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知力99の女の子に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた  作者: 巫叶月良成
第6章 知力100の女の子に転生したので、世界を救ってみた
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終話

 長い永い。

 本当に永い夢を見ていた気がした。


 青空の下。

 大学への通学路をたどりながらそう思う。


 スマホで見るニュース欄には、様々なニュースが流れていた。

 交通事故から奇跡の生還を果たした母親が、愛娘との感動の再会。

 行方不明の松永製鋼の社長、発見される。

 女子水泳界に期待のホープ登場! 数年のブランクを感じさせない泳ぎでオリンピック候補!


 どこか見知った人たちの情報。


 夢かと思った。

 けど夢じゃない。


 むしろ今までが本当に夢だったみたい。

 ここには戦争がない。争いもそうない。

 何より、人を千切るような力はないし、両手にあった血の感覚もない。


 すべてがなかったような、嘘だったような想い。


 ふとすれば、何千人も殺した罪の意識も忘れてしまいそう。


 あんなにひどいことをしたのに。

 あんなに残酷なことをしたのに。

 あんなに許されないことをしたのに。


 それほど、ここの世界と向こうの世界はかけ離れていた。


 夜。眠るのが怖かった。

 目覚めたらまたあの世界で、人が嘘みたいに消えて行くかもしれないから。


 夜。眠るのが悲しかった。

 実はこれは走馬灯で、二度と目覚めることがないと思ってしまうから。


 夜。眠るのが楽しみだった。

 目覚めたらまたあの世界で、またみんなと会える。そんな気がしたから。


 けどそれはなかった。


 望んでいた平和な学生生活。

 それを満喫することもなく、ただただ時間が過ぎていくような、そんな感覚。


 達臣くんとも会った。

 会った、けど、特に何を話すこともない。

 色々あったからか、前より疎遠になったような気がした。

 友達に何かあった? と聞かれて返答に困った。


 それ以外は普通。

 前と変わらない。


 ただ――足りなかった。


 いるはずの人がいない。

 それが怖くて、悲しくて、苦しくて、耐えられなくて。


 何度も願った。

 いるはずのない神に、もういないはずの女神に、何より世界に。


 けど何も起きない。

 何も変わらない。


 もうこのまま、自分の人生には存在しなくなってしまって。

 その世界を生きていく私は、一体どうなってしまうのかと悩んだ。


 それでも毎日は消化される。

 何をしていても、何もしなくても、1分1秒がただただ無作為に消費されていく。


 もうこのまま彼のことを忘れてしまうのではないか。

 そう思うことが悲しくて、悔しくて、イラついて。

 それでも自分には何もできなくて。

 無力感に打ちのめされた。


 彼のいないこんな世界に意味はなく、彼のいない私の未来に意義はなく、彼のいない私は生きる意志を失いつつあった。


 そんな――ある日。


 人の影を見つけた。

 大学の構内。

 右手の指輪を眺めてぼうっとしている人影。


 冗談だろうと思った。

 嘘だろうと思った。

 夢だろうと思った。


 白昼夢で、ありもしない幻覚を見ている可能性すらあった。


 けど、いた。


 確かに、この場所に、この世界に彼は存在していた。


 それだけで、胸が熱くなる。


 あぁ、やっとだ。

 ずっと一緒にいたのに、何年も会っていなかったような感覚。

 あの時と、姿形は変わってしまったけど、いつもの彼が、そこにいた。


 走り出す。

 それに気づいた彼は、にこりと、あの少女のような笑顔でこちらを迎え入れてくれた。


 あぁ、この世界は、本当に素晴らしい。

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