幸福時々恐怖、いずれは焦燥
「小説を書く上での要素ってなんぞや」という疑問を未だ解決せずに始めてしまった、自身の妄想が綴られた長ったらしい駄文です。
読む時は、小さい子供が親に話す夢物語を聞く感覚でお読み下さい。
そして、こんな無知な私に小説とは何かをできるだけ優しくお教えください。
夜が明ける音がした。
それは、赤ん坊の泣き声のような音だった。
夜が明ける音がした。
それは、鳥のさえずりのような音だった。
夜が明ける音がした。
それは、文明の拓ける音だった。
そしてまた、夜が明ける。
「兄ちゃん、おいっ兄ちゃん」
図太くも、甲高い声がする。
「よう兄ちゃん、よく眠れたかい。もうすぐスグリの村へ着くぜ」
眠い目を擦り、働かない脳を無理矢理回転させる。そうだった、スグリの村へ行くって言う行商人のオッサンに頼んで、積荷として乗せてもらってたんだ。
まともに整備されて無い道を進んでいるからか、馬車がガタガタ揺れている。幌のおかげで太陽の光が入ってこないからって、よくこんなとこで寝てたもんだ。
「おい兄ちゃん!お前さん何でスグリの村なんて辺鄙なところ行きてぇんだ?」
「そりゃぁ俺達は漂流者だからな、ドリフが漂流しなかったら何もんでも無くなったちまうだろ」
「漂流するっつってもこんな田舎にまで漂流しなくたっていいと思うけどな」
「別にどうだっていいだろそんなもん」
「ハッハッハ!違ぇねえ」
そう、俺達は漂流者、流れ者、行きてえとこに行き、やりてぇよォやる。誰も俺達の自由を邪魔させねぇ。
「うぅん…」
脇の下から声がした。
見るとよく光の反射する金髪に、透き通る様な水色の瞳、黒色のバンダナを頭に巻き付きた少女がこちらを抱き枕の代用品にしていた。
「おはようジョニィ」
年相応に少女は可愛らしい顔であくびをしている。
「おはようダニィ、もうすぐ着くってよ」
ダニィは「そっかァ」とうわ言のように喋りながらまた瞼を閉じた。
また寝やがったよコイツ…もういいや寝かせとけ。
馬車後方に垂れ下がったカーテンの隙間から、僅かに光が射し込む。
「なぁオッサン、俺たちどんくらい寝てたんだ?」
「アァ?どんくらいって1晩丸々よ」
そっか、それはそれは…どうせなら、オッサンの話し相手位にはなれば良かったかな。
目の前の木箱に、リンゴが入ってたから、オッサンに軽く会釈して勝手に拝借する。ちょっと酸っぱいがまぁイける。
射し込む光を眺めながらリンゴを噛じる。
なんだろう…砂埃が若干入ってきてるのに、めちゃくちゃ揺れて乗り心地最悪だってのに、妙にこの時間が心地よかった。
何でか気分が良い、だがしかし、そんな気分も時間も長続きしなかった。
一口、二口、よく噛んで飲み込み、三口目をいただこうとリンゴに歯を立てた時、急に馬車後方から強い風が吹き、カーテンを内側になびかせた。そのせいで若干飛んできた砂利が口の中に入ったが、それだけなら良かった。
見えた馬車の外側は、真っ暗闇の、夜だった。
カラスが鳴き、冷たい風が吹き荒れる。
何が起こったのか、一瞬思考が置いてけぼりになった。
揺れるカーテンから僅かに見える外には、追跡してくる灯りが見えた。それと共に蹄の音がした。
冷や汗が止まらない、灯りがだんだん近づいてくる。
意を決してカーテンを開くと、そこに居たのは、肉が削げ、内蔵の無い骨の馬とそれに跨る真っ黒な鎧を身に纏う骸骨の騎士…
「シルヴァーハントだ!」
宵闇に走る追跡者、シルヴァーハント。
生者の魂を求め、奪い、死者を鎮魂する、髑髏の騎士。
「クソッどっかに死体でも埋めてあんのか!」
こっちの馬車は積み荷が重すぎる。速度じゃあっちが圧倒的だ。
「うぉぉぉぉぉ!」
のどかな朝から一変して戦慄した夜になった。事態についていけずオッサンもパニックになる。操り手がそうなれば当然馬の方にそれが伝わってまともな制御が効かなくなる。
「オッサン落ち着け!」
マズイぞこいつァ…何とかしねぇと。
