第37話 デッド・オア・女神
「はい、というわけでーアッキーは死んでしまいました。おお、死んでしまうとは何事かー、って死んでんどーすんの! なにやってんのアッキー。過労死とかそんなブラック企業に就職させたつもりはありません!」
はぁ……のっけからこのテンション。
ただでさえ疲れ切ってるのに、なんなんだよ。
てかなんでまたこの女神がいるの?
「あれ、反応薄め? アッキー死んだんだよ? もう戻れないんだよ? あの世界にも、元の世界にも」
「さすがに二度目となるとな……そりゃ落ち込むさ」
「ふーん。アッキーにしては殊勝じゃん。まぁいいけどね。本当は死んでないし」
死んでねぇのかよ!
「ん、でも結構危なかった感じだよ。あと一歩でさらば世界よ第2章って感じ」
全然意味が分からん。
けど、まぁ死んでないなら何よりだ。
こんな変な奴――しかもテンション高め――を相手にするのは辟易とするから。
「んじゃあもう起きるから。てかあんま出てくんなよ」
「ひっどーい。そんなに私から出番を奪いたいの!?」
だから出番ってなんだよ。
「もう、そっちがそう来るならこっちにも考えがあるんだから。こないだ約束したノルマの件、それを白紙に戻しちゃってもいいんだけどー?」
「ノルマ?」
「あれ? アッキー忘れちゃった? うぅ、アッキー私にあんなことしておいて、忘れるなんて……ひどい。責任取ってもらうからね!」
「黙れ。気持ち悪い」
「扱いひどくない!?」
ただでさえこいつには恨みしかないのだ。
しかもこのハイテンション。
扱いも雑になるのも当然だろう。
てか体もないのに何ができるってんだ、何が。
「で? ノルマってなんだ?」
「ん……ほんとに忘れてる? 南郡を制圧しようって試みが上手くいきそうで、ご褒美を…………あっ!」
女神が、しまった、と言わんばかりの表情で口に手を当てる。
なんだ?
何かあったのか。
ノルマ?
そんな約束しただろうか。
南郡に関係がある?
制圧?
ご褒美?
……年内?
「あっ!」
思い出した。
逆に何故今まで思い出さなかったのか。
南郡の一部を今年中に支配する。
そうすれば知力のパラメータを1下げて、パラメータ100ボーナスを発生できるようにしてくれる。
それがノルマとご褒美だった。
そんな大事なことを何故忘れていた。
これが夢だからか?
夢だから記憶できないとか。
いや、だったら最初はどうなんだ?
この世界のルール、勝手にステータスと見た目を決められたこと、この女神への恨み、すべて覚えている。
あれは最初だから?
いや、それとも何かが他と違っていて――
「そういや、いつもハンマーで殴り起こされてたよな」
「ぎくっ! な、な、な、なんのことかなー?」
へたくそか!
どれだけ分かりやすいんだ、こいつ。
「ちょっといつものハンマー見せてみ?」
「な、ないない! そんな変なものじゃなくて、ただのハンマーだよ。ただの記憶消し消しアディオスアリーヴェデルチハンマーだよ!?」
「記憶消しとか言ってるじゃねぇか!」
こいつと話してると頭が痛くなってくる。
いや、頭ないけど。
「とにかく。思い出したからには、今回はこの記憶、持ち帰らせてもらうからな。そのハンマー絶対使うなよ!」
「絶対……ほりゃ!」
「うわっ、危なっ!? 使うなっつってるだろ!」
「え、絶対やるなって、やれって意味じゃないの?」
「そういうバラエティみたいなことはいいんだよ! てかそういうことするから女神らしくねーんだよ!」
「うぅ、アッキーのいけずー」
てかさりげなく言ってるけど、そのアッキーっていうの認めたわけじゃないからな。
何しれっと使ってんの。
「いいじゃん、それくらい。これからアッキー大変になるのに」
謝罪と弁解が全く一致していないんだが。
それにもうすでに大変です。
過労死寸前だったんだから。
「あら、これくらいで大変だと思うのでしたら、この後がもたなくってよ?」
「どういう意味だ?」
急に真面目ぶったトーンになった女神の言葉は、どこか不穏なニュアンスを含んでいた。
「貴方は首尾よく南郡を平定したと思ってるかもしれないけど、そう上手くいかないのが人間の世界。複雑に絡まった人々の思惑。それが1つの方向性を指示した時の力は、説明しなくても分かるでしょう? そう、オムカを独立に導いた貴方なら、人の欲望と執念と憤怒にまみれた意思がどれだけ恐ろしいものか、分かってるはず」
それは……言われなくとも。
「気づいているのなら何故放置しているのです? なんでわかり合おうとしないのです? 南郡は今とてもホットな状況。きっかけがあれば爆発してしまうほどに。そのきっかけがもうすぐ来る。果たしてその時、貴方は大事なものを守れますか?」
俺の、大事なもの……?
「そう。今は距離があるけれど、お互いに信頼で結びついた相手。それが人々の思惑で粉々に砕かれてしまう。それなのに貴方は見て見ぬふり、聞いて聞かぬふり、意識して意識しないふり。あぁ、破滅はすぐそこにあるというのに!」
大事なもの?
距離?
信頼?
まさか――ジル!?
「さぁ、もう行きなさい。貴方が本当に大切にするべき人は誰なのか。国を制するとはどういうことなのか。その答えを得るために。今は行きなさい、進みなさい」
女神の厳粛な声に押されるように、俺の体――はないので意識が背後に進んでいく。
引っ張られる。
どこへ?
この世界ではない、違う世界へ。
ここは現実とあの世の狭間。
存在しえない世界。
俺は戻る。
俺のいる場所。
俺のいる世界。
戦場へ。




