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白熊物語 ~オルソ侯爵家の白熊はこれでも人間です!~  作者: 蒼井 空
第2章 白熊、糸目と学園生活を送る。

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4.白熊、変装王子の意外な一面を知る。

遅くなり申し訳ございません。

編集が追い付かず、遅れました。

申し訳ありません。


 お昼を挟んだ午後の授業。

 再び、ミナリアたち1-Aの生徒は外の訓練場に集まっていた。

 

「よし、全員いるな。――じゃあ、お前たちにはこれと戦ってもらう」


 そう言って、トレークハイトの隣に現れたのはダークグレーのグレートボアが一体。

 ミナリアの胸の下くらいまでの大きさがある。

 ただ、輪郭がゆらゆらと揺れているところから、生きた魔物ではなくではなく魔法で出したものだろう。

 実際の魔物との違いは、ほぼ無い。

 強いて言えば、本物の魔物の体色は濃い焦げ茶色で色がやや違うところだろうか。


「最初は……ヘンドラー、お前だ。前に出ろ」

「はい」

「ルールは簡単だ。魔法でこいつを倒せ。――シンプルで分かりやすいだろ?」

「ええ」

「よし。じゃあ、始め!」


 午後の実習の一番手はロベルト。

 トレークハイトの合図でロベルトが大剣を手に短縮呪文を唱える。

 グレートボアは一心不乱に真っ直ぐ突っ込んでくるのが特徴の魔物で、このグレートボアも例に漏れず、ロベルトに向かって突っ込んでくる。

 そこで、空から幾閃もの雷が落ちグレートボアに直撃する。

 先程の一点集中の雷とは違い、複数になると格段に制御が難しく、また、魔力を均等に込めるには技術がいる。

 いくつかは当たらないことを前提に幾閃もの雷を落とし、グレートボアの仕留めるつもりのようだったが、グレートボアはよろけるだけで、まだ、倒れない。

 どうやら威力が足りなかったようだ。

 ロベルトは、一瞬、眉を顰めたが、直ぐに気持ちを切り替えて走り出した。

 先程の雷で体が痺れているのか、グレートボアの動きが鈍くなり、スピードが落ちてきたので、そこをロベルトは大剣で仕留めた。

 グレートボアはその身を残すことなく、消えていってしまった。


(一撃目がダメでも、現状を直様判断し、次の攻撃へと移すことが出来るのだから、ロベルトさんは戦いなれているのだろう。……あの冷静さは見習わないと……。…………あぁ、でも、やっぱり、グレートボアは幻なんだ……)


 グレートボアが消えてしまったことにミナリアがしょんぼりしている間に、ロベルトはラルフのところへと戻っていく。

 そして、二人で二、三話をした後、二人でこちらの方にやってくる。


(リックさんとお話しするのかな……?)


 ミナリアは邪魔にならないようにと少し離れたところに行こうとすると、エリックにバシッと手を掴まれた。

 エリックの目線は、今、魔物と対戦しているクラスメイトの方を向いているのに、手は何故かミナリアを捕まえている。

 こちらを見ずに気配だけで捕まえられたミナリアは途方に暮れたまま、傍までやってきたロベルトに目線で訴えていた。


「エリック、オルソ嬢が困っていますよ?」

「ん。ミーナは大丈夫。……今、忙しいから、ロベルトは後」


 ロベルトはミナリアの視線の訴えに気付き、やんわり進言してくれたが、エリックは対戦中の生徒から目を離さず、ロベルトを後回しにする。

 エリックの対応にロベルトが怒り出すのではないかとハラハラしていたが、ロベルトは溜息を吐きミナリアに首を振って、この状況の改善は無理だと投げられた。


(何だか慣れた対応だ。リックさんがこうなると、もう、どうにもならないのだろうか?)


