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知力99の女の子に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた  作者: 巫叶月良成
第6章 知力100の女の子に転生したので、世界を救ってみた
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第37話 気配

「隊長殿!」


 昼過ぎ。

 もう少しで王都というところで、急にクロエが馬を寄せてきた。


「どうした、クロエ」


「……いえ、その」


「なんだよ、お前らしくないな。いつもならワイキャイ騒いでるだろ」


 変に口どもるクロエに、少しからかいの言葉をかける。

 だがその時のクロエは少し変だった。


「なんか、嫌な感じで……」


 額に眉を寄せ、言いたいことがあるけど言葉が出てこないようなそんな雰囲気。


「里奈?」


 俺は逆側で馬を走らせる里奈に聞く。

 すると、里奈はすぐに頷いて、


「うん、そうかもしれない。嫌な感じはする」


 うちの直感で生きる2人が嫌な予感を感じた。

 それだけで警戒するには十分な理由だ。


「全軍、速度落とせ。休憩に入る」


 俺は部隊を止め、ひとまず休憩を取らせる。


 その間に、考える。

 嫌な予感の正体を。


「あ、その。すみません。変なこと言っちゃって」


「いや、いい。その感覚は大事にしたい。よく言ってくれた」


「あぅ……隊長殿に褒められた……」


 こういうところはいつも通りだな。


「ぶー、いいなー。明彦くん、私にも、私にも」


「はいはい、ありがとうな」


「えへへー」


 はぁ、里奈も色んな意味でいつも通り。


 どのみち、王都に入る前に一度、休憩を入れるつもりだった。

 いくら王都が危険だからって、急ぎ過ぎてへばった状態で援軍に来ても意味はないのだ。


 とはいえ、ここまで直感で生き抜いてきたようなクロエの勘を、無視するほど俺はお気楽主義ではない。


「気になるのは王都の方か?」


「あ、はい。そうです。けど、ちょっとずれてるというか……うーん、よく分からないです」


 よく分からない、けどそれは間違いなく何かが“ある”ということ。


 俺は『古の魔導書エンシェントマジックブック』を展開した。


 王都バーベルまであと20キロという距離だ。


 四角の形をした王都の四方を、これまで友軍だった黄色の光点が包囲している。

 北が空いているのは、俺の知らない軍がいるからだろう。


 その中。

 白の光点が王都から離れた場所にいくつかある。


 帝国軍だ。


 だがそれは王都から北西に5キロほど行った場所。

 なぜそんなところに帝国軍がいるのか。


 考えられる1つは、帝国の残党。

 王都を攻囲するシータ軍と俺たちの戦いで疲弊したところを、横から殴りつけて両軍を壊滅させようと狙っている。


 だがその可能性は低いだろう。

 それにしては位置が中途半端なのだ。


 王都から5キロ先に宿営するには、距離が近すぎる。

 シータ軍も馬鹿じゃないから、俺をはじめとするオムカの援軍が来ないか周囲に斥候は放っているだろう。

 それで見つからないような位置関係ではない。


 なら可能性としてもう1つ。

 ある意味最悪で、ひどい悪夢を見ているようなそんな展開。


 シータ軍と帝国軍残党が手を組んだ。


 それ以外、この位置に帝国軍がいる理由がない。


 そしてさらに思考を進めれば、この位置にいる軍勢の目的もすぐに見えてくるはずだ。


 俺たちを殺すための伏兵だ。


 慌てて帝都から引き返してきたオムカの援軍を、途中で襲うための伏兵以外にこの軍勢の使い道はない。


「なんてこった……」


「どうかしましたか、隊長殿?」


 覗き込んでくるクロエ。

 まったく、これをこいつは直感で言い当てたんだからな。


 本当に大した奴だ。

 思えばこいつとも長い付き合いだ。

 出会ってきた連中の中で、もしかしたら一番一緒にいた時間が長いのかもしれない。


 最初は最悪だった。

 反抗心丸出しで、部隊の輪を乱そうとしている感もあった。

 けど、そこから色々と時間を過ごすにつれて、一緒に過ごすにつれて、お互いが分かりあえた気がした。


 ……まぁ、こいつのちょっと変なところは辟易してるけど。


 それでも、それ以上に俺を救ってくれたことは間違いない。

 物理的にも、精神的にも、空腹的にも。


 本当に、こいつと出会わなければ。

 あるいは、この世界での暮らしも、もっと辛かったかもしれないな。


「? 隊長殿?」


 俺がいつまでも答えないのを不審に思ったクロエが首をかしげる。

 いや、無意識に笑っていたからかもしれない。


 声に出さず、思わず頬が緩んだ。


 本当に、こいつは……。


 だから、感謝の意味も込めて、クロエの頭に手を置くと、


「お前と出会えて、本当に良かったってことだよ」


 そのままくしゃっとクロエの髪を撫でてやる。


 本当に、最初から最後まで色々と世話を焼かす奴だ。

 それがこんなにも頼もしくなってくれるとは。


「は、はぅぅぅぅ!! た、た、た、た、隊長どのぉぉぉぉぉ」


 クロエがとろけそうな表情でうっとりしている。

 ここまで変態だったか。


「明彦くん、私も、私も!」


「はいはい、あとでな」


 里奈は里奈で本当に変わらないな。

 いや、こいつが一番変わったかもしれない。

 だって、元の世界ではこんな感じじゃなかった。


 本性が出てきたのか。

 あるいは、別の精神が表に出てきたのか……。


 煌夜め。

 俺に厄介な宿題を押し付けて逝きやがって。


 ……ま、いいさ。

 ここまでこの体でこの世界を生きてきたんだ。

 その最後の時まで、せいぜい軍師らしく知恵を絞らせてもらうさ。


「ウィットに伝令! それとその後ろから来てるだろうアークにも伝えろ!」


 ひとまずそのことは後回しにして、今のことを対処に走る。


 待ち伏せする敵。

 こちらの部隊は別れている。

 だが、おそらく相手はこちらが伏兵に気づいているとは思っていないだろう。


 なら、やることは1つ。


「誰だか知らないけど、今の俺は負ける気がしない」


 もとより負けるつもりはない。


 マリア、ニーア、ジル。みんな。

 王都にいる人たちを助け、あの女神に決着をつけるその時までは。

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