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9.白熊、最高位精霊たちを紹介する。


「こちらは火の最高位精霊で、名前は――」

「イグニスだ。よろしくな! 得意なことは火柱を上げることだ! ……ん? 何だか、お前ら詰まらなさそうだなぁ。――よし、実際に見せてやろう!」


 エリックたちを見て、楽しませようと思ったのか、イグニスが躊躇いなく周りに草木が生い茂るこの場所で火柱を上げようとし、ミナリアが青ざめて止める前にイグニスの頭にアクアの鉄拳が落とされた。


「何考えているんですか、この馬鹿!! 見境がないのもいい加減にしなさい!! 大体、あなたは――」


 イグニスを地面に座らせ、お説教するアクアに口を挟めず、とりあえず、ミナリアはアクアの紹介を後回しにすることにした。

 頭の上からアレスの笑い声が聞こえる。

 どうやらツボに入ったようだ。


(頭の上から落ちてしまうので、笑い転げないといいのだが……)


 別のところでは、ロベルトがアクアに同情の眼差しを送っていることが気になったが、そこは深く追及はせず、気を取り直して、次の最高位精霊を紹介する。


「こちらは風の最高位精霊で名前は――」

「ヴェントだ。よろしく頼む」


 ヴェントがテララとブロンテーの肩に翼を置いていたので、ついでに紹介してしまう。


「こちらの二体は土の最高位精霊のテララと雷の最高位精霊のブロンテーです」

「テララなの。よろしく!」

「ブロンテーなの。よろしくー」


 それぞれお行儀よく挨拶する二体を褒め、ヴェントが撫でてあげている。


「この子たちは普段は良い子なんだが、時折、悪戯っ子になってしまうんだ。俺はこの二体のお目付け役だから、もし何か悪戯されたら言ってくれ。叱っておくから」


 エリックたちに向けられたヴェントの言葉にテララとブロンテーが反応する。


「ヴェント酷いよ。テララ悪戯なんかしないもん!」

「ブロンテーもそんなことしない」


 ぷんぷん怒る二体に、誰が見ても呆れていると分かる態度で、ヴェントが二体を見遣る。


「なら、踏んだらビリビリと痺れる罠を作ったのはお前たちではないと?」


 静かに問い詰めるヴェントに二体はあらぬ方に視線を泳がせる。


「ちがっ、違うもん。テララじゃないもん」

 

 テララは詰まりながらも否定する。

 ブロンテーに至っては何も言わず、無実を訴えるように何度も首を振っている。

 誰がどう見ても心当たりがあるように見え、惚ける二体をジッと見つめ続けるヴェントの視線に耐えきれなくなったのか、テララがぽつりと呟いた。


「…………違うもん。……ちょっと、ピリってするだけだもん」

「ピリッだけだもん。…………ヴェント、行っちゃった。…………呼んだのに、気付かなかった。…………ブロンテーとテララ、置いてった。……遊んで欲しかったのに……。呼んだのにっ…………」


 えぐえぐ、泣き出したブロンテーにつられてテララも泣き出してしまう。

 いきなり泣き出す二体にヴェントも驚いて、自分の翼で二体を優しく撫で、慰める。

 ヴェントがさっき言っていた罠は、ヴェントに懐いている二体が、ヴェントに気が付いてもらえなくて、悲しくて寂しくて仕掛けてしまった悪戯。

 罠を仕掛けてしまったことは叱らないといけないが、何だかんだと言って二体に甘いヴェントはきっと許してしまいそうな気がする。

 実際に被害にあったのはヴェントだけのようだから、特に。


「すまない、俺を呼んでくれてたのか……。……それは気が付かなくて悪かった……。――あの日は、突然、王に急ぎの仕事を頼まれ、慌てていたものだから、周りに全く注意を払っていなかった。…………お前たちの呼ぶ声に気が付かず、悲しい思いをさせて、すまなかった」