 ロベルトが怒り出さなかったことに安心したが、では、この掴まれたままの手はどうしたらいいのだろうとミナリアは途方に暮れてしまう。


「エリックがこうなると人の話を聞かないから諦めた方がいいよ」


 困り果てたミナリアにラルフから助言が与えられた。

 と思ったら、ラルフとは反対の場所に移動させられる。


「リックさん……?」

「ラルフの傍は危ないからね」


 ミナリアを移動させたエリックはそう言って、ミナリアの頭をひと撫でしてから視線を対戦中のクラスメイトに戻した。

 エリックの隣ではラルフが怒りの抗議をしているが、聞こえてないのか、無視しているのか、エリックは意にも介さない。

 騒動の渦中にあるミナリアは困り果てたものの、ラルフは散々文句を言った後、諦めたのか溜息を吐き、静かにエリックの隣でクラスメイトの対戦を観戦し始めた。

 

(やっぱり、慣れかな……? ……でも、手を放してもらえたのは助かったかも。先生が怒りそうだし、何より、人目のある所ではちょっと恥ずかしい。……無論、嫌なわけではないけれど……)


 そう思いながら、ミナリアも同じようにクラスメイトの対戦を見守り、そして、自分の糧とする。



 殆どのクラスメイトが対戦を終え、後、何人残っているだろうかという頃合いにミナリアの名前が呼ばれた。


「ミーナ頑張ってね」

「はい!」


 トレークハイトに呼ばれたので、前に出て行こうとすると、エリックから激励を飛ばされ、元気よく返事をし、対戦場所へと移動する。


「あぁ、オルソは一体じゃ足りないだろ? ――これで、心置き無く戦えるだろ?」


 意地悪く笑うトレークハイトがミナリアの時だけ、七体の魔物を出現させる。

 七体ものグレートボアを見て、ミナリアの表情が少し曇ってしまう。


(七体もいるのに…………)


 心の中でそう呟いたミナリアは、トレークハイトの開始の合図でタクトを出現させる。


(複数いる敵を足止めするには、これ……!)


「【氷結】」


 自分の適性魔法だけで対応できるので、精霊は呼ばずに自身の魔法を使う。

 稀に、魔法属性の適性を極めると、その属性のさらに上の段階の魔法を使えることがある。

 ミナリアの魔法適性は水属性。

 これを極め、ミナリアは水に関する温度変化まで操れるようになり、水を凍らせる魔法まで使えるようになった。

 温める方は火属性の適性もないと難しく、ミナリア単体では使えず、精霊の協力がいる。

 また、属性によっては上の段階の魔法がないものや、決まった属性の適性が複数無いとできないものもある。


「【氷槍】」


 ミナリアは凍らせたグレートボアを短縮呪文で出現させた七本の氷の槍で突き、破壊。

 グレートボアは消えていってしまった。


(…………あぁ、消えてしまった…………)


「いや、七体いるんだから、それぞれ別の属性を使うんじゃないのかよ!」

「…………すみません」


 グレートボアが消えて、しょんぼりしているミナリアの耳にトレークハイトの文句は素通りしてしまう。

 即座に七体ものグレートボアを倒したのにもかかわらず浮かない顔をし、文句を言えばどんよりとした返答をするミナリアにトレークハイトは口を噤み、戻っていいと声をかける。


「ミーナ、どうしたの? 何かあった?」


 対戦を終えて戻ってきたミナリアにエリックが駆け寄って心配そうに声をかけてくれる。

 魔物が消えてしまって落ち込んだものの、心配をかけるつもりのなかったミナリアは緩く首を振り、そんな大層な事はなかったのだと否定する。


「でも、何だか悲しそうだよ?」

「……その、本当に大したことじゃなくて……。……お母様がグレートボアのお肉が好きで、倒したのに消えてしまったから、それを持って帰ってあげられないなぁ……って……」


