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6.白熊、ぼさぼさ頭に裏切られる。


 入学式が終わり、これからの学園生活や授業についてクラス担任から話を聞くために、各自、それぞれの教室へと移動し、担任の教師が来るのを待っているところだ。

 このクラス分けは入学試験の成績順で決まる。

 試験時、他の受験者の意識の妨げにならないようにと別室で試験を受けたミナリアだったが、見事、主席入学を果たし、トップクラスであるAクラスに所属することができた。

 ミナリアは、やるときはやる熊なのだ。

 小さな頃から両親に鍛えられてきたミナリアは、学園から来た試験結果の知らせの手紙を見て、筆記・実技共に優秀な成績を収めることができたと分かり、珍しく大喜びで、ぴょんぴょん飛び跳ね、身体いっぱいで喜びを表現していた。

 なお、この結果は、決してミナリアが外に遊びに出掛ける友達がおらず、時間が有り余って勉強ばっかりしていたからではない。


(ないったら、ないのだ)


 そんな疑惑は置いておき、早速、その日の夕食の席で学年主席になったことを両親に報告すると、両親は沢山褒めてくれた後、学園での入学式では主席が新入生代表の挨拶をすることになるのだと教えてくれ、ミナリアは絶望させた。


(大勢の前で挨拶とか、無理に決まってる!!)


 どれだけの注目を集めるのだろうと考え、その想像した人数の多さにミナリアがショックで放心していると、見兼ねた両親が後日、学園に掛け合ってくれ、更にはミナリア自身も固辞したため、ミナリアは何とか新入生代表の挨拶を免れたのだった。

 それにも拘わらず、結局、ミナリアは別の意味で注目を集めてしまったので、挨拶を回避した意味がなく、ミナリアは式の最後まで居心地の悪さに縮こまっていた。


 そんなミナリアは、今、エリックから質問攻めに()っていた。


「ミーナはよく森に行くの?」

「は、はい」


 周りの視線が気になるものの、エリックの独特のマイペースさに飲まれて、ミナリアは口を挟む隙もなく、どこかご機嫌な様子のエリックの質問に答えるだけで手一杯で、ややもじもじしながら聞かれるがままに質問に答えていた。

 実は、入学式が終わり、この教室に移動する間中、ずっとエリックと手を繋いでいたのだ。

 教室に向かう途中も色々な話をしていたのだが、その話の中で、どうやら二人は同じクラスであるということが判明する。

 行先は同じなので、そのまま一緒に移動し、教室に着いてからも、座席が決められていなかったため、ミナリアは他の生徒の邪魔にならないようにと窓際の一番後ろの席に座り、エリックは当たり前のようにその隣の席に座って、再びミナリアに話をしている。

 わざわざ椅子をミナリアの方に寄せ、もこもこのミナリアの手を取り、目を合わせてはニコニコしながら、入学式の待ち時間と同じように周りは一切気にした様子も見せず、ミナリアと話をしている。

 しかし、エリックは気にならないようだが、ミナリアは周りの視線が気になって仕方がなかった。

 ミナリアが白熊姿なので目立ってしまうのは分かる。

 ミナリアだって、自分と同じように人と違う姿を見てしまったら驚くし、何だろうと、つい注目してしまう。

 それを責めるつもりは全くないが、それでも、ミナリアは視線が気になって仕方がなく、エリックに話しかけられているのにも拘わらず、気もそぞろになっていた。

 それでも、隣にエリックがおらず、ミナリアが一人で教室に待機していたら、注目を受ける居た堪れなさに縮こまり、申し訳なく思っていただろう。

 だがここには、エリックがいる。

 エリックはミナリアの容姿を気にする素振りを見せない。

 

(いや、別の意味では気にしているとは思う。よくミナリアの手を取り、触っているし、多分、ふわふわ、もこもこしているのが気に入っているんだろうなぁ)


