第73話 結びに代えて
圧倒的だった。
声量、声域、それだけじゃない。
彼女の歌は台風だった。
激しいロック調なわけではない。
こぶしを利かせた演歌調なわけでもない。
彼女から放たれる圧倒的な歌の力が、想いの力が客席を襲う。
しがらみから解放された彼女は、その圧倒的な力強さで舞台に立っていた。
いつものなよっとした彼女からは想像もつかない力強さ、いや、自己顕示欲とでも言えばいいのか。
正直、舐めていた。
歌なんて、楽しんだ者勝ちだとか言ってた馬鹿の通り、それだけのものだと思った。
けどこれは違う。
楽しいだけ、という表面的なものだけじゃない。
彼女の歌は心の奥底にある何かを揺り動かす。
揺り動かすだけならまだいい。
それを動かし、増幅させ、そして外へと弾けさせるような、思わず叫びたくなるような衝動を与えるのだ。
客席を見る。
呆気にとられるもの、頬を紅潮させるもの、涙を流すもの。
千差万別。
だが揃って誰もが彼女の歌に引き込まれていた。
そして、何かの起爆スイッチを押されていた。
彼女の声が途切れた瞬間。
一瞬の間をおいて大歓声が響いた。
それは王都を全域に広がるような大音量。
審査員席にいる俺も思わず指で耳栓をしてしまうほど。
いや、本当に舐めていた。
このオーディションだって、マリアが面白そうだからと勝手に始めたものだったし、少しでも歌が上手い人がいれば、とりあえずの体裁は整うと思った。
まさか自分が審査員の1人になるとは思わなかったけど。
それ以上のまさかで、こんな人材を掘り起こしてしまうとは。
少し不安はある。
この歌。
ただ魂を揺さぶるだけじゃない。
どこか危うさをはらんだこの感覚。
扇動の歌、というべきか。
マツナガが知ったら嬉々として謀略の駒に使いそうな力だ。
ならば落とすか。
……いや、ここで彼女を落としたら俺が悪者、暴動が起きる。
それほどまでに彼女は観客の、民衆の心をつかんでいた。
やれやれ、参ったな。
ふと視線を感じて顔をあげた。
アヤだ。
目が合った。
それで彼女はちょっと驚いたような表情をして、少しほほ笑んだ。
あぁ、そういえば名乗ってもなかったような気がする。
半年近くも通っていたのに、店員と客でしかなかったからしょうがないとはいえ、薄情なものだ。
とりあえず後で謝っておこう。
いや、先に言うことがあるはずだ。
まずはおめでとう。
そしてごめんなさい。
うん、これでいこう。
鳴りやまない喚声が蒼天に響く。
それが彼女の新しい門出を祝っているようで、俺は少し安堵して目を閉じた。
まずはここまで読んでいただいた皆様に感謝の言葉を。
そして第1章よりだらだらと長くなったことに陳謝の言葉を。
ありがとうごめんなさい。
半ば見切り発車で走りながら書いた2章なので、整合性のない部分や破綻していたところがあるかもしれませんが、そこは寛恕いただけると幸いです。(前半と後半で章を分けるくらいのことはした方がよかったかもしれませんでした。またとってつけたような最後の新キャラですが、一応次につながります)
また謀略が中心となった章でしたので、ガチンコの戦争が好きな方には申し訳ありません。
次章の中盤から大戦が書けるように頑張ります。
この後の流れとしては、少し構想の時間と一度初心に戻って最初から見直しする時間とさせていただければと思います。
もしかしたら少し寄り道をするかもしれませんが、早くて1週間(2月7日)ほどで第3章の方を始めていけたらと考えております。
最後に拙い文章力と構想力でだらだらと伸びた作品を、ここまで閲覧いただいた皆さま。本当にありがとうございました。
今年は『とにかく書く』という目標をもとに走っていこうと思いますので、お付き合いいただければ幸いです。