 訳を話している内に、こんな些細な事で落ち込んでエリックに心配をかけてしまっていることに居た堪れなくなる。


「お肉が……消える……」

「……はい」


 呆然としながらぽつりと繰り返し言われると、なお、居た堪れず、穴を掘って埋まりたくなる。


「…………ミーナは家族思いなんだね」


 長い沈黙の後、羞恥に耐えるミナリアの頭をそっと優しくエリックが撫でてくれる。


「ぶふぅ! お肉って……!! それ、授業中に考えること?」


 いつの間にか、傍に来ていたラルフが器用に周りに迷惑が掛からないくらいの声で、お腹を抱えて大笑いしている。

 ラルフに笑われたことにより、ミナリアの恥ずかしさは限界を超え、一人だけ着ているローブのフードを深く深く被り、顔を隠してしまった。


「このバカ! 貴方のデリカシーのなさは前々から知っていましたが、今日という今日は――」


 バシッ!! と何かを叩く音がして、ロベルトのお説教の声が聞こえてきた。


「ほわぁ!」


 恐らく、ロベルトに叩かれたのであろうラルフは大丈夫だろうかと、ローブのフードをちらりと上げて覗くとエリックのドアップと目が合い、謎の驚きの声を上げてしまった。


「リ、リックさん……? どうされました?」

「いや、フードを深く被ったミーナを見るのはあの森以来だなぁと思って。あの時は、ちらっとしか顔を見れなかったから、今、しっかり見たくなって、じぃっと見てた」


 何とも恥ずかしくなることをエリックに言われ、開いた口が塞がらなくなる。

 あわあわと口をパクパク動かし、ほんのり頬が赤く染まったミナリアは遠くなる意識を何とか堪えていた。


 そこで、タイミングよく次に対戦する者が呼ばれた。


「あっ、魔法陣の……」


 次は、あの魔法陣の彼女の対戦が始まるようだ。

 ミナリアの視線が何度も彼女の方をチラチラ向くため、エリックはミナリアの観察を止め、ミナリアの頭をひと撫でしてから自身も観戦の態勢に入った。

 ミナリアは撫でられた頭を押さえ、一時、ぽやぽやした後、彼女の対戦に食い入るように見入る。


(魔法陣の詠唱時間の問題を解決する方法は何個かあるけど、彼女はどんな方法を取るのだろう?)


 ミナリアがわくわくしながら見つめる先で、彼女はその問題を事前に準備していた札のようなもので対応するようだ。

 ミナリアは心の中で感嘆の声を上げる。


(おぉーー! 何かカッコいい!!)


 トレークハイトは彼女の前に二体のグレートボアを出した。


「じゃあ、始め」

「“柔らかなる大地を”!」


 やる気のなさそうなトレークハイトの掛け声で、彼女は手元の札の中から一枚選択し、詠唱の最後の部分、結びの文言を唱える。

 すると、グレートボアの足元の土が柔らかくなり、グレートボアはそれに足を取られてしまう。

 そして、グレートボアの足を地面が飲み込んだのを見計らい、魔法陣を消してしまう。

 グレートボアの足が沈み込んだ地面が魔法の効果を無くし、元あった固い地面へと戻り、グレートボアの動きを封じ込める。


「“漆黒の浮き球を”」


 そして、残った札で闇の初級魔法を動けないグレートボアに叩きつけた。

 黒球をいくつも食らったグレートボアはその場から消えていく。


(凄い! 魔法陣なのに、グレートボアの心臓辺りに同じ大きさ、同じ場所に黒球を当ててる! それも二体同時に!!)


