第43話 女神、再び
以下食事中の会話より抜粋。
「となると、やっぱり大事なのは大きさより形なわけ。このふわふわのお米みたいにね。その点ジャンヌの形はこれもうパーフェクトってわけ! わっ、米ってウマっ!」
「いえ、隊長殿のは鎧の上からでも分かる大きさにあるわけです。この豚肉のように弾力とプリプリ感が大事なんです。あー、美味しい。はむはむ。ま、教官殿みたいなゴツゴツした筋肉の塊とはまったく違うわけで」
「ふーん、ところでどこかの断崖絶壁クロクロは見たことあるの? ジャンヌの」
「だ、断崖!? い、いえそれよりそんなこと……できるわけないでしょう!」
「へぇ、できないんだ? あたしは見たよ。そう、来た、見た、揉んだ! だから今も目を閉じればジャンヌの至宝がそこに」
「な、なんといううらやま――いえ、贅沢――いえいえ、眼福……あぁ、もうちくしょう!」
「お前ら、食事中だ!」
以下、食後の会話より抜粋。
「ジャンヌー、一緒にお風呂はいろー!」
「あ、私が洗い物してる間に何してるんですが! 隊長殿と入るのは自分の役目です。そして網膜に焼き付けるのです。てゆうかいつまでいるんですが、部外者は早く帰ってください!」
「残念でしたー。今日はジャンヌの家にお泊りです! ほら、こんなところにお着がえが」
「確信犯め……ほれとってこーい」
「あー、あたしのお着がえを外に投げ捨てるな! こうなったら……ぽーい!」
「私の寝間着がー!」
「もうお前らで入れよ……」
以下、寝室での会話より抜粋。
「ねーねー、寒いからもうちっとそっちいっていい?」
「教官殿、ちょっとは遠慮してください。今は初夏ですよ。あ、ほら、教官殿! そんなに押さないでください! 隊長殿が、こんなに近く……」
「いや、今あたし何もやってないから。クロクロあんたも大概ね……」
「な、な、なにを! 私が隊長殿とくっついてぎゅーとして抱き着きながら寝たいがためにわざと隊長殿に肉薄してるというのですか!?」
「ふん、所詮あんたはそんなものよ。あたしはもう一段上を行く! ねーねー、ジャンヌ…………えっちしよう?」
「早く寝ろ!」
まぁ何が言いたいかというと……超疲れた。
え、何? これが続くの? 地獄なんですけど!?
まさか逆セクハラと逆パワハラを一晩中続けられるとは思わなかった。
俺男だよ? こんななりだけど、心は男だよ?
羨ましい? とんでもない。
ちょっと油断すれば、確実に大事な何かを奪われるのは間違いない。
それがはっきりしてたから、2人が寝付くまで気が気でなかった。
2日の強行軍に加え、ハカラのご機嫌取りで疲れた身にこれはきついって。
なんてことを思っていると、やはりそこは疲れていたんだろう。
あまりにあっさりと……。
ことりと眠りに…………
落ちてしまったわけで……………………
……………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………
「はーい、起きた起きたー!」
「わっ!」
目が覚めた――割には辺りは真っ暗だ。
その暗闇の中に、光の玉がある。
いや、人だ。
人が光を放っている。
そしてその人物を俺は知っている。
真っ白な髪に、古代ローマ人のようなローブを着た女性だ。
確か、転生の女神とか言ってたやつだ。
「とか言ってたやつって、相変わらず女神なめ腐ってるよね、貴方」
人の心を読むんじゃねぇよ。
「仕方ないでしょ。ここはあんたの夢の中なんだから」
「夢?」
やっぱり俺は寝たのか。
その枕元にこいつが悪霊のごとくいると。
「悪霊じゃねぇっつーに。呪い殺すぞシャバ僧」
だからそういうとこが女神っぽくないんだよ。
「てか何しに来たんだよ。今までほったらかしておいて。とりあえず殴るわ」
手を出そう、と思ったが腕がない。いや、体も何もない。意識だけがある。
「残念でしーた、ここには肉体は持ってこれないからね」
「ちっ、命拾いしたな」
「筋力14でどう命拾いになるのか聞いてみていい?」
うるせーよ。
ったく、疲れてるってのになんで今さらこんな奴の相手をしなくちゃいけないんだ。
