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知力99の女の子に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた  作者: 巫叶月良成
第6章 知力100の女の子に転生したので、世界を救ってみた
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第41話 狙うべき相手

 雫の話からすれば、水鏡は東の本陣に九神らと一緒にいるという。

 そこにいる水鏡を助ける。


 それはこの戦いに単純に勝つより難しいと思う。


 とはいえ、この戦場は詰んでいた。


 それもそうだ。

 元々、シータ軍は俺たちオムカ軍の本隊がいない隙を突いての奇襲だったのだ。


 それが本隊が戻り防衛態勢を整えられ、さらに攻城の肝である大砲をつぶされ、そして北門を攻めていた旧帝国軍は潰走のありさま。

 この状況でもはやシータ軍に勝機はない。

 今も、散発的に弓や鉄炮に、ありあわせの投石器などで攻撃してくるが、防備に改修を入れた王都バーベルはびくともしない。


 加えてブリーダとクロエの騎馬隊が外にいて、防御の甘いところに奇襲を加えている。

 こういう時に備えて、王都周辺の各所に騎馬隊の休憩所として馬屋を設置しておいた。

 そこを補給基地としておけば、ブリーダたちも長期間、外での戦いが可能になる。


 だからもう勝てない。

 勝てないのに、今もまだ無謀な攻撃を加えてくるのだから腹が立つ。


 どんな状況にせよ、俺たちはもうすぐこの世界からいなくなる。

 なのに、こんな変な意地を張って、この世界の人たちの命を無駄にするなんて、許されることではない。


 本当に、九神はどうしてしまったのか。

 前に会った時はこんなではなかった。

 聡明で、先の見通しもできて、かといって戦いを好むような性格でもない。


 それが今になって。なぜ。

 こうも無駄で、愚かな行為を続けようというのか。


 あるいは、あの女神にそそのかされた結果なのか。


 何度か降伏勧告は行った。

 女神の取り決めがある以上、九神はどうしようもないのかもしれないけど、それ以外の特に無駄死にさせられる兵士にとっては、士気を下げるには効果的なはずだ。


 だが揺るがない。


 これで3日。


 もはや九神はどうしようもない。

 だからせめてこの戦いを早く終わらせて、水鏡たちを救う。

 そのためには、俺が外に出るべきだと考えた。


 すでにイッガーを放って、敵の本陣の位置は確認してもらっている。


「ジル、ちょっといいか」


 俺は東門で指揮を執っているジルを訪れた。


「どうしました、ジャンヌ様」


「今夜あたり、俺は外に出ようと思う」


「本陣を強襲するおつもりですか」


 さすがはジル。

 俺の一言で察してくれた。


「これ以上無駄な戦いは続けたくない。相手の国王を捕えればそれで終わりだ。すでにイッガーには外に出てもらっている。それで相手の位置は分かる」


 思えば、真田幸村(信繁)もこんな気持ちだったのだろうか。

 戦国時代最後の戦い。大坂夏の陣。


 すでに敗北間近の大坂勢は、敵軍総大将の徳川家康とくがわいえやす本陣に突っ込んだ。

 真田に匹敵する名将とされる毛利勝永もうりかつなが明石全登あかしてるずみらが敵の本隊を引き付けているうえでの乾坤一擲けんこんいってきの大勝負。

 家康を倒せれば、あるいは歴史が変わったかもしれない起死回生の一手だ。


 もちろん今回は、それほど切羽詰まった状況ではない。

 けど、この無闇な戦いを終わらせるにはこれが一番最適だと考える。


「敵は朝から夕方まで、前がかりになって攻めてきた。疲労も溜まっている今なら、ブリーダとクロエの隊で襲えば十分勝機はある」


「しかし、危険ではありませんか。あるいはおびき寄せようという罠かもしれません」


「分かってる。無理と分かったら引くさ。けど本陣が狙われると分かれば、もっと防備が厚くなって攻め手が減る」


「そうですね。ジャンヌ様の策に遺漏があるわけがありませんでした」


「そうでもないさ。みんなが支えてくれたから、結果的にそうなっただけだよ」


「その謙虚さが、私が惹かれたジャンヌ様ゆえんです」


 こいつ。

 さらっと恥ずかしいことを言う。


 本当に、そういう想いは置いてきたはずなのに。

 この状況に至ってもなお、俺の心をざわつかせる。


 ただ、それをジルに気づいてほしくなかったから、俺は視線をそらし、


「じゃあ、準備してくる」


「ジャンヌ様」


「ん?」


「ご武運をお祈り申し上げます」


 ジルが柔らかく笑い、そう言った。


 一瞬、何かを言おうと思った。

 けど言葉が出てこなかった。


 だから俺はそれに、しっかりと頷いて答えた。


「ああ、行って来る」


 それから夜を待って、俺はイッガーの手引きで王都を出ることにした。

 里奈とサールは留守番だ。

 速度を活かした騎馬戦の戦いになる以上、彼女らではその速度についてこれないからだ。


 城門から離れた隅に、ちまっとある扉。

 小柄な人間が這い出れるくらいの小さなもので外に出るらしい。


「こんなところ、良く作ったな」


「何かあった時のために。自分だけなら、気づかれないですし」


 まぁそれが今や功を奏したわけで。


 そのまま城の外に出て、堀を越えて、俺は敵に見つからないよう、迂回してクロエたちの待つ補給基地に立ち寄った。


「誰?」


「マール、俺だ」


「あ、隊長」


 そこにはウィットとマールの組が野営していた。

 俺はそこからクロエとブリーダの隊に伝令を飛ばし、全員がそろったところで軍議を始める。


 あらかたの策を伝え終わり、俺は最後にこう告げて締めた。


「もう皆の命は要らない。生きて、勝って、この長い戦いを終わりにしよう」


 俺の言葉に、みんなが覇気を出してで答える。

 それがなんとも頼もしかった。

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