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何故小説家になろうで、サツマイモ無双は流行らなかったのか?

 本編を読んで下さった皆様は……サツマイモの歴史と、その栽培特性を理解して下さったかと思います。

 肥料がいらないし、水も少なめでも大丈夫、連作障害も起こらず、調理も簡単で保存も出来る。他の作物と比べて都合のいい特性が多く、総合的に見てチートと言っても過言ではない。そんなサツマイモですが、あまり小説家になろうで登場する場面がありません。

 原因ははっきりしています。本作のタイトルにある……『もう一つのチート芋』の存在です。恐らくは皆様の頭にある一つの作物、もっと言うなら芋が浮かび上がっているかと思います。小説家になろうで農業系の話が出てくる際……ほとんどの場合においてこの芋が顔を出します。今さら説明するまでも無いと思いますが、比較対象の作物の名を明確にしましょうか。


 そうだね『ジャガイモ』だね。


 中世ヨーロッパ風の世界観が土台の『なろう系』において、ジャガイモは違和感なく世界観と馴染むのと……実際にジャガイモは、中世ヨーロッパにて発展に大いに貢献した作物の一つでもあります。コイツが小説家になろうで大きく根を張っているので、サツマイモが陰に隠れているのでしょうか? ひとまず比較検証のためにも、ジャガイモの栽培特性についてまとめましょうか。


 ジャガイモの植え付けは……地域にもよりますが、関東の場合は三月と九月、つまり春先と秋口に栽培できる作物です。おまけに収穫までの時間が短く、植えてから三か月後に収穫する事ができます。ここはサツマイモと比べて、明らかな優位点ですね。一年の間に二回栽培できるジャガイモと、一年に一回の植え付けのサツマイモ。さらにジャガイモは、一度で収穫できる量も十分にあります。


 これは、サツマイモが横に広がる作物なのに対し、ジャガイモはそこまで横幅を取らない作物な所が大きいでしょう。その分、一度の畑に大量に植えることができます。

 じゃあジャガイモの完勝じゃないか……と思うかもしれませんが、実は難点もそれなりにある作物なのです。そのうちの一つとして『肥料を大量に要求する』性質を持っています。植える前に畑へ肥料を大量に施す必要があり、成長してきたら追加で肥料もやらないといけません。三か月の栽培期間ですが、総合的な肥料消費量は五か月かかるサツマイモと変わらない……いや、下手をしたらサツマイモ以上に肥料を使う作物なのです。

 それを踏まえても、一度の収穫量自体は多いですから『大量の肥料をブチ込んで、年に二回畑でジャガイモを育てていても採算取れる。だからウハウハじゃん!』と多くの人は考えるでしょう。ところがどっこい、ジャガイモは結構重めの『連作障害』が発生するのですよ。


 厳密に言うと、ジャガイモの仲間の『ナス科』の作物が、連作障害を持っています。ナスももちろん、ピーマンやトマトも『ナス科』に分類され……これらの作物を植えた土地で『三年から五年』の間は、ナス科の作物を育てるべきではないとされています。

 ジャガイモの場合……植えてから最低でも、六シーズンはその畑が使えません。しかもその間、上記に上げた『ナス科』の野菜は一切植える事かできません。幸い、本編でも書いたような方法……無数の畑で毎年植える作物を変える『輪作』という方法を取る事で、回避する事が可能です。

 これをおこたると……ジャガイモの場合、疫病が発生しやすくなります。植物の伝染病なのですが、ジャガイモは恐ろしい事に、あっという間に畑内で病気が伝染してしまうのです。これは大量に植えられたジャガイモが、遺伝的に同じな事が多いためですね。


 実際、中世ヨーロッパで発生した飢饉の原因は……ジャガイモ畑で疫病が大流行してしまい、畑のジャガイモが使えなくなったからです。ジャガイモはでんぷんを多く含み、炭水化物が豊富です。人が生きるために必要なエネルギー源となる作物ですね。実は、この飢饉の前にジャガイモが大量に栽培されたため、人々の栄養状態が良くなっていたから……その反動もあって、大飢饉が起きたとの説もあるようです。

 これが起きてしまった原因は、ジャガイモが新しく入って来た作物な点が大きいでしょう。ジャガイモの原産地はアメリカ大陸。つまり、まだジャガイモ栽培の経験値が足りなかったんです。連作障害なども、ジャガイモの疫病についても、ほとんど知らなかった。