「まー、ほったらかしにしたのはめんごめんご。そもそも私もやっぱ忙しいわけ。ほら女神だし。美しいし。権力あるし。女神だし。偉いし。強いし。女神だし」
なんで女神3回言った……。
「一応貴方の活動はみさせてもらってるわ。色々活躍してるみたいじゃない。これならオムカにも期待できそうかなとか思ったり思わなかったり」
「しっかり応援してくれよ。これでも勝手に決められた能力でなんとかやりくりしてるんだから」
「あら、その割には有用な能力とか言ってるじゃない」
「パラメータの方だよ! あとわけわかんない呪いとかでどれだけ苦労したか……」
「あ、そういえばそうだっけ。あはは、まっもう過ぎたことだし? ドンマイドンマイ」
マジ憎たらしいなこいつ。
「うーん、そう言わずに。こっちも悪かったと思ってるからこうやって接触しにきたわけで。貴方に簡単に死んでもらってもこっちは困るわけ」
「じゃあ呪い解いて。あとパラメータやり直して」
「それはノン。そういう仕様だから。みんなそうやって頑張ってるから」
「みんな?」
「あ……」
「そういえば前から気になってたんだ。なんでお前が忙しいのか。こうやって俺をほったらかしてる理由が。つまり――いるんだな。俺みたいな、この世界に来てる人間が」
「うん、正解。そうなんだよねー、まったく人使い……いえ、女神使いが荒いんだから」
「えらく簡単に認めたな」
「それはね。今回こうやって話に来たのはそれ関連のことだし」
「やっぱりそういうことか。ってことはあれか。これは異世界転生して生き残るサバイバルゲームじゃなく、何人ものプレイヤーがいて最後に残った1人が元の世界に戻れるサバイバルバトルロワイヤルデスゲームってことか」
「いやいや。そこは大丈夫。ちゃんと勝利した国に所属した人はみんな戻すから。女神の名に誓って」
本当かよ。まぁいいや。
現状、他のプレイヤーに接触することはそうないだろう。
勢力図的に、オムカに所属することにまったくメリットはない。
何せ一番統一から遠い勢力だからだ。というか滅亡間近という最下位の国に所属しようなんて奴はそうそういないだろう。
「お、さすが知力99だね。その通り。人気ないんだよねオムカ。百年前は人気ナンバーワンだったのに。あ、けど1個だけ間違ってる。そろそろ接触するよ、貴方も。他のプレイヤーと」
「な……まさかオムカに?」
「知力99っても勘は鈍いのかな。逆に今まで戦場で出会わなかったことが奇跡的なんだよね」
そうか。別にオムカにいないといけないわけがない。
和睦したシータ王国は多分ないにしても、エイン帝国とビンゴ王国にいて、それがこの後の戦場に出てくることは大いにあり得るのだ。
厄介だ。
何が厄介って、他のプレイヤーも俺と同じようにスキルを持っているだろうということ。
「ご名答~。そういうことで忠告です。貴方の近くに『収乱斬獲祭』ってスキルを持つプレイヤーがいるから。それはマジでヤバいから出会ったら速攻逃げた方がいいよ」
「ハーヴェスト?」
「『収乱斬獲祭』。本当は『収穫』ってスキルだったのが、パラメータ100ボーナスで進化しちゃったんだよね」
「ちょっと待て。今色々と聞き逃しちゃいけない単語が出たな。『収穫』? 確かに一覧にそんなのあった。どういうスキルなんだ?」
「普通の内政スキルだね。収穫量が倍加するってだけの能吏スキルだよ」
確かにそれは戦闘向きじゃない、むしろ平和なスキルだ。
だがハーヴェスト、カーニバル、なんとかという言葉の響きが持つ禍々しさはなんだ。
「そ、本当は平和なスキルなんだけど。ここでパラメータ100ボーナスってのが絡んで厄介になってるの。パラメータ100ボーナスってのは、それぞれのパラメータが100になった時に1度だけ特殊な能力が使えるっていうものがあるの」
「そういうのは早く言えよ」
「まーまー、99から100になるのも結構時間かかるから。貴方の場合に一番近いのは知力の『天啓』かな。一度だけ因果律を曲げて的中率100%の作戦を発動できるって効果だね」
的中率100%の作戦?