 そういう意味ではエリックも興味津々といってもいいかもしれない。

 だがしかし、エリックの視線をミナリアは嫌だとは思わない。

 何といっていいのか分からず、適切な言葉に当て嵌めることは難しくてできないが、こう、ぽかぽかと心の中が温かくなる気がするのだ。

 まるで両親がミナリアに向ける視線に似ている気がする。

 とにかく、嫌な感じがしないのだ。

 

「ミーナ? どうかした?」


 ミナリアが考え事をしている間もエリックは話しかけてくれていたようで、返事のないミナリアを心配して顔を覗き込んできた。

 いきなり近距離にエリックの顔があって驚き、恥ずかしくなってしまい、ミナリアが先程よりももじもじし始めたとき、エリックの後ろに人影が現れた。


「エリック! また、あなたは懲りもせず、いい加減にしなさい!」


 辺りに響くような音を立て、ロベルトがエリックの頭を叩き、注意する。


「ロベルト痛い……」

「いいですか、いくら学園が身分の差なく実力が全てだと言っても、やっていいことと悪いことがあるんですよ! 婚約者でもない貴族の淑女にそのように近づくなんて、いくら学園内だからといって許されることではありませんよ!」

「誰にでもこんなことしないよ。ミーナだからするんじゃないか」


 エリックの文句も取り合わず、ロベルトは言い募るが、エリックはロベルトのお説教にも堪えた様子もなく、なぜ自分が叱られているのか理解できないと言った表情をしていた。

 ミナリアはエリックの言葉に何故だか少しドキドキしてしまい、自分の異変に内心首を傾げながら、何も言わず二人のやり取りを見ていた。


「ですから、それが問題なんだと言っているんです! 大体――」

「おーい、そこまでにしろ。とっととホームルームを終わらせて、こっちは早く明日の準備を終わらせちまいたいんだからな」


 ロベルトの言葉を遮るように話しながら、担任の教師が教室に入ってきた。

 ロベルトはまだ言い足りないようだったが、やむを得ず中断し、近くの席へと移動していく。

 その隣の席にはラルフがおり、二三言葉を交わしているようだった。

 エリックも残念そうにしながら椅子ごと元の席に戻り、眠たそうな表情をしながらも、一応、前を向いている。

 それにしても、先程の言い回しから、ミナリアのクラスの担任は何だか独特な感じの人である予感がひしひしとしていた。

 茶髪の髪はぼさぼさで、よれて所々汚れている白衣を着ているため、尚更、独特な感じを醸し出している。


「よーし、全員席に着いたな。俺はこのクラスの担任になったチュダーク・トレークハイトだ。お前たちも知っての通り、ここでは身分は一切通用しない、実力が全てだ。――そうだな、ここで言うと、…………ミナリア・オルソ。一番後ろの席に座っている熊がオルソだが、そいつがこの学年の首席だ。オルソは高等部の全学年を合わせても上位に位置するといってもいいくらいの実力者だな」


 何もしてなくても目立つけど、でも、できるだけ目立たないようにと、新入生代表の挨拶も固辞するほど拒んだにも拘わらず、トレークハイトにミナリアが首席であることを暴露されてしまい、ミナリアは裏切られた気持ちになり、愕然とする。

 ミナリアは自身が主席入学したことを内緒にして欲しいとは言わなかった。

 ただ、ミナリアが新入生代表の挨拶をすると場が混乱するし、目立ってしまうので他の誰かにお願いしてほしいと頼み込んだだけだ。

 だけど、これはないんじゃないだろうかとミナリアは声を大にして言いたい。

 ミナリアは学年主席になったからと威張り散らしたいとか、権力を誇示したいとか、そんな思いはない。

 ただ、静かにひっそりと、目立つことなく、安穏の学園生活を送りたかっただけである。

 それをトレークハイトにぶち壊しにされてしまったのだ。

 更に、トレークハイトはミナリアが新入生代表の挨拶も固辞して受けなかったことまでも暴露し、あまりの仕打ちに硬直して微動だにしなくなったミナリアを気にした様子も見せず、次々と他の生徒の名を上げていく。


