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知力99の女の子に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた  作者: 巫叶月良成
第6章 知力100の女の子に転生したので、世界を救ってみた
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閑話12 澪標愛良(エイン帝国プレイヤー)

 もうなりふり構っていられなかった。

 帝国のプレイヤーである赤星煌夜という人物に拾われ、もはや私はオムカの敵となった。


 もう後戻りはできない。

 だから煌夜が前線に出ると聞いて、オレも志願した。


 愛梨沙に会うためなら、なんだってする。

 そして自分が手伝えるとしたら、もうこれしかない。

 痛みすぎた特攻服は修繕が間に合わず、今はパンツスタイルのそこらの一般市民と変わらない服装でついていく。


 けど、無理だった。


 最初の鉄砲の轟音。

 そして突っ込んでくる馬群。

 剣や槍で殺し合いを始める男女。


 それを少し離れた安全な本陣で、煌夜と一緒に見ていただけで、完全に気後れした。


 自分には戦える技術もスキルもある。

 けど今からあの中に突っ込んで、敵を殺してこいと言われたら、そう考えただけで足がすくむ。


 チームの抗争がおままごとに思えるくらい、本当の戦場は違った。

 血と泥と臓物にまみれた空間で、どうして正気を保っていられようか。


 いや、彼らは一概に狂っているのかもしれない。

 そうでなくては、あんなところに1秒だっていられやしない。


「大丈夫ですか、愛良さん?」


「……あ、ああ」


 そう答えるものの、たぶん外から見たオレは、蒼白で今にもぶっ倒れそうな顔をしていたのだろう。


 戦い自体は一瞬で終わり、こちらの負けということで元にいた城に戻る。

 その後、軍の偉い人――これもプレイヤーらしい――が敵陣に突っ込んで敵将を殺してきたと聞いて、もう無理だと思った。


 その偉い人、元帥と呼ばれた人に紹介された。

 けどあんなに細くて華奢な見た目の人が、3千で数万の敵がいる中に突っ込んでいったというのだから、もう何もかもが分からなくなった。


 オレの居場所はここにはない。


 情けないが、それが本心だった。


 だから煌夜にそれを申し出ようとして、やめた。

 さすがにそれを口にするのは格好悪いと思ったからだ。


 けど、そんな時に声をかけられた。


「もしよければ、1つお願いできませんか?」


 そう言ってきたのは、煌夜と対等に話をする椎葉という男だった。

 物腰の柔らかな、どこにでもいる学生という雰囲気。


 けど、なぜか失踪した前の夫を思い出した。

 印象があるわけじゃない。

 ただ、どこか果てしない違和感。

 一言でいえば、信用ならない。


 けどここでノーと言える立場じゃないことは、自分がよく分かっている。


「なに、難しいことはありませんよ。貴女は彼女を王都へ送ってくれればいい。一時期とはいえ住んでいたですから」


 そして紹介されたのが、クリスティーヌとかいうお嬢様とアランという無口な執事っぽい男。

 彼女たちもプレイヤーというが、どうも不可思議な組み合わせだった。


「それでですね。その時、煌夜様が声をかけてくださったのです。貴女は夜空に輝く星だと。その力を、私のために使ってほしい、と! ええ、もう。淑女レディたるわたくしはもう、このお方のために死のうと思ったのです!」


 王都までは馬車で進む。

 およそ2日とのことだけど、正直閉口した。

 移動の最中、口を開けば煌夜様煌夜様。


 あんな、なよっとした男がそんないいかねぇ。


 さらには、あの負傷した元帥とやらにもご執着のようで、


「ええ、あのお方を傷つけた相手は八つ裂きにしても収まりません! 捕まえたら、アランに命じてクロコダイルのアリゲーターちゃんの餌にしてもらいましょう。ええ、今のわたくしはもう怒り心頭ですもの!」


 なんてことを微笑みながら言うんだから、もう勘弁してくれって感じ。


 もう1人の執事っぽい男は完全に無口で、お嬢様の背後に物言わず鎮座している。

 そしてお嬢様のお茶が欲しい、お菓子が欲しい、疲れたからマッサージしてくれという要望に、文句も言わず応えるのだ。

 正直、ティーセットとかクッキーとか、どこに持っていたのだろう、と思う。


 そんな精神的疲労と気苦労しかない旅程を終え、一か月ぶりに王都バーベルへと帰ってきた。


 門は開いていた。

 前もそうだった。

 今、帝国軍がなだれ込もうとしているのに、この警戒心のなさ。

 あるいは開き直っているのだろうか。


 馬車を降りて、ひとまず宿を取る。

 木製の安っぽい宿の2階。

 クリスティーヌは、淑女レディが泊まる場所じゃないとぶつくさ言っていたけど、路銀がないのだから仕方ない。


 ここは南門の近く。

 北門は帝国に近いぶん変な詮索がありそうで、東門は孤児院があるから避けた。

 さすがに知人に会うわけにはいかない。


「で? これからどうすんだ?」


「知れたこと。堂島様を傷つけた愚か者たちに、死の裁きを与えてやるのです。うふふ……どうしてくれようかしら。まずはそこかしこに放火して、大混乱に陥れ、それからアランが王宮に忍び込み、ターゲットの女王陛下を抹殺するのが良いかもしれないわね」


 怖っ。

 てかこれってあの椎葉ってやつのたくらみか?