 申し訳なさそうに謝るヴェントにテララとブロンテーはへばり付き、ヴェントは二体を翼で抱き締め、宥める。


「うぅ、かな、悲しかったけど、ヴェントは悪くない。――王が悪い」

「グスッ、王が悪い」


 突然、槍玉に挙げられたアレスはミナリアの頭の上でだらけきっていた身体を起こし、驚愕の声を上げる。


「えっ?! 僕が悪いの?! 自分の部下に仕事頼んで怒られるの?! 何で!?」


 アレスの訴えは二体にばっさりとぶった切られてしまう。


「ヴェントが急いでいたのは、王のせい」

「王のせい。切羽詰まって、急ぎの仕事になったのは、仕事を溜め込んだ、王が悪い」


 ヴェントの翼の下からテララとブロンテーがアレスを睨み付ける。

 仕事嫌いで、すぐに逃げ出してどこかに行ってしまうという悪癖を持つアレス。

 グサグサと二体の言葉がアレスに突き刺さり、ついにはミナリアの頭にへばり付いてしまった。

 どうやら項垂れてしまったようだが、自業自得なので誰もフォローすることはできない。


「これに懲りて、仕事は真面目にすることをお勧めいたしますわ」


 ぴったりとオプスに寄り添っているルーチェが冷めた視線でアレスに進言する。


「うん、そうだねぇ。下の者に示しがつかないよ。今までの五倍は働かないと」


 こちらもルーチェにべったりとくっ付くオプスが珍しく不機嫌そうな声で、アレスに止めを刺してしまった。

 撃沈してしまったアレスを精霊たちは誰も気にすることなく、ルーチェがミナリアの代わりに自らとオプスを紹介してくれる。


「わたくしは光の最高位精霊のルーチェですわ。――そして、隣にいるのが、闇の最高位精霊のオプスですわ。二体揃ってよろしくお願いしますわ」

「ルーチェ共々よろしく」


 丁寧に挨拶するルーチェに、それに追随するオプス。

 仲良く寄り添う二体に、ミナリアは仲良しだなぁと内心ほっこりしながら見守る。

 何処だか機嫌が良さそうにオプスとルーチェの方を見るエリックが気になったが、アクアがこちらにやってきてくれたので、後回しになっていたアクアの紹介を行うことにした。


「こちらは水の最高位精霊のアクアです。アクアはイグニスのお目付け役なのです」


 ミナリアの紹介にアクアは一礼し、先程の自身の紹介に一言付け加える。


「水の最高位精霊のアクアです。イグニスは普段から問題児ですが、褒めると余計に酷くなるので、覚悟を持って接してあげてください」


 にっこりと微笑むアクアが、ミナリアには何だかとっても怖く見えた。

 

(アクアの右手に鷲掴みされ、引きずられてきた、恐らく意識がないであろうイグニスのせいではない、……といいなぁ)


 恐怖のあまり、自身の毛皮が少し逆立ってしまったがミナリアは気を取り直し、最後の一体となったアレスを紹介してしまうことにした。

 頭の上に置いたままエリックたちに紹介するのもどうかと思い、一度、アレスを地面に下ろしてから改めて紹介する。


「最後になりましたが、こちらが精霊王のアレスです」

「アレスだよ! よろしくね!」


 先程の落ち込み具合はどこに行ってしまったのかというぐらいに元気いっぱいの挨拶でアレスは名乗ってくれたのだが、その姿は入学式で見せた威厳は欠片も残っておらず、先程の姿との差にエリックたちが戸惑ってしまっている。


「僕はねぇ――」

「王はいつでも元気いっぱいだな」

「ですが、王はすぐに調子に乗りますね」


 アレスの言葉を遮って、イグニスはアレスの特徴をそう述べる。

 アレスは嬉しそうにしていたが、続くアクアの言葉にうっと言い、自身の胸を抑えていた。

 

「一応、王は精霊を統べる立場だな」


 ショックを受けるアレスの姿に、ヴェントがフォローをしようとしたのだろうが、()()と言ってしまっている時点で失敗してしまっている。

 現にアレスは胸を押さえた格好のまま、固まってしまい動かない。


「王は仕事嫌いですぐにどこかに行くの」

「さぼり魔」

 

 テララの言葉に追随し、ブロンテーが容赦ない言葉をアレスに投げつけたので、アレスが地面に崩れ落ちてしまったが、大丈夫なのだろうかと心配になったミナリアが声を掛ける前にルーチェの攻撃に合ってしまい、ミナリアは残念ながら間に合わなかった。