「次点で、ラルフ・フォーリア。三位がロベルト・ヘンドラー。四位がローズ・スプランディド。五位がエリック・ファベルと続く。以上が上位五名だ。ファベルは、特待生でもあるな。実技はオルソと同じくらいだったが、筆記が足を引っ張ってこの順位だな。まあ、頑張って勉強するこった」


 トレークハイトは意地悪そうに笑ってエリックを見る。

 そんなトレークハイトを先程と変わらない表情でエリックは見返すが、ふと、ミナリアの視線を感じたのか、こちらを向いてにっこりと笑い、また、前を向いた。

 エリックのトレークハイトへの態度とミナリアへの態度の違いにミナリアは吃驚してしまい、エリックを見つめたまま、またもや固まってしまったが、まだ、トレークハイトの話の途中だったことを思い出し、前に向き直った。

 何だか詰まらなそうな表情をしたトレークハイトは、面倒臭そうに溜息を吐き、表情を変えて話しを続ける。


「この学園でデカい顔がしたかったら、上に上がれ! もう一度言うが、ここでは実力が全てだ。上位に立ちたければ、全てを実力でねじ伏せろ! ――――なぁ、オルソ?」


 トレークハイトに、突然、話を振られ、そんなつもりは欠片もないミナリアは、涙目になりながら、何度も横に首を振った。

 クラス全員の視線を浴びて、ミナリアは今にも泣き出しそうだった。

 そんなミナリアをまたしても詰まらなそうにトレークハイトは見た後、話を戻す。

 

「なんでぇ、詰まんねぇの。…………まあ、いいや。そんで、お前らに与えられたチャンスは年三回。夏季休暇前の試験、冬期休暇前の試験、そして、学年末の試験だ。その結果によって順位は変動し、上位者の顔触れも変わる、かもな。もちろん、成績が落ち、順位が下がればクラス自体が変わることもある。その逆も然りだ。あとは、問題を起こさないことだな」


(問題とは……?)


 そうミナリアが疑問に思ったものの、トレークハイトの話は次へと進んでしまい、それについて詳しく話されることはなかった。


「それに、選択授業も考えておけよ。見学も兼ねた授業は明後日から始まるからな。時間割が被らん限りはできるだけ気になるところには顔を出しとけ。後から、受けたくなっても授業についていけなくなるからな。それに、時間割によっては、来年、再来年、受けられるかは分からん。二週間後には受ける授業の一覧を出してもらうから、しっかり吟味しろよ」


(選択授業は明後日から、と)


 あれもこれもと気になる授業があるため、ミナリアは家に帰ってからもう一度吟味しようと頭の中にメモしておく。


「あぁ、あと、明日は一日中動き回るから、体操服を忘れるなよ。――さっき名前を上げた奴らが上位なのに納得いかない奴や、自分の順位に納得いかない奴もいるだろうからな。明日は魔法漬けの一日だ。己の実力を見せつけてやれ!」


 トレークハイトの言葉に空気がピリついたような気がした。

 クラス全員、やる気が漲っているようだ。

 この空気に飲まれそうになり、ミナリアは身震いしてしまった。


「じゃ、後は事前に各自に配ってある冊子で確認しろ。じゃあ、今日は解散。お疲れさん」


 そう言って、トレークハイトは振り返りもせずに教室を出て行く。

 適当に始まったホームルームは、波乱の空気を残し、終わった。

 ミナリアの予想通り、このクラスの担任はとても癖が強いようだということだけは、嫌でも理解できて、ミナリアは、この予想はあんまり当たって欲しくなかったと項垂れてしまうのだった。





ここまでお読みいただきありがとうございます!


申し訳ありませんが、明日の更新はお休みさせていただきます。

次回更新は6/6の0時を予定しています。


ブックマ&評価もありがとうございます!

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