なんか抽象的でよく分からないな。
「ま、その時になったら使い方が分かるから。その時によく考えなさい。それより問題は『収乱斬獲祭』の方。『収穫』ってスキルが、外部要因で強化――いえ、凶化されたの。それに筋力パラメータのボーナス『ダブルパワー』っていう、1分間全パラメータとスキルを強化するボーナスが加わって、手の付けられない化け物になったってわけ」
「凶化?」
「そう。普通は収穫量が倍増するだけのスキル。それが凶化されることによって、どんなものでも収穫が可能になったってわけ。田畑や採取、狩りの獲物、さらには――人さえも」
人を……収穫する?
「ええ、収穫する。まるで稲を刈るように首を刎ね、大根を引き抜くように体を引きちぎり、スイカを割るように真っ二つにする。駆って狩って刈りまくる。私が見た時は、まるで脱穀するかのように1人で1万の敵を皆殺しにしたわ。もちろん1分で。まさに死の旋風。いや災厄ね」
「ちょ、ちょっと待て。さっき言ったよな。パラメータ100ボーナスは1度きりだって。しかも1分間だろ。ならもう関係ないじゃないか」
「残念だけど。言ったでしょ。ある外的要因で凶化されたって。それが一時的に筋力を2倍にする呪いのアイテムなんだけど、時間が経過したら元に戻るから何度でもパラメータが100になるの。だから半永久的にパラメータ100ボーナスを獲得できるようになったってわけ。いわばバグ技ね。いやー、見事に仕様の穴を突いてきたわ」
「突いてきたわ、じゃねぇよ! おいおいおいおい、まさかそれが今ここにいるのか!? ハカラの軍にいるのか、そんなヤバい奴が!」
「ん、いや。それは内緒」
てめぇ、何しに来たんだよ。
「ん、だから忠告よ。ここで貴方が死んだら、面白くないからね。せっかく弱小国が大国を食らい散らかすジャイアントキリングが見れるかもしれないんだから、そりゃ死んでほしくないわ」
「ならどこの誰だ、教えろ」
「それはダメ。さすがに女神の領分を超えてるわ。それはフェアじゃないから」
ちっ、うまく情報を引き出せればと思ったが甘くないか。
「そりゃそうよ。女神だもの」
こいつの謎の女神押しはなんなんだ。
「ま、そういうわけで頑張ってー」
「軽いな!」
「そりゃそうよ、他人事だもの」
「最低だな!」
「最低じゃないです、女神です! はい、というわけで以上、転生の女神様のありがたいお告げでした。というわけで起きた起きた! さっさと現実世界で目を覚ましなさい!」
「や、やめろ! そんなハンマーどこから出した!」
「そりゃ女神と言ったらハンマーですから」
「訳がわからん」
「隙あり!」
体がない俺には隙も何もないんだが、勝利の笑みを浮かべた女神は、ハンマーで俺の頭を十分に殴打した。
このクソ女神、覚えてろよ!
そう言おうと思ったが、急速に意識が薄れていき、そして――
4/10 誤字を修正しました