「そうですわねぇ、王は……人に仕事を押し付けるのが得意ですわね」

「うん。それに、仕事を溜め込むのも得意だねぇ。そのせいで、僕らは頻繁に迷惑を掛けられてる。――ルーチェに構ってもらう時間が減るから、迷惑」


 ルーチェに扱き下ろされた挙句、オプスにまで冷たく言い放たれ、地面にめり込んでしまうのではないかとミナリアがハラハラするほど、アレスが身を投げ出してしまっていた。

 傍らで、「かまっ、構ってなんて……」と言い、焦っているルーチェと、「構ってくれないの?」と小首を傾げるオプスとのやり取りが気になりつつも、そちらを見守る余裕がミナリアにはなく、少し残念だ。

 この事態にどう収拾をつけようかしばし悩んだが、考えてもいい案が思い浮かばず、もう、よくあることだと全てを放棄することにした。


「えっと、その、…………では、精霊の紹介は終わったので、リックさんたちを紹介しますね」


 不自然な笑みを浮かべたミナリアがぎこちなくエリックの傍まで歩いて行き、エリックの紹介へと移った。

 その際、自然に手を取られたが、慣れてきたこともあり、ミナリアはそこまで気にすることもなくエリックを紹介する。

 

「こちらが、リックさんです」

「エリックです。エリック・フ……? ファ? えぇっと……?」


 自分の名前を呟きながら悩み始めてしまったエリックにミナリアが戸惑っていると、ロベルトからの救いの手が差し伸べられた。


「エリック・ファベルですよ。学園に入学に当たり、姓が必要になり、ファベルの姓を借りたのでしょう? いい加減覚えてください」

「俺、おっさんとしか呼んでなかったから、最近、法律で必ず学校に行かなきゃいけないって教えてもらった時におっさんの名前を初めて知った。ファベルって名乗ることもなかったし、すっかり忘れてた」


 あっけらかんと言い放つエリックにロベルトが頭を抱え始めるが、エリックは気にした様子もなく改めて言い直す。


「エリック・ファベルです。よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げるエリックに精霊たちも、よろしくと次々と声を掛けていく。

 

「それで、こちらが――」

「ロベルト・ヘンドラー、お説教が多い。こっちが、ラルフ・フォーリア、お調子者」

「なっ!」

「ちょっ!」


 ミナリアがロベルトを紹介しようとしたら、エリックがロベルトだけでなく、ラルフまで一緒に紹介してくれたのだが、余計な一言が付いているため、二人が怒りだしてしまった。

 精霊たちもロベルトとラルフにそれぞれ声を掛けるも、若干、表情が引きつっている。


「エリック! あなた私のことをそんな風に思っていたんですか!? 私がどれだけあなたのフォローをしてきたか。そんな私に、――」

「エリック酷いよ! お調子者って何!? 大体、――」


 エリックを叱りつけるロベルトに、文句を言うラルフ。

 そんな二人を気にも留めず、エリックはミナリアを見てニコニコしている。

 この収拾付かなくなってしまった事態にどうすればよいのか分からず、ミナリアは困り果て、空を仰いだ。





ここまでお読みいただきありがとうございます!


申し訳ありませんが、明日と明後日の二日間更新はお休みさせていただきます。

次回の更新は6/11の0時を予定しています。


また、ブックマ&評価もありがとうございます!

是非、お読みいただいた際は、ブックマ&評価の方もいただけると嬉しいです!

よろしくお願いします!



追記:申し訳ありません。更新予定日に間に合いそうになく、お休みを一日延長させていただきます。

次回更新日は6/12の0時に変更になります。

申し訳ございません。


追記の追記:大変申し訳ありません。更新日を再延長します。

本当に申し訳ございません。

頭痛が一日では治らず、まだパソコン画面を見続けられず、次話の編集が追いついてません。

どうしても書くのも編集も時間がかかるので、やむを得ず再延長します。

本当に申し訳ございません。

次回更新日は6/13の0時の予定になります。

本当に本当に申し訳ございません。

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