閑話2 ピーク・トーク(ビンゴ国第3軍団将軍)
圧倒的だ。
前方で展開される戦闘の音を聞きながら思う。
いや、そもそも練度が違う。
このビンゴ国が誇る名将、ピーク・トークの鍛え上げた精鋭はどの国にも引けを取らないと自負している。
相手は王都を守るために士気旺盛だが、そこまでだ。
何より数も違う。
見る限り相手は5千くらいの少数だ。
平原であれば一撃で粉砕できた数だが、場所も手伝って意外に手こずっている。
だがそれも時間の問題だろう。
敵の陣容ははっきりしている。
今戦っているのはオムカ王国の軍勢5千。
後ろに2万強の軍が展開しているが、それは先の戦でも戦うことなく撤退したエイン帝国のものだろう。
エイン帝国のやり口には正直反吐がでる思いだが、だからといって手加減する気は毛頭ない。
こちらとて、自国民の命を預かっているのだ。
それを承知でオムカ国の兵は死に物狂いで戦っているのだから、それに応えるのも将軍としての役目だとも考える。
「第1陣、後方に回れ! 次いで第2陣突撃! 相手に休む暇を作らせるな!」
大軍を活かせない地形といえど、戦い疲れた兵を後ろの元気満々の兵に取り換えることくらいはできる。
だから、時間さえかければ必ず勝てる。勝てるのだ。
「将軍! 敵が崩れていきます!」
「よぉし! 追撃だ! オムカとエインに我々の敵ではないことを知らしめてやれ!」
号令直下、4万の軍が動き出す。
こうなれば攻城兵器を置いてきたのが悔やまれる。
どうせ数で不利なのだから野戦を避けて籠城すると思ったから、オムカの王都まで攻め込んだ実績だけ残して撤退するつもりだったのだ。
だがこうして意図せず相手は攻めて来た。
いや、ここは発想を転換するのだ。
ここで敵を殲滅すれば、オムカ国を守るのは同盟国であるシータ国とにらみ合いをしている軍のみとなる。
その軍を王都の守備に回せばシータ国の進軍の手助けにもなるし、エイン帝国が援軍を回して来れば我が国の北方戦線が楽になる。
どちらをとっても、我が国にとっては有利な展開になることが間違いない。
そして私は、ピーク・トークこそがオムカを制圧した稀代の名将として語り継がれるに違いない。
ふふふ……はぁっはははははは!
「将軍! 敵がばらけて逃げ散っていきます!」
「前に出る!」
馬を駆け足にして軍の戦闘に出る。
なるほど、敵は左右の林にばらけるように逃げ出している。
それを支えるように、数十騎の敵兵が健気にも殿軍を支えているがものの数ではない。
それより気になるのが1つ。
「あれはなんだ?」
遠く、道のど真ん中に小柄な人影が1つ。
その人影は旗を大きく振り回している。
旗? 合図? 伏兵か?
いや、伏兵がいるならなぜ先に使わない。
しかもこれだけバラバラに逃げている以上、伏兵が来てもどうということはない。
「後軍には背後から敵が来ないかだけ注意させろ」
伝令だけ走らせてさらに追撃する。
見えた。
旗を振る人影の背後、林の切れ目に軍の姿が。
エイン帝国。
猛将と名高いハカラ将軍が率いる軍だが、近年はその精彩を欠いて久しい。
オムカの雑魚は屠った。
ならばあとは帝国の軍を粉砕すればこの戦は勝ちだ。
敵の陣営が慌ただしく動くのが見える。
勝った。
「エインの軍に突撃する! 我に続け! 今こそ横暴なる帝国に正義の鉄槌を下すのだ!」
最後の力を振り絞った敵の殿軍の突撃に、一瞬勢いが止まったが、その騎兵がいなくなれば、あとは栄光へと続く一本道が姿を表すばかり。
先鋒が突っ込む。
硬い、いや、脆い。柵を破れば存外に脆いぞ。
敵の前衛は立て直しが早く、先鋒の突撃をなんとか受けたが厚みがない。
まだ敵の後衛は混乱している。
勝った! 勝った!
敵が混乱から抜け出す前に次々と兵をぶつける。それで終わりだ。
そのはずだった。
突然、左右から暴風にも似た死の雨が降り注いだ。
悲鳴。苦悶の声。
それが前方ではなく、この私の周囲から沸き起こったのだ。
「何が、何が起こったぁ!?」
次の瞬間、体を耐えがたいほどの熱が襲った。




