ!!」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
俺が貧困街にある家に帰ったら、出迎えてくれたのは色素の薄い髪色をした女の子。円らな黒の瞳に、愛らしい顔立ち。微笑んではいるものの、どこか元気のない印象を受ける。それはもとより身体が弱い影響であったが、俺の知る彼女――妹のルーシーは、そんな幸薄そうな子だった。
寝床で半身を起こして俺を出迎えた彼女に、こちらは鼻息荒く告げる。
「俺のスキルが進化したんだよ! これできっと、もっと金が手に入るぞ!!」
「そうなんだ、凄いね。……けほっ、こほっ!」
「あ……大丈夫か?」
しかし妹は対照的に、咳き込んで辛そうにしていた。
俺はそんな彼女の背中をさすって、落ち着くのをただただ待つしかない。
「うん、もう……大丈夫」
「そうか。最近、ずっとこんな感じだよな」
「えへへ……心配かけて、ごめんね?」
「ばーか、気にすんな。それよりも、水も買えない兄貴を叱れって」
貧困街の水質は、劣悪としか言いようがない。
贅沢を言っていられないと、そんな泥水を啜った奴らはみんな死んでいった。そんな水を病弱なルーシーに飲ませるわけにはいかない。
「ううん。お兄ちゃん、頑張ってるから」
だから己を叱咤する意味合いも込めてふざけてみたが、妹は柔らかく笑うとそう言った。やはり彼女はとにかく優しい。それに甘えている自分が、情けなくなるほどに。
しかし、そんな弱気を振り払って俺はゆっくりと立ち上がった。
「それじゃあ、軽くメシの準備するからな」
「うん、ありがと」
俺はそう告げると、そそくさと帰りに購入してきたパンの端切れを取り出す。飯の準備と言っても、パン屋のお恵みであるこれを出すだけだった。
だけど今日、職を失ったばかり。
スキルは進化したものの、次の職が見つかるまでは食い扶持も考えないといけない。
「さて、これとオマケでもらってたジャムを――」
そう考えつつ、ルーシーのもとへ戻ろうとした時だ。
【完全告知:間もなく悪漢が襲来】
そんな声が頭の中に、聞こえたのは。
俺は身構えつつ、そして思った。これが『完全な告知』であれば、悪漢が家にやってくるのは確定事項のはず。だとしたら、それに備えなければならない。
ここ貧困街では、他の家を襲うなんて当たり前にあることだった。
問題はタイミングが分からないことで、しかし――。
「ルーシー……ちょっと、隠れてろ」
「え……?」
「心配すんな、って。お前のことは、絶対俺が守るからさ」
「…………うん」
これならきっと、確実に勝てる……!
◆
「……あん? 誰もいねぇのか」
一人の男が、アビスたちの家に足を踏み入れた。
周囲を見渡すが誰もいない。これなら、今のうちに食糧を盗み放題だ。
「へっ……だったら、根こそぎ貰ってやるぜ……!」
見ればパンの切れ端に、安価ながらジャムがそのまま。
男はそれに手を伸ばそうとした。だがしかし、
「悪いけど、それは妹の大切な食事なんだ」
「なっ……!?」
突然に、背後から青年の声が聞こえる。
振り返ろうとするも、それより先に声の主の剣が走った。
「が、あ……!」
斬りつけられた男は、苦悶の声を上げて絶命する。
青年はそれを確かめてから、荒い呼吸を必死に落ち着けるのだった。
「ふむ、あの青年……なぜ、分かった?」
そんな二人の静かな戦いを遠くから、ただ眺める人物がいる。
綺麗な鎧姿のその人は、青年――アビスのことを面白そうに見つめていた。そして、たった一度の斬撃からこのように判断する。
「粗くはあるが、その下地には何かしらの流派がある。……気になるな」
声の主は、静かに言うとゆっくりと歩みを進めるのだった。
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