表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/591

第21話 知力99による異世界基礎講座

 北のエイン帝国、西のビンゴ王国、東のシータ王国。そして中央にオムカ王国という三国プラス1の国家が揃う大陸をラインツ大陸という。


 南部にもオムカと同等かそれ以上の小国が乱立し、それらはエイン帝国に服従しているためエイン帝国自治領と呼ばれているが、オムカ王国が特別扱いされるのはその歴史の古さとかつては大陸の3分の2を支配したという影響力からだろう。


 ラインツ大陸は東西を海に囲まれ、北は稜々たる山岳と見渡す限りの平原が広がり、南は山を超えて密林を抜ければ広い砂漠に出る。


 三国志というのだから中国大陸を思い浮かべるが、地形を見てもあまり似ているようではなさそうだ。


 その中でここオムカ王国は、肥沃な平野に囲まれた大陸の中央部。

 エイン帝国と南の自治領を結ぶラインの中央にあり、東へ進むビンゴ王国と西へ進むシータ王国がまずぶつかる、まさに三国のハブ(連結部)を担う地域にある。


 エイン帝国とすれば大陸を縦断し南の自治領との連携を密にする、またビンゴとシータの連携を絶つ重要な拠点。

 ビンゴ王国とシータ王国からすれば帝国を分断し、かつエイン帝国攻略の足がかりとなる橋頭保きょうとうほだ。


 過去の歴史を紐解くまでもなく、この地で一体どれだけの血が流れたのか想像に難くない。


 なお国力で言えば、エイン、ビンゴ、シータの順で約5対3対2となる。

 ビンゴとシータが連合すればエインといえども圧倒できず、ビンゴとシータは連合しないとエインに滅ぼされる見事な三国志状態だ。


 そんな中の我らがオムカ王国の国力は約0.1。

 どの国にとっても鎧袖一触がいしゅういっしょくの雑魚国だ。


 だからまずは富国、そしてビンゴかシータ――できればシータとの同盟が必要となる。


 それが叶えば、独立したとして即刻滅ぼされるような事態は回避できる……可能性がある。

 まだ可能性というのが情けない話だが、それが事実なのだからしょうがない。


「厳しいよなぁ……」


 とまぁここまでが俺のスキル『古の魔導書エンシェントマジックブック』で調べ上げたことだ。

 本当はきちんとした文献があるということで、マリアに頼んで書庫にいれてもらったのだが……。


「よ、読めねぇ」


 当然というべきか、迂闊というべきか、ミミズの這いつくばったような文字を俺は読めなかったのだ。

 英語ならまだなんとかなったかもしれないが、どちらかというとラテンギリシャ系の単語らしく全く意味が分からない。

 そう考えると俺はどうして彼らと話ができるんだろう、と思うが、そこはあまり突っ込んではいけない気がするのでパス。


 というわけで魔導書のスキルを活用してみたのだが、まぁこれは便利だ。


 調べたいと思うものがすぐに浮かび上がって、しかも適切な場所を表示してくれるので探すという労力がない。

 もちろん本を探すという行為は、それ自体が楽しく、また新たな出会いを運んでくる可能性を持っているのだが、今は基礎知識を詰め込まなければならない時間だ。

 労力よりも時間が惜しい。


 それだけでもよかったのだが、俺は更に『古の魔導書エンシェントマジックブック』を活用した。


 何より、自分のスキルをよく知っておくのは重要なことだ。

 直接戦闘にかかわらない以上――いや、かかわらないからこそこのスキルの性能が俺の生死に直結する。

 何ができて、何ができないか。

 どんな制限があって、どんなデメリットがあるか。

 それらを知り尽くしてようやく機能する。


 とりあえずここまでに分かったことは3つ。


 1つ。

 この本は俺が念じるだけで出現し、消すことができる。

 だから「スキル!」みたいに叫ぶ必要はないのだ。あるとすれば格好つける時だけ。


 2つ。

 この本はまさに森羅万象の本を呼び寄せることができて、かつ日本語に翻訳してくれる。

 地図、歴史書、学問書、伝記といったものからレシピ本、ハウツー本、ゴシップ紙などと本当に刊行されているのかと疑うレベルまで。


 この中で新たな可能性に気づいたのが伝記だ。

 伝記といえば過去の偉人を紹介した本なのだが、これまで何度か使ってきたように、今生きている人間のことも伝記形式で読むことができる。


 それはつまり、相手の人となり、どういった性格か、何が弱点かがはっきりと知ることができる。

 もちろんものには条件があって、例えばジーンなんかは知り合ってまだ数日だが、今までの関りからかなり深くを知ることができた。


『ジーン・ルートロワ。6月1日生まれ。24歳。男。オムカ王国平民の息子として生まれる。幼い頃は物覚えが良く神童と呼ばれ周囲の期待を集めた。オムルカ国民高等学院を主席で卒業後、15歳でエイン帝国の徴兵により北方戦線に送り込まれるが、もちまえの利発さで敵を数度打ち破る。しかし20歳のときに北方民族との戦いの最終決戦を前に負傷。オムカ本国に戻される。復帰後、オムカ王国第2師団ハレ隊長の部下となり手腕を発揮して副隊長に抜擢されるも、ビンゴ王国との戦争でハレ隊長が戦死。その部隊の後を継ぎ―ー』