 肥料は必要だけど、たくさん収穫出来て、年に二回栽培できるエネルギー源の作物。それが輸入されてとして、大量生産せずにいられなかった。だから『同じ畑でガンガンジャガイモを栽培して、結果として疫病が大発生してしまった』のでしょうね。


 ならば、ちゃんと輪作すればいいじゃん……と思うかもしれませんが、広い土地面積を持ってる農家ばっかじゃないのです。連作障害を発生させず、安定してジャガイモ農業を行うには……春と秋の六シーズン分の、ローテーションが出来る土地が必要な訳です。加えて、その間も豆や葉物野菜、根菜や小麦などを植えて、畑の活用計画を練らないといけません。面倒くさいですね。


 つまり総合すると、ジャガイモは栽培には多大なコストと計画が必要です。代わりに、短い期間で大量に収穫する事が出来る。

 対してサツマイモは、日当たりの良い土地さえあれば、後は細かい注意点はありません。肥料をやり過ぎない、水をやり過ぎない。注意点、以上! 連作障害も気にしなくていいし、病気や害虫も少ない。ものすごく楽な作物です。


 こうしてまとめると、ジャガイモとサツマイモは栽培特性が全く異なる事が分かります。

 注意点が多く、コストがかかり、栽培計画を練る必要があるが、それを遥かに上回るリターン……短い期間で大量に収穫を見込めるジャガイモ。

 栽培期間が長いが、栽培上の注意点がほとんどなく、初心者でも安心して育てられるサツマイモ。

 両方とも反則的特性を有していますが、反則の方向性が全然違う。一概に芋とまとめていますが、これを同列に語るのはナンセンスですね……


 さて、ここからが本題――『何故なろう系作品において、ジャガイモ無双は取り上げられるのに、サツマイモ無双は無かったのか』について、作者の考察を述べていきたいと思います。

 サツマイモがいわゆる『なろう系作品で流行らなかった』大きな要因は二つと考えます。

『主人公が、その後に関わる必要性が薄くなる』

『追放ざまぁ展開で、ジャガイモの方が使いやすい』

 この二つです。


 一つ目、主人公がその後に関わる必要性が薄い……と言うのは、サツマイモが簡単に栽培できる所でしょう。

 主人公がサツマイモを広めた。それまではいい。ですがその後、主人公が関わる余地が無い。何せサツマイモは、勝手にやっても簡単に育ってしまうのです。主人公が手取り足取り指導する必要も、注意点を指摘する必要性も薄い。

 半面、ジャガイモであれば……必要な事だからと、主人公が知識を『なろう系世界の住人』に教授する場面が作れます。チートスキル持ちの主人公であれば、ジャガイモが持つ様々なデメリットを踏み倒す事も可能でしょう。こうした面から見ても、主人公の必要性、必然性を演出しやすい作物な訳です。


 二つ目……『追放ざまぁ展開に、ジャガイモの方が都合がいい』と言う話です。

 ある程度農業無双が軌道に乗った所で、主人公が農業関連から追放されたとしましょう。その場合……ジャガイモでしたら『追放側が主人公の言いつけを破って、ジャガイモの連作を行い、結果として疫病災害を起こす』展開が使えるのです。実際に中世ヨーロッパで起きた飢饉ですし、話の展開として珍しくないでしょう。これがサツマイモですと、追放した側が高笑いして終わりになりかねない。

 総じて……初心者でも簡単に栽培できるサツマイモより、上振れも下振れも強いジャガイモの方が、なろう系の流行や展開に都合が良いのではないか? と考えます。


 以上! 作者の考察終わり! ここまで読んで下さり、ありがとうございました!


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[良い点] ジャガイモの方がナーロッパの世界観に合うとの北限の問題でしょうかねサトイモクワズイモサツマイモは日本でも北限がありますしね。サツマイモは最近は品種改良されて密が滴るような芋が人気ですけど仄…
[良い点] サツマイモは火山灰の積もった関東ローム層でもよく育つほか、江戸時代の富士山噴火の被災地でも作付できたみたいですね。 [気になる点] ジャガイモは芽の部分に毒があり、たまに小学校の調理実習で…
[良い点] サツマイモは芋だけではなく、葉や茎葉も食べれるので飢饉時には重宝するのには間違いがないですね。 実際戦時中にはすいとんにサツマイモの葉や茎葉をたべてましたし。 すいおうという葉や茎葉を食べ…
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