閑話6 水鏡八重(シータ王国四峰)
「まったく、人使いが荒いんだから!」
敵が前進して射程距離に入った途端、激しい銃撃戦が開始された。
双方に鉄の大楯を持っているから、射撃による致命的な被害にはなっていない。
ただ、敵の方が練度が高いのか、射撃と弓矢の連携による攻撃にこちらは次第に押されるようになる。
やはりシータ軍は弱い。
水の上なら操船技術といい、敵に肉薄する度胸といい、かなり強いことは知っている。
けどこういった四つに組んでの平地戦では、それほど効果的な動きができているとは思えない。
それでもここでしっかり戦って勝たなければ、私たちに明日はない。
だから押されていようと、味方がやられようと、自分は自分の仕事をするしかないのだ。
射撃戦が終われば、その後に白兵戦だ。
その時にタイミングよく指定の場所にいかなくちゃいけないわけで、というのも昨日アッキーが、
『――なんてことを敵は考えてるはずだ。それをこちらは逆に叩く。天の本隊は敵の主力を抑えてくれ。そして水鏡。お前はこういう動きをして、この位置まで来てくれ』
本当に人使いが荒い。
つまり奇襲の軍になれということだから、私が動いたことをあまり気取られてはいけない。
だから射撃戦に形だけ参加し、その背後では部隊の離脱を行っていた。
そして今。射撃に続いて喚声が響く。
敵が援護射撃の合間を縫って突撃してきた。
天の2万が受け持つのはおよそ1万ほどの敵。
兵力差で言えば2倍の優位にあるのだけど、敵には白地に金縁という元帥府の旗が立っている。
去年、アッキーが苦戦してなんとか引き分けた大将軍だろう。なら相当な強敵のはず。
「総司令、私は行くわ」
天のいる本陣へと走り、それだけを伝えて去ることにする。
「ええ、よろしくお願いします」
「敗けんじゃないわよ」
「これでも帝国とずっと戦ってきた身です。それに、ジャンヌさんと結婚するまで死ねません」
「ぶれないわね」
「それが私ですので」
ま、私も男だったら、あの子を放っておけないのは分かるけど。
あれ、でもあの子って男だから別に私が今のままでもいいのかな?
「ミカ」
と、そこへ雫が声をかけてきた。隣には良介がいる。
どこへ行ったかと思ったら、本陣にいたのね。
「雫、あんたたちも頼むわ。天の援護してあげて」
「ん……」
「任せてください! 雫さんと俺の愛の共同作業……でぇぇぇぇ!?」
「バカ」
雫にボディブローされて悶絶する良介。
大丈夫かな、いろんな意味で。
「とにかく、気を付けてね」
「ミカも」
「うん」
雫の頭をなでると、気持ちよさそうに頭をふりふり。
ずっとこうしてたいけど、今はそれどころじゃない。
誘惑を打ち払って本陣を離れると、移動中の自分の部隊に合流した。
その数、歩兵が5千。
それが戦闘に加わらず、味方本隊の後ろを通って移動する。
そんな兵力を遊ばせている暇はないはずだけど、アッキーが立てた作戦のため、こうして移動している。
もし敵がアッキーの作戦を超えて、別の動きをしてきたら全くの無駄――どころか敗戦の決定打になりかねない。
けど、アッキーが自信をもって立てた作戦だ。
それを疑い、否定するのは違う気がした。
だから走る。
部下たちも何が分からないまま不満も出さずに走ってくれる。
おおよそ本隊を通り過ぎようとしたとき、前から騎馬が1頭、いや3頭駆けてきた。
敵、とは思えないけど念のため速度を落とさせる。
と、その先頭の人物が大声で叫ぶ。
「水鏡!」
「アッキー!? なんでここに!?」
アッキーはオムカの本陣にいるはずだ。
ここから部隊1つ飛び越えた先。
なのにここにいるのは。
「詳しい話は後だ! 想定通りになる! 水鏡は敵の側面をついてくれ!」
「……了解!」
アッキーたちはすぐに馬を返して戦場に戻る。
昨日、指揮権を渡した旧淡英軍に戻るのだ。
こちらは北西に進路を取る。
そしてそこで“挟撃を受けている”旧淡英軍を救うために、敵の横に出るのだ。
「これより敵の横を突く! 遅れないでよ!」
部下を鼓舞し、走り出す。
歩兵の脚に合わせて、馬はゆっくり、速足だ。
2日目にして敵は一番痛いところを突いて来た。
そしてアッキーはそれを餌に一気に敵の部隊を壊滅させようとしている。
戦闘は2日目にして大一番を迎えそうだ。




