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知力99の女の子に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた  作者: 巫叶月良成
第6章 知力100の女の子に転生したので、世界を救ってみた
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第24話 最後の策

 戦況は優勢だった。

 思った通り、相手は弱点の左翼を狙ってきた。


 だからこそ、俺は中央と左翼の南群の兵を入れ替えた。

 もちろん兵数が増えれば見抜かれる可能性があるので、左翼に回したのはジルが率いる本隊1万とクルレーンの部隊だけだ。


 もちろんそれだけだと兵力差で不利になるアークに1万の兵を、敵が突っ込んできたら移動して敵の横を突くよう命じていた。


 問題は中央軍だったが、そこは守備に徹するようにお願いした南群の兵が必死に頑張っていた。

 初日に見たあの敵前衛とは思えないほど勇敢な戦い方だったが、守備に徹したタキ隊長はなかなか崩せない。

 そこにシータ軍が横から突っ込んで一気に戦局は逆転している。


 こうなった一番の要因は、相手が弱いからだ。

 強いけど、弱い。


 それはそうだろう。

 なぜなら彼らは朝食を抜いた状態でここにいるのだから。


 今やもう日が中天に登ろうとしているころだ。

 早朝にたたき起こされて、満足な準備もないまま出撃。

 それから数時間待機して、ようやく開戦という時にはすでに空腹を覚えているはず。


 空腹で、しかもこの炎天下で動き続ければ、疲労は倍増、力も出ない。


 これこそがプブリウス・コルネリウス・スキピオがカルタゴ軍をイリッパの戦いで破った作戦だった。

 連日の対峙で体力を消耗させておきながら、早朝の奇襲で敵に朝食を取らせないまま再び対峙。

 時間と共に空腹に悩まされた敵は次第に弱体。

 対する味方には朝にいっぱい食べさせていたこともあり、体力の差がはっきりと出て敵の方が多いにも関わらず大勝したとされる。


 戦いは質や量だけでないことを考えさせる代表的な例だろう。


 ただここまで来てようやく勝ちの目が見えてきた程度。

 一番の問題は、あの人物がまだ動いていないこと。


 元帥の軍は『古の魔導書エンシェントマジックブック』でしっかり見えている。

 相手の後衛。そこからまだ動いていない。


 このまま動かないつもりか。

 いや、そんなはずがない。


 おそらく今は戦局を見極めようとしているところ。

 動いたのなら、一気にがぶりと来るはずだ。


「明彦くん」


 と、そこで里奈が馬を寄せてきた。


「来るか」


「うん、来る」


 里奈が感じ取ったのなら、そうなのだろう。

 ジルといい、こういった感覚はよく分からないけど、実際に戦ったことのある人ならではの何かがあるのだろう。


「クルレーン、竜胆!」


「はいよ」


正義ジャスティス!」


 竜胆に危ないことをさせるのは気が引けたが、本人が立候補したのだから無茶されるよりは管理下で動かした方がいいと判断。

 なるべく矢面に立たせないよう気を配ってやるしかない。


「行けるな」


「ああ、クライアントの面目は潰さないさ」


正義ジャスティスのため、精一杯ぶちかましてやります!」


 いかにも仕事人風のクルレーンに、いつも通りの竜胆だ。頼もしい。


「明彦くん、来る!」


「分かった!」


 地図を見る。

 確かに元帥を示す光点が動き出した。


 それは反時計回り、すなわちこちらに向かって来る。


「左だ。クルレーン、くれぐれも頼む」


「了解した。しっかりこの嬢ちゃんと一緒に戻ってくるさ」


 言わずともクルレーンは竜胆の身の安全について請け負ってくれた。

 さすが仕事人にして伊達男。


 2人が頷いて軍の左側に展開する。

 その間にも戦局は動いていた。


 動き出した元帥の軍は、左回りに来る。


 そのまま元帥の軍は、味方と押しあっている俺たちの前衛は無視して、そのままここ本陣に向かって突撃してくるコースを取る。

 先日と同じ、本陣への強襲。


 それは効果的なのは間違いないが、言ってみれば来るタイミングと場所が分かっているから対処しやすいということ。


 元帥の部隊が俺たちの側面を突く、その直前。


 噴水が、水が天高く噴き出した。


 竜胆のスキルによるものだ。


 それによって辺り一面がぬれねずみになる。

 去年、大将軍との戦いで使った水による妨害。


 騎兵は馬の脚が命。

 地面が濡れれば土はぐちゃぐちゃになり、草も滑るようになる。


 そうすれば転ばないよう、速度を落とさざるを得なくなる。


 さらに竜胆のもう1つのスキルで突風を巻き起こし、敵の勢いを殺した。


 そこを狙い撃つ。


 ダダダダンッ!