 と、まだまだ続くほどの情報が表示される。


 それに対し、先日のビンゴ軍の将軍を見てみれば、


『ヨワーネ・ヤワネ。享年38歳、男。20戦無敗を誇るビンゴ軍第一軍隊の先鋒を司る猛将。戦闘では勇猛果敢で剛力無双だが、その実は優しく女子供には危害を加えないという一面も見せる。オムカ王国のジーン・ルートロワ隊長代理に奇襲をかけたところ、返り討ちに遭い戦死。これ以上は情報が足りません』


 情報量の差が一目瞭然だ。


 どうやらその人物からどれだけ自分が認識されているかで、表示される情報の粒度が異なるらしい。

 とはいえ殺し合いをする敵のことを知ってもいいことはないので、これくらいがちょうどいい。


 重要なのはその人物の性質。

 それが分かれば猪突猛進な人物には単純な罠、疑ってかかる慎重な相手なら逆に大胆な作戦など、先に織り込んで戦いに臨むことができる。

 要は後出しじゃんけんができる権利を与えられたといっていい。

 これはかなりのアドバンテージとして役立つことだろう。


 そして最後の3つ目。

 これはメリットというかスキルの仕様だ。

 一度、ページに映された情報は何があっても消えない。


 だがもちろんページ数に限度はある。

 50ページ分の情報が表示されると、次に表示されるのはまた1ページ目からということになる。

 そこで古い情報は消されるのだ。

 ま、50ページも前のことだから、そのころには古い情報になっているだろうし気にすることはないが、いずれ何かの役にたつかもしれないから覚えておいて損はないだろう。


 以上が俺のスキル『古の魔導書エンシェントマジックブック』の仕様だ。


 正直、最初はこんなクソスキルとあの女神を呪ったわけだが、なかなかどうして、今の俺にはぴったりなことかもしれない。


 と、ここまでが今日、非番の日を利用して書庫に籠って得た情報だ。


 とりあえず目下の目標として、マリアたちの言う独立は理にかなっている。

 このままエイン帝国の下にいても、ビンゴ王国とシータ王国との戦いですりつぶされるのは確かだからだ。


 そのまま死を待つよりは、一か八かに賭けてみたいと思う気持ちはよく分かる。

 だが俺は死ぬわけにはいかない。

 生きて、この国で大陸統一を成し遂げなければならない。


 もちろん他国に亡命する、という方法もある。

 だが、俺はこの国の人間と深くかかわりすぎた。

 さすがに今の彼らをおいて、何より里奈に似た彼女を置いてどこかへ行けるほど俺の神経は図太くないと自負している。


 だからこの国で生きて勝ち残るための一手は、とりあえず見えてきたというところだ。


「あ、いたいたジャンヌちゃん!」


 と、書庫の静寂を引き裂いて陽気な声が響く。


 見れば入り口にジルとサカキがいた。

 彼らも今日は非番ということで軍服ではなくラフな格好をしている。


「もう、せっかくの休日なのにこんなかび臭いところいてつまんないでしょ。ね、デートしよ」


「だから俺は男だと何度言ったら分かるんだ、サカキ」


「またまたー。ニーアから聞いてるんだから……極上でしたって」


 あの女、ペラペラと。

 てか何が極上だ。あの変態セクハラ大魔神め。


「探し物は見つかりましたか?」


 ジルが優しい声で語りかけてくる。

 その声を聞くとやはり落ち着く。


「ああ、ちょっと勝手は違ったけど。ところでジル、ちょっと紹介してほしい人がいるんだが」


「なになに、ジャンヌちゃん!? まさか男!? ねぇ、俺というものがありなが――いたっ!」


 迫ってくるサカキに、カウンターでデコピンをくらわせた。

 こいつ、本当に猪みたいなやつだな。


 対して当のジルは困惑したように、


「それは構いませんが、私よりニーアやそれこそサカキの方が顔が広いかと」


「いや、サカキは多分無理だと思うし、ニーアは女王様に寄りすぎているから厳しいと思う。ジルなら知見あるだろうし、おそらく進言しても受け入れられそうだから」


「すみません、どなたのことでしょう」


 まぁ分からなくて当然か。


 俺が今目標としているのは富国。

 だからといって陪臣の立場じゃ発現権はないし、誰も賛同してくれないだろう。


 仮にマリアなら賛同してくれると思うが、それは意味をなさない。

 なぜならマリアには政治にかかわる権利がないから。


 ならばどうするか。

 俺が直接言ってもダメだからジーンなのだ。オムカ国軍第2師団隊長という肩書は伊達じゃない。

 そしてマリアの代わりに国政を握っている人物。彼に直接吹き込めばそれで事足りる。


 だからジーンに頼む必要があるのだ。


「この国で一番力を持つ人物、ロキン宰相だよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