 ミナリアは興奮のあまり、胸の辺りで両手をブンブン振るう。

 魔法陣の彼女はその場から動くことはなく、トレークハイトに出されていた課題を難なく熟してしまったのだ。

 ミナリアがトレークハイトに評価をもらっている彼女に尊敬の眼差しを送っていると次の者が呼ばれた。


「次、ファベル!」

「はい」

「リックさん、頑張ってください!」


 ミナリアは先程の名残のまま胸の前で両手をぎゅっと握り、トレークハイトに呼ばれたエリックを激励して送り出す。

 ミナリアの応援を受けたエリックは口元に笑みを浮かべて軽く手を振り、前に出る。


 トレークハイトはエリックの前にも彼女と同じようにグレートボアを二体出現させた。

 開始の合図と共に真っ直ぐエリックに向かって突進してくるグレートボアを避けることもせずに、エリックは同じようにグレートボアに向かって走り出した。

 手元には剣が握られているが、見ているこちらは冷や冷やしてしまう。


「……リックさん」

「……大丈夫だよ」


 ミナリアは不安になり、思わずエリックの名前を呼んでしまう。

 そんなミナリアを安心させるように言葉がかけられる。

 驚いたミナリアが声の主を確認するよりも前に、エリックが流れるような動きでグレートボアを仕留めていく。

 余りにも一方的に瞬殺してしまい、ミナリアはぽっかーんと口を開けて、エリックを呆然と見つめていた。


「ね? 大丈夫だったでしょ?」

「…………まあ、いつものことですからね」


 ミナリアの隣でニコニコと微笑むラルフに、その隣で呆れたような表情を浮かべるロベルト。

 二人はエリックと仲のいい友人同士なので、エリックの技量を当たり前のように知っているようで、一切動揺していない。

 二人の冷静さを見るとミナリアも冷静になり、口を開けたままの間抜け面が恥ずかしくなってくる。

 体裁を整え始めたミナリアを見て、ラルフが顔を背けるが、その肩がフルフルと震えている。


「笑うなら、いっそ普通に笑ってください……」

「おい、魔法はどうした。()()は!」

「剣、熱いです。魔法、使ってます」


 ミナリアのボヤキを打ち消すようなトレークハイトの声が響き、あんな俊敏な動きが嘘だったかのようにエリックが端的に答え、ぺこりとお辞儀をした後、トレークハイトの言葉も待たずにこちらに帰ってきてしまう。


「ミーナ、応援してくれてありがとう。ミーナのおかげでやる気も上がったし、いい結果が残せたと思うよ」

「……ど、どういたしまして……?」


 呆然とするミナリアたちを放置し、エリックはミナリアとラルフの間に押し入り、ミナリアにニコニコとお礼と報告をしてくれる。

 お礼を言われたのだから返さないと、と無意識に返事を返しながらも、まだミナリアの困惑は収まってはいなかった。


「ちょっと! 何で僕らの間に割って入るのさ! 大体、エリックは――」

「おい、フォーリア! 次だ次!」

「す、すみません! 今、行きます!」


 ラルフがエリックの行いに文句を言っている内にトレークハイトに呼ばれていたらしく、ラルフは慌てて前に出る。

 

(ラルフさんを呼んだ先生の何だか諦めた表情が気になる……)


 ラルフはそんなトレークハイトの表情に気付かず、手にはしっかりと杖を握り、開始の合図を待つ。


「【泥沼】」


 合図と共にラルフの前に現れた二体のグレートボアは出現と同時に走り出そうとしたが、数メートルも進まないうちに足元に出現した泥沼に足を取られてしまう。

 ここまでは魔法陣の彼女と同じような効果だが、ここからが違う。

 ラルフの泥沼はグレートボアの足を取るだけではなく、徐々にその体までも沈めてしまう。

グレートボアが藻掻けば藻掻くほど、それだけ体は沈んでいく。

 しかし、それだけでは済まさず、ラルフはその顔面に容赦なく水球を叩きつけ、気絶させた上で泥の中に沈めてしまった。

 辺り一帯に沈黙が広がる。

 ミナリアはラルフの容赦のなさに震えが止まらない。

 若干、毛も膨らんでいるかもしれない。


(こ、怖い……! 普段はニコニコと人懐っこい感じなのに、ここまで無慈悲に魔物を討伐してしまうなんて……)


 ラルフのとんでもない一面を垣間見て、午後の前半の実習は終わった。





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