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閑話17 クロエ・ハミニス(オムカ王国ジャンヌ隊副隊長)

「えー、緊急事態です」


 砦にある小屋の一室。

 そこにウィット、マール、ルックを集めてそう切り出した。


「なんだ、改まって……貴様の戯言に付き合ってる暇はないんだが」


 ウィットが忌々しそうにこちらを見てくる。生意気だわー。


「まぁまぁ、クロエから言ってくるんだからよほどの事態なんじゃない?」


 マールはいつも穏やか。本気で怒ったことあるのかな。


「まぁ最近暇だしねーいいんじゃないかなー」


 ルックは危機感が足りない! もっと熱くなって!


「で? 何が緊急事態なんだ?」


 はぁ……この状況、どうしてウィットはそうも鈍感でいられるのかな。

 正直、理解に苦しむ。


 だからたっぷり間を取って、切実な問題を切り出した。


「最近、隊長殿がかまってくれません」


「馬鹿か貴様は! まさかそんなことを言うために俺たちを集めたわけないだろうな! いや、もう1回言うぞ、馬鹿か貴様は!」


「そんなわけないじゃない。もっと事態は深刻。リナさんとかリンドーとか新しいメンツが増えてるところに、さらに新しい2人も加わったんだから。だからどうやったら私が隊長殿を独占できるか、そのための会議なの!」


「分かった。言いなおそう。馬鹿だ、貴様は!」


「何を必死に考えてるかと思ったら……」


「てか“私たち”じゃなくて、“私”なあたり、本当にクロエだよねー」


「ギャーギャー言わない! てゆうかいいんですか、皆は! 私の隊長殿を、ぽっと出の他人に取られるなんて!」


「誰も貴様の隊長殿じゃないが……うぅむ」


「それは、まぁ……」


「ちょっと悔しいところはあるかもねー」


 さすが私の隊長殿が見込んだ精鋭へんたいたち。

 話が早すぎる。


「というわけで緊急会議! 議題はどうしたら隊長殿の寵愛ちょうあいをこちらに向けることができるかについて! はい、ウィット!」


「何故俺から……いや、それはもう……もっと俺の優秀さをアピールするとかだな」


「ブブー。つまらないウィットは、隊長殿から1か月無視の刑です」


「なんでそうなる!」


 ウィットはつべこべ言ってくるので無視。


「はい、じゃあ次、マール!」


「え!? えっと、えっと……もっと任務を頑張る?」


「ブブー。マールは真面目ですねー。そんなんじゃあ良いように使われてポイです。ウサギを捕まえて煮ると美味しいって、隊長殿が言ってました!」


「そ、そうなの!?」


 もちろん。隊長殿が言ってたことだから間違いない。隊長殿に間違いはないの。


「なら最後、ルック!」


「えっと……一緒にご飯を食べるとか?」


「ブブー。そんなことが出来てたらこんな会議開かないっての!」


 全く、皆揃って駄目駄目だ。


「じゃあ貴様の案はどうなんだ」


「私? うーん……やっぱり私の溢れんばかりの魅力で、隊長殿をイチコロに……」


「貴様が一番どうでもいい!」


「それどういう意味! あー、もう! どんな手段でもいいから、隊長殿と一緒の時間を過ごしたいのに!」


 と、そんな心の叫びを聞いたマールが、はたと何かに気づいたらしく手を挙げた。


「一緒の時間を過ごすってだけなら……こないだ私、リナさんと一緒に子供たちの面倒を見てた時。戻って来た隊長と一緒に子供たちと遊んだわ」


「な、なぅ!? 隊長殿と青空教室!?」


「自分も弓が使えないかって相談受けたね。なんかすごい重そうに弓を扱ってて断念したどー」


「た、隊長が弓をかまえる姿……!?」


「ふはははは! 言うまいと思っていたが、それなら俺も作戦会議に呼ばれた。俺だけ。名指しで! つまりクロエ! 貴様だけがのけ者にされているということだ!」


「ガーーーーーン!」


 マールとルックは別にしても、まさかウィットごときに後れを取るなんて……。

 あまりのショックで机に突っ伏す。


 自分は、うぬぼれていたのか。

 隊長殿はいつまでも隊長殿のままでいてくれると思った自分が馬鹿だったのか。


「ふん、これに懲りたら少しは態度を改めろ。そして俺を敬え、俺こそが隊長の第一の副官だと」


「ほらほら、ウィットはいじめないの。あー、そのクロエ。きっとだけどさ。クロエはぐいぐい行き過ぎるからいけないんじゃない? だから少し距離を取って。押して駄目なら引いてみろってやつ」


「距離……」


 なるほど……距離を取って……そうすると今まで以上に隊長殿との絡みがなくなるんじゃない!?


「駄目! 忘れ去られる! 今もきっと忘れられる一歩手前なのに!」


「そんなわけないじゃない。だって、クロエが一番隊長と一緒にいるんだよ。だから自信もって」


「そうそう、今はちょっと忙しいからしょうがないけど、隊長が忘れるわけないよー」


「マール……ルック……うわーーーん!」


 クロエは良き仲間をもって幸せだ。

 約1名、どうでも良さそうに見てるけど。


 と、そこへ小屋の扉が開いて、渦中の人物が覗いてきた。


「おーい、クロエー……っと、皆もここにいたのか。何してるんだ、こんなところに集まって」


「た、隊長殿……」


 咄嗟に抱きつこうと思った矢先、マールに裾をつままれた。

 そうだ、ここは少し引いてみる。


「べ、別に隊長殿には……関係ありませんから」


「クロエ、貴様……」


 ウィットが哀れみの視線をこちらを向けてくる。

 そんな眼で見ないで。殴るよ。


「お、おう。そうか」


 うぅ、隊長殿がドン引きしてる感じマックス。

 それでも全ては隊長殿じぶんのため。

 心を鬼にして隊長から距離を取る!


「それで、何の用ですか?」


 ことさら感情を込めずに言うと、隊長殿は少しバツが悪そうな顔をして、


「ん、いや。最近、お前らにかまってやれなくてすまないなと思って、ご飯でもどうだと思って来たんだけど……」


「はい! クロエ、行きます!」


 条件反射的に答えていた。

 てゆうかまさにジャスト! ピンポイント! さすが天才的頭脳の隊長殿!

 私の憂鬱を汲み取ってくれたに違いない!


 ウィットたちがあんぐりと口をあけて、間抜け面してるけど気にしない!


「ん、じゃあ行くか。といっても、いつものだけど」


「いえ! 隊長殿と一緒に食べるご飯はいつも美味しいので問題ありません! さぁさぁ! 行きましょう!」


 隊長殿の腕を取って意気揚々と小屋を出る。

 けどその後ろからぼそぼそと声が聞こえた。


「はぁ……駄目だこりゃ」


「まぁ、その方がクロエっぽいし」


「いつも通りだよねー」


 うるさいその他大勢!

 クロエは今が良ければ良いのです。


 隊長殿にもらったこの命。

 それを使い切るまでは……。


 うん、そう思わせてくれる隊長殿は、やっぱり最高です!

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