「ジョニィ!」
思考をかき消すかのようにダニィが叫んだ。咄嗟に振り向くとダニィがバッグの中から出したであろう銀貨をあるだけ左手に握っていた。そして右手にはボウガンを持っていた。
「ナイスだダニィ!」
銀貨とボウガンを受け取り、弾の代わりに銀貨をセットする。
照準は…馬ッ
打ち出した銀貨がシルヴァーハントの馬の膝を貫いた。
銀はあちら側へ干渉する器の一つ、弾としては最高だ。
撃たれた馬が、崩れ落ち、シルヴァーハントが前のめりに投げ出された。
これで後は夜明けの方まで逃げ切れば…
「ジョニィ!」
ふと、冷たい風が頬を撫でる。
考えるよりも先に身体が反応した。ボウガンに銀貨をセットして、もう一度シルヴァーハントへ照準を向ける。
だが向けた先には、崩れ落ちた馬の骨しか無かった。
ゾッとした。額から染み出た雫が眉間を流れ落ち、血の気が肩から腰へと抜けていく。
「おいオッサン!」
とにかくここから離れなければ、速度をあげるようオッサンに声をかける、がなんの返事もない、おかしい、それどころか声もしない。嫌な予感がする。
「クソッ」
馬車前方のカーテンを開くとそこにあの気のいい行商人は居らず、血の跡がベッタリとこびりついていた。そして、2頭いたはずの馬車を引く馬は1頭しか居らず、その唯一の1頭の首が無くなっていた。
もう1頭はどこへ行ったのか、その疑問はすぐに晴れた。
馬車の横から蹄の音がする。馬車を引いていた馬だ、だが肉も内蔵も無い、シルヴァーハントの野郎、馬を1頭奪って無理矢理憑依しやがった。
気付いた時には遅かった。力無く崩れ落ちる馬を轢き、馬車は慣性の法則で勢いよく暴走する。
「ダニィ!」
ずっと馬車にしがみついていたダニィの手を引き、抱きかかえて馬車後方へ脱出した。身体と地面が衝突し、衝撃が全身へ響き渡る。少しでも衝撃を減らそうと転がっていくが、それでも痛いものは痛い。幸い頭は強く打っておらずまだ意思がハッキリしている。軋む身体を何とか起こし、抱えるダニィを離した。
「ジョニィ…」
名を呼んで心配そうに見つめながらダニィは身体を支え、立つのを手伝ってくれる。
立ち上がり、顔を上げるとシルヴァーハントがハッキリとこちらを見つめていた。こちらもゆっくりと戦闘の体制に入ろうとした。
しかしシルヴァーハントは何をするでもなく宵闇の中へ走り去ってしまった。
夜が明け、光を全身に浴びる。鼻から息を吸い、肺いっぱいに溜め込み、口から抜けていくように吐き出した。
嗚呼…生きてる。生を心の底から実感する。
「ダニィ、大丈夫か?」
安堵からか気の抜けたような声が出た。しかし安心しきった俺を横目にダニィは別の方を向いていた。
「ジョニィ…あれ…」
ダニィが指さす方向を見たら、そこは道のない崖で、横滑りした馬車が、崖っぷちに倒れていた。
辺りには散乱したリンゴやら木箱やらがあったが、それでも全部じゃない、まだ馬車の中で転がっている物もあるはずだ。自分達の全財産が入ったバッグはもしかして…
あっ荷物あの中じゃね?
馬車が落ちるか落ちないかのギリギリで揺れている。しかし揺れる度に確実に崖下へ落ちようとしていた。
「おいおいおいおい!」
全力で走って手を伸ばすが、無情にも馬車は崖下へ転がっていった。
「嗚呼…やった…」
全財産丸々持ってかれた。一周廻ってむしろ清々しい。
ダニィは手を握り俺の顔を見て言った。
「お財布、バッグの中に入れっぱだ」
嗚呼…神様、ご先祖さま、俺はアンタらが大っ嫌いだ。
崖から見える景色には、美しい空と山々と森と鳥と、そして目的地の村があった。
ここまで読んでいただき、心から感謝申し上げます。
生きていれば、また続きをあげていくかもしれません。
全力を尽くした国語の課題の作文の評価が「今度はちゃんと頑張りましょう」だった者の作品です。
もし続くのであれば、読んで頂けるのであれば、その時はよろしくお願い申し上げます。