 ぬかるみと突風で脚を落とした騎馬隊に対し、クルレーンの鉄砲隊が火を噴いた。

 さらにすぐにジルがそちらに向かって防御態勢を取る。

 帝国軍との戦いは有利に展開しているから、その分、こちらに防御の構えを取る余裕ができたのだ。


 これで本来の策に移ることができる。


 これまでの対陣も、早朝の奇襲も、水軍の撃退も、元帥への対応も。


 すべて、この策を完成させるための準備でしかなかった。


「鉦、鳴らせ」


 命じた通りに鉦が鳴った。


 それによって起こる事象は2つ。

 北西の森に潜んでいたクロエとゴードンが、森を飛び出して帝国軍の後背を襲いだした。

 それから東に展開していたブリーダの5千がシータ軍の背後をぐるりと回って、北東方面からこれまた敵の後背を襲った。


 急に背後を襲われて、敵は慌てて迎撃するも、次第に押されていく。


「完成だ、包囲殲滅……!」


 若干変則的だが、包囲殲滅の形になった。

 あの芸術的なハンニバル・バルカのものとは、似ても似つかない未熟な形だけど、それでも包囲は包囲。


 敵は前後左右から攻撃を受け、次第に輪を縮めていく。

 本来なら中央突破とかを図れるはずが、相手は朝食を抜いて力が出せない状態。

 すでに一時間近くも動き続けているのだから、相手を倒そうという気概があっても体がついてこないはずだ。


 頼みの綱の元帥軍も、クルレーンの鉄砲により大打撃を受けている。


 だがもちろん、相手を殲滅することが目的じゃない。

 さすがに5万もの人の死を受け入れられるほど、心は強くない。


 囲師必闕いしひっけつ

 孫氏いわく、囲んだ敵は必ず一方向を開いたままにしろ、だ。


 そう、方位は完璧じゃない。

 北と東、南はふさがっているが、西へは逃げられる。


 そちらへ行けば逃げられる。

 それが分かって踏みとどまって戦う敵はいないだろう。


 だからそちらに追いやるのが一番。

 それで崩れれば、あとは勝ちも同然。


 そして現実にそうなった。


 敵の一部、俺たちと戦っている敵主力が西方向へと逃げ出した。

 それでもごく一部。

 その他はまだ諦めていないように、あるいは逃げた部隊を守るように、こちらとの戦いをやめない。


 その意志の強さ、忠義心、見上げたものだがさっさと逃げろと心が急かす。

 こんなところで無駄死にすることはない。

 逃げることは何ら屈辱じゃない。

 生きる方が、諦めて死ぬより何倍も、何十倍も素晴らしいことなんだ。


 そうやって生きて、生きて、生きてきた俺が言うんだから間違いない。

 それをなんでわかってくれない!


 だが戦況は思い通りにいかず、刻一刻と死骸の山を築いていく。


 ならあと一押し。

 最後のこの攻撃をもって、相手の意志を打ち砕く。


 多くの犠牲が出るかもしれないが、敵が全滅するまで戦い続けるよりはいい。


 だから最後の策を伝えるため、旗を振ろうとして――


「尾田張人の命令を聞け!」


 声が聞こえた。


 今、確かに言った。

 尾田張人と。

 場所は東、中央軍の方。


 そこに、あの尾田張人がいる。


 一体、何を言い出すのか。

 ごくりと、唾を飲み込んだ。

 それに続く言葉次第で、さらなる激闘が予測されたからだ。


 そして、彼は言った。


「全軍――武器を捨てよ!」


 ――え?


 武器を、捨てよ?


「帝国軍総大将代理の俺が命じる! 帝国軍は武器を捨て投降しろ! オムカ軍! ジャンヌ・ダルク! 我々は降伏する! これ以上の死者はいらない! 戦闘停止だ!」


 どういうことだ?

 降伏? 戦闘停止?

 終わった?


「明彦くん」


「あ、ああ」


 里奈に呼ばれ、止まった思考が回りだす。

 どういうことだ。

 あちらからそう申し出てくるとは。罠か?


 考えは走り出す。


 逆に戦場は止まっていた。

 誰もが突然の申し出に対し、いや、申し出というか命令に、敵も味方も戸惑っている。


 だが先に事象が来た。


 ガランガラン。


 鉄の重なる音が響く。

 何が起きたか一目瞭然だ。

 敵がすべて武器を捨てた。


 あ、そういえばあいつのスキル。

 プレイヤー以外に絶対遵守の命令を与えるスキルだ。


 もう罠とか言っていられない。

 相手が武器を捨て、行動を示した。

 ならもうこれで終わりにしないと。


「ジャンヌ・ダルクの名のもとに、その降伏、受け入れる!」


 だが、俺の声では戦場の隅から隅まで届かない。


「全軍、声を出してくれ。その降伏受け入れた!」


 俺の言葉に従って、兵たちが声を放つ。

 その間に、ブリーダ、水鏡、アズ将軍、ゴードンに伝令を走らせる。


「……勝った、のか」


 戦いは終わっていた。

 敵は武器を捨て、こちらは武器を持って包囲している。


 その状況になって、初めて実感する。

 終わった。

 勝った。


 あまりに唐突で、あっけない結末といえばそうだが、包囲した時点で相手は逃げるか降伏するかせん滅されるかの3択しかなかったわけで。

 ある意味、相手が利口で、最後の選択肢を選ばなくてホッとしているところもある。


 あいつに助けられたな。


「明彦くん、ちょっといい?」


「どうした、里奈」


 相手の降伏とはいえ、まだ相手は4万ほどいる。

 武装解除したとはいえ、尾田張人が急激に変心して油断したところを襲い掛からせることもあるから、完全に安心してはいられない状況だ。


 まさかこんなところで空気を読まない発言をするとは思えないが、それ以上に真剣な面持ちの彼女に言葉を失う。


「来るよ」


「え」


「あの人は絶対来る。だから迎え撃つ」


 あの人――元帥か。

 間違いない。

 里奈がこういう言い方をするのは彼女しかいない。


 この状況でも来るのか。

 全軍が降伏した中でも。


 項羽の再来。

 5万に対し、1人で勝てるというのか。


「ヤバい! ジルに1万を左に向けるよう言わないと!」


「間に合わない。だから行くね」


「っ、里奈!」


 馬を走らせる里奈を追うか、ジルのところへ伝えに行くか。

 その迷いが、判断を遅らせる。


「ええい、くそ! オムカ軍、9時方向を警戒!」


 旗を振り、叫ぶ。

 それでどうなるか分からないが、少なくとも――すべてにおいて遅かったことは間違いなかった。


 オムカ軍の左翼が爆ぜた。

9/3 タキ将軍戦死にかかわる不整合修正のために一部修正しまいた。

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