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第59話 いざ会見へ

 翌日。

 何事もなく夜が明けた翌日。


 俺、クロエ、サール、喜志田と2人の護衛に加え、ウィット率いるオムカ軍300は北上して会見の予定地に向かう。


 天気はあいにくの曇り空。

 陽の光もなく寒風吹きすさぶ中では、毛皮のコートを羽織っての移動となった。


 それでも誰一人文句も言わず、黙々と進む。

 あるいはこれからのことに想いをはせていたのかもしれない。


 相手は帝国元帥。

 喜志田が勝てず、ビンゴ王国の滅亡を決定づけた人物。


 一体、どんな人物なのか。


 あるいはそれを考えていたのは、俺一人だったかもしれない。

 そんなことを思いながらも、村には約束の時間より少し早く到着した。


 村の入り口には5人ほどの男性が集まって出迎えてくれた。

 一番若いので40代くらいか。中央にいるのが村長らしく頭は禿げ上がり、蓄えた立派な髭も真っ白だった。

 昨日、多少の金品と共に会見のセッティングをお願いしたから、そのふるまいは丁寧だ。


「ようこそ、ゼートク村へ。お相手のお方はすでに来ております」


「来てる……?」


「はい。1時間ほど早く来られ、今は神殿の間でお待ちです」


 1時間も早く来た?

 何を考えているんだ。

 いや、意味なんてないのかもしれない。

 とにかく先手を打たれたことだけは確かだ。


「分かった。ここからは俺たち6人が向かう」


「承知しました。ご案内いたします」


 村の入り口でウィットと別れ、そのまま村へ入る。

 あまり豊かな村ではないらしい。

 家屋は板張りの平屋で、とりあえず寒さをしのげるくらいにしか見えず、それも経年劣化でボロボロだ。

 その数も100あるかないかで、どこか寂れた感じのする村だ。


 それでもこの村が特異なのは、村の中央に見える巨大な建造物のおかげだろう。

 そこだけ石造りで、かつ3階建てくらいの大きさがあり、周囲から浮いている。


 そこが今回の会合場所。ゼートク神殿だ。

 なんでもビンゴ王国より歴史があり、天地創世の神をまつっているとか。

 今ではさびれてしまったが、かつては参拝に来る客でごったがえしていたとのこと。


 そんなことを嬉々として語るのは、案内人である村の代表の1人の男。

 若い、といっても他と比べてで40代後半。残りの人生をこの村に腰を落ち着けて過ごそうという人物だろう。


 神殿の門をくぐる。

 なんとなくその前に一礼。


 扉が開き、案内人が先に入り、俺、サール、クロエ、喜志田ほか2人と続く。

 中は昼間だというのに真っ暗だった。

 明かりといえば、石造りの壁のところどころにロウソクが並び、それがどうにか周囲を照らすくらいだ。


 外の寒さはないが、どこかひんやりとした空気が停滞している。

 どこかおごそかな雰囲気を感じて、背筋が伸びる思いだ。


 廊下を案内人の後をついていく。

 7人分の石畳を打つコツコツという音が響く。


 音はそれだけで、誰も言葉を発しない。

 どこか気圧されている気分になり、息苦しい。


「こちらでございます」


 時間にすれば1分くらいだろうが、何分も続く気がした廊下の行き止まりで案内人が停止する。

 そして左手にある木製の扉を示す。


 この奥に帝国軍最強の人物がいる。

 そう思うと丹田のあたりがうずく。


「アッキー」


「分かってる」


 喜志田の言葉に背中を押され、俺は扉に手をかける。

 ぎぃっときしんだ音を立てて扉が開いた。


 一歩、部屋の中に入る。


 そこは閉じた世界だった。

 10メートル四方はあるだろうそこそこの広さの円形の部屋。

 総石造りという点はこれまでと共通しているが、天井がやけに高い。


 円柱型の部屋に半球が乗っているようなイメージを持ってもらえればいいだろう。

 東欧の修道院がこんな感じじゃなかったか。


 部屋の大半は何もない広場になっていて、そこには今、テーブルが1つと背もたれのない椅子が手前と奥に6つずつ並んでいる。

 視線を右手に向けてみると、そこには大きな神像がまつられていた。


 古いものらしく、石造りのせいもありところどころ欠けているが、全体としては美品といってもいい保存状態だ。

 だが、その姿がどうも気に食わない。


 あの女神に似ていたからだ。

 顔の造形はそっくりというほどではないが、なんとなく服の印象も似ている。


 天地創造の神を祀ってるとか言ったけど、アレが? まさかな。


 その思考も一瞬。

 神像なんかどうでもいいくらいに、感じるのは圧迫感。

 広く開放感のある部屋にもかかわらず、どこか息苦しい思いを抱く。


 部屋の中央にある机。

 対面の椅子に座った1人の人物。


 女性だ。


 年齢は20代半ばから30前といったところか。

 真っ白な布地の服に真っ白の肌に反し、髪の毛が燃えるような派手な赤。

 そのコントラストが情緒じょうちょをかき乱し、落ち着かない気にさせる。


 何より腕を組んで目を閉じて座っているだけなのに、その圧はこれまで感じた誰よりも強い。

 圧倒的に、完璧に、文句の付け所なしに、ふとすれば目の前の女性にひざを折ってしまうほどの威圧感を受けている。


 それは他の全員も同じだったようで、誰もが身じろぎひとつせず、固まってしまっている。

 ゴクリと唾を飲む音。

 それは自分のものだったかもしれないし、他の誰かのものだったかもしれない。


 それほどの静寂が周りを包んでいた。


 その中で一番最初に声を発したのは、やはりというべきか、当然というべきか、この場を支配する赤髪――そして開いた燃えるような赤い瞳を持つ人物だった。


「ようこそ、ジャンヌ・ダルク。私は堂島。エイン帝国軍元帥をしている」

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