第28話 会見の申し入れ
「赤星煌夜として、写楽明彦に会見を申し入れる。承諾なら明日の朝に東への包囲を解いてもらいたい。その先にあるつぶれた教会で待ちます。お供は立花里奈さんのみを許可します。女神の介入はさせませんので安心しておいでください」
手紙にはそんな内容の文言が書かれていた。
内容に対し、皆は何も言ってこなかった。
危険だとかやめろとかの言葉も、もはやない。
もう俺が行くことを決めていると知ったからだろう。
だから口をつぐみ、俺にやりたいようにやらせている。
1人を除いては。
「なーなー、会見ってなにすんの? 今更、命乞いとか? いや、もしかしたら殺されるかもよ? 煌夜ってめっちゃ強いんだぜ? そんなひょろひょろの体なんて軽く折るかもよ?」
尾田張人がにやにやしながらそんなことを言ってくる。
「ちょっと黙って」
「へーい、リーナちゃん。俺はいつまでも君の味方だよ」
「なら今すぐ出て行って」
「それは断る。君の味方だけど、こっちのジャンヌ・ダルクの味方じゃない。だから君らがいちゃいちゃするのを全力で防ごうと思ってさ」
別にイチャイチャするつもりはないけど、こいつがまだ里奈にちょっかい出そうとしているつもりなのはイラっとくる。
「ふーん、俺の敵ってことはつまり捕虜ってことだよな。ならヨジョー城とかに送って地下牢とかに監禁させようか。食事もうんと質の悪いのに減らして、いや、しばらく抜きでも生きてられるよな、水さえあれば」
「はい、嘘です。俺はリーナちゃんとジャンヌ・ダルクの味方! ほれじゃあお邪魔虫は退散しますよっと」
こいつ……本当に図々しいな。
いや、これくらい図太くなきゃ、生き残れないのかもしれない。
と、立ち去ろうとした尾田張人が、ふと思い出したようにこちらに振り向き、
「あー、そうそう。最後に忠告しとくよ」
「ん?」
「煌夜をあまり舐めない方がいい」
「それは分かってるよ。前も痛い目にあったしな」
「違う違う。俺が言ってるのは、彼の執念ってこと」
「執念?」
「そう。女神に対する執念。なんでも聞けば、あのプライドの高い煌夜が、騙されて利用されてわけじゃん? それ以上に理由があるかもしれないけど、少なくともそういったことを許す奴じゃあないね。だからこれは忠告。会談で殺されることはないとは思うけど――煌夜の執念に呑み込まれないようにね?」
「…………呑み込まれる?」
「ふはっ、いい顔になったじゃん。じゃ、そういうことでー。リーナちゃん、今度デートしようねー」
へらへらと笑いながら、ひらひらと手を振って出ていく尾田張人に、俺は困惑の視線を、里奈は敵意の視線で見送った。
けど、赤星煌夜の執念。
確かに前に話をした時、その女神に対する執念というか憎悪は激しく感じていた。
けどそれに呑まれるとはどういうことか。
「明彦くん、どうする?」
里奈が少し不満げに、心配そうに聞いてくる。
目を閉じて考える。
けど、方法は1つしかない。
「いや、行くしかない。たとえ何を言われようと、俺は赤星煌夜に会わないと」
この戦いをどこまでやるのか。
迷っていたところに来た、会見の申し入れ。
一度、いや、最後に本音で語り合う時が来たのかもしれない。
心を決めた俺は、ジルに会いに行った。
「行くのですね」
「ああ。だから明日の朝、東の部隊を下げてくれ」
「分かりました」
「……止めないのか?」
「止めても無駄でしょう。それとも、止めてほしいのですか?」
「そういうわけじゃ……」
ならどういうわけで俺は聞いたのだろう。
それはある意味、ジルを馬鹿にしているような気がして気がとがめた。
「ごめん」
「ジャンヌ様が謝る必要はありません。それでは、お気をつけて。リナさん。どうぞ、ジャンヌ様をお願いします」
「はい、命に代えても」
里奈がうやうやしくジルに頭を下げる。
それを見てふと思ったことがあり、ジルと離れてから聞いてみた。
「なんか煌夜の手紙で色々怒ってたけど、ジルはいいのか?」
「ジーンさんはいい人だもん」
「それじゃあ煌夜は悪い人ってか?」
「んー、そういうのじゃなくて。なんていうのかな。ジーンさんは決して明彦くんと同じ以上の立場にならないから。安心していられるのかな。忠実な執事みたいな感じで」
「あぁ、そういう……」
まぁ確かに執事だよな、あれは。
本来俺より立場は偉いはずなのに。
「ま、そういうところも含めて、明彦くんの魅力がすごいということで! うふふー、それじゃあ明日に備えて一緒に寝ようか!」
「寝ない!」
緊張感がなぁ……。
まぁ堂島元帥を倒したことでへこんでいた里奈が、形だけでも元気になってくれたということで。
それは歓迎すべきこと、なんだろう。
ともあれ、明日。
この俺たちの命運が決まる。