 放火とか抹殺とか。

 こいつらが正常なのか? それとも自分がおかしいのか?


 ふと彼女を思い出す。

 あの小さくて、愛梨沙に似ていて、どこまでも一生懸命だけど、優しすぎるがゆえに正常と異常の間に板挟みになっていた彼女を。


 ……いや、やめよう。

 今はもう。やれることをやるだけだ。


 しかしその前にこの潜入作戦。人選があるだろ。

 この明治大正時代から出てきたドレス姿のクリスティーヌに、無駄ないイケメン執事の2人組。潜入にほど遠い格好しているからな。


 そしてその不安は的中した。


「御用改めである! ここに珍妙な格好をした2人組がいると聞いた! ゆえに御用改め、御用改めであーる!」


 階下からそんな怒声が響く。


 まずい。

 御用改めが何の意味かは分からないけど、会話の内容から、こちらに好意を抱いている相手とは思えない。

 いわば警察サツの類か。


「おい、逃げるぞ」


「は? なぜです?」


 心底意味が分からないという風に首をかしげるクリスティーヌ。

 アランとやらは人形のようにその背後で無口。


 あぁ、くそ。そういうことか。

 なんでオレなんかがこの2人に付き合わされているかと思ったけど、道案内なんて方便。

 文字通り世間知らずのお嬢様の、世話役メイドをしろってことかよ!

 くそ、こんな一児の母がミニスカート履いておかえりなさいませ、とか言ってやるか!


「そこにいるのは分かっている! 手向かいいたせばたたっ斬る!」


 なんて考えているうちに逃げ時を失った。


 どうする?

 窓から逃げるか。いや、このお嬢様の格好じゃ窓なんて無理。

 そもそも時間がない。


 ならオレだけ……はない。

 いくらなんでも、ここでオレだけ逃げるとか、そんな卑怯な真似、愛梨沙に誓ってできない。


「迷うことはありませんわ」


 そんなオレの煩悶をよそに、すました表情で、いつの間にかティーカップを片手に椅子に座っていたクリスティーヌがそう言って微笑む。


 その余裕、なぜか寒気がした。


「突入!」


「アラン、やってしまいなさい」


 ドアが激しい音とともに開け放たれるのと、クリスティーヌが叫ぶのが同時。

 そこにもう1つ動きが加わる。


 これまで一言もしゃべらず、お嬢様の影のように立っていただけの執事が、まさに目にもとまらぬ動きで、ドアを蹴り破って入ろうとした男に激突した。


「ぎゃっ!」


 男の悲鳴。

 そして廊下は闘争の音に包まれて、数秒後には静まり返る。


「では、まいりましょうか」


 それを当然のように受け止めたクリスティーヌは、カチャリとカップをソーサーに乗せると、ゆったりと静かに立ち上がる。


 オレはその時まで、彼女のことを誤解していたのかもしれない。

 この世間知らずでわがままなお嬢様は彼女の特性ではあるが、それ以上に、いや、だからこそ、その特性は突き抜けるところまで突き抜け、もはや走り出したら止まらない狂気を宿していると。


「まいるって、どこに?」


 オレはおずおずと聞く。

 完全に気おされていた。


 あるいはあの椎葉おとこ

 オレにこの狂気を受け入れろと思って、こいつと組ませたのか。


 クリスティーヌがこちらに顔だけ振り返る。

 そこにはゾッとしそうな表情が浮かんでいた。


 確かに微笑んでいる。優雅で華麗な、一枚の絵画を思わせる淑女の姿。

 だがその目は、一点の曇りなく、狂気の光を宿していた。


「決まっているでしょう。この背徳の街を、ソドムとゴモラを聖なる炎で浄化してやるのです」


「それって……」


「ふふっ……アランは、こういうのも得意ですのよ」


 アランがどこからか取り出したのは、手のひらサイズより少し大きい球体。

 そこにはあからさまな導火線が付いていて……。


「ば、爆……」


「澪標さん。貴女はここまでで結構です。ここから先はわたくしたちの仕事」


「え、いや。でも」


「煌夜様がおっしゃったのは道案内まで。だから貴女はお戻りなさい。わたくしを気にすることはなくってよ? それこそが高貴な者の使命(ノブレスオブリージュ)なのですから」


 意味は分からなかった。

 正直、爆弾なんてテロ行為も同然。


 オレとしてはそんな道を選ぶつもりはない。

 けど、ここまで来てイモを引くのは我慢できることでもない。


「オレもやる。連れてってくれ」


 クリスティーヌは一瞬、目を見開いたが、やがて微笑み、


「どうなっても知りませんわよ」


 そう言ったクリスティーヌの瞳には、狂気の中に優しさの成分が混じっていた。

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