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第2話 転生の女神

「はい、っというわけで。貴方は死にました。いえーい、おめでとうございまーす、どんどんぱふぱふー」


 目が覚めた。

 黒い部屋、何もない空間。


 いや、いる。人が。

 そして突然、そんなことを言われた。


 知らない人に。

 知らない言葉で。

 知らない内容を。

 知らないテンションで。


 いや、分かる。聞く事はできる。

 だが理解はできない。


 俺が? 死んだ? おめでとう?


 それを言ったのは目の前にいる女性。

 100人いれば100人が振り返るだろう美貌の持ち主。


 20代前半だろうか。

 髪は雪のような真っ白で、花飾りで長い髪をまとめている。

 服装は古代ローマにありそうな――トゥニカといったか――白い布をあてがったもので、ロングスカートのドレス風になっている。

 それがまるで女神の像が動き出したような錯覚に陥らせるのだ。


 だが、そんな女性が頬杖をしてあぐらをかいているのだから、はっきり言って行儀が悪い。

 さらにその格好でさっきのセリフを言うのだから、まったくもってありがたみを感じない。


「お前、誰だ。何を言ってる?」


 声が出た。だがそれだけだ。


 目は見える。

 声は出る。

 耳は聞こえる。

 だが俺には手も足も体も耳も顔すらもない。

 ただ視覚があって聴覚があるだけの存在。


「死んだのか、俺……」


「はい、写楽明彦しゃらく あきひこは死にました」


 ずばりと言われ、実感がわいてくる。

 となればここは天国か地獄か。

 あるいはこの女性が、そのどちらかに行くのを決めるエンマ大王だというのだろうか。


「やーだやーだ。エンマ大王なんて、あんなおっさんと一緒にしないでくれる?」


 ギクリとした。

 声に出していったわけじゃないのに。


「言ったでしょ。貴方は死んだの。死んだら言葉なんてものは意味を持たず、言葉と思考は結合されるのよ」


 やっぱり意味が分からない。


「頭が悪いのね。ホントに学者さん? いや、これは頭が悪いというより硬いのかな」


「現実主義だと言ってくれ」


「見たことじゃないと信じられないってやつ? だったら信じなさいよ。貴方は死を見た。そしてこの世界を見た。転生の女神である私を見た。それだけで十分でなくて?」


「転生の女神?」


 女神って自分で言うか、というツッコミは取っておく。


「うるさいわね。すりつぶすわよ」


 女神の言葉じゃなかった。


「だからうるさいっての。もう、段取りがめちゃくちゃ。ここまで黙っててうるさいのは初めてよ」


「そりゃどうも」


「心がこもってないわねー。ま、別に褒めたわけじゃないからいいけど。さって、じゃあさっさと説明始めますか。私もこの後に予定入ってるから暇じゃないわけ」


 説明?


「そ。貴方がここにいる理由。私がここにいる理由。それを教えてあげようってわけ。親切にも無料サービスでね」


「いや、それよりここはどこなんだ?」


「あぁ、そこから行くかー。段取り無視されてイラっと来るけど、そっち話した方が貴方には分かりやすいかな。ここは転生の間。人の世とあの世をつなぐ狭間の世界って言えば分かるかな」


 転生……。輪廻転生、仏教の教えにあったな。

 生前の徳によって振り分けられるというから、つまり人間以外にも転生する可能性があるとか。

 俺仏教徒じゃないからあまり知らんけど。


「おおう、さすが学者さん。いやでもここはそう言った小難しい話じゃないから」


「じゃあどういう」


「はっきり言っちゃうとね。貴方の世界にある、ライトノベル? そういうやつで流行ってるでしょ」


「転生ものか」


「そうそう、さすが本好きだね」


 そりゃ流行りの本は押さえてはいるけど、なんでそれをこいつが知ってるんだ?


「私も地上に行った時にアニメ見てさー。あれ、これ私の仕事じゃん!? とか思ったりして、びっくりだよねー」


 女神フリーダムすぎだろ。


「いいんです。こういうめんどくさい仕事の特権です、役得です」


「つまりこれはあれか? 死んだから異世界に転生してしまえ、と」


「はいせいかーいどんどんぱふぱふ。正解者の貴方には知恵の実をあげましょう」


「そういうのいいから」


 体があったら頭を抱えていただろう。

 異世界転生。よりによって俺がその役回りになるとは。


「なんで俺を?」


「ん? 何? もしかして何で俺を選んだとか聞いちゃう? それはね……君が選ばれた転生の勇者の血を引く古の古代魔王に倒された名もなき王国の辺境の村の教会にある封印された剣を抜いたと言われそうなこともない人間だからだよ!」


 ぜんっぜん意味が分からない。

 てか古の古代魔王ってなんだよ。


「ばれたか。ま、そういうこと。意味なんてない。強いて言えば強欲ってこと」


「俺が?」


「そりゃそうでしょ。こんなところで死にたくない、ってのはよくあるけど、死ぬ前に彼女に会いたい、話をしたい、デートしたい、キスしたい、過ごしたい、結婚したい、行けるところまで行きたい、なんてこと思うなんて強欲以外のなんでもない」


「そこまで考えてねーよ! ずいぶん盛ったな!」


「へぇ、本当にそんなことを思わなかったとでも?」


 それは……。


「ほら、答えられない。図星ってことでしょ。ま、いいんじゃない。人間なんてそんなものだし。でもそれは悪いことじゃない。これから起こることにしてみれば、もう一度生きたいという思いが何よりも大事だから」


「それほど危険ってことか。その転生ってのは」


「そう。だからこそ、それに対するリターンが欲しいでしょう。これから貴方の転生先での活躍次第で、貴方をもう一度元の世界に戻してあげましょう」


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