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白熊物語 ~オルソ侯爵家の白熊はこれでも人間です!~  作者: 蒼井 空
第1章 白熊、糸目と出会う。

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13/26

13.変装王子、過去を語る。

 更新が大変遅れて申し訳ございません。

 とりあえず、一話できたので更新しました。


「殿下、私には殿下がそのような理由で改心されるとは到底思えないのですが……?」


 ウィリディス国の第二王子ランドルフ・ウィリディスの側近であるロベルト・ヘンドラーが、先程のオルソ侯爵令嬢との話で気になるところがございまして、と前置きした上で尋ねてきた。

 ここにはランドルフとロベルトしかいない。

 堅苦しさを嫌うランドルフが(あらかじ)め人払いをしておいたのだ。

 にも拘わらず、ロベルトは普段、親しいものだけで集まった時のような話し方ではなく、妙に嫌味なくらい丁寧な口調で確認してきた。

 遊び半分で、その流れに則り、その通りだと返しながら、ランドルフは、いや、ラルフは敏い側近を持てたことを密かにほくそ笑んでいた。


「やっぱり。……貴方が、あの程度で改心するとは、到底思えませんでしたからね」

「ロベルトはよく分かっているね」


 先程の態度から一転して普段の口調で話し出すロベルトに、態と感心したように頷いて見せれば、呆れたような視線を返される。


「私が、何年、貴方に仕えてきていると思っているのですか? 貴方が最盛期の時は流石に知りませんが、出会ってからのことは嫌でも忘れられません。…………実際は何があったのですか?」


 全くもって遠慮がなくなってしまった側近に笑みを返してやれば、煩わしそうにしながらも有無も言わせず再確認される。

 とっとと話せと目で語っているところがエリックとそっくりで、ラルフは吹き出しそうになるのを堪えるのに大変な思いをした。

 この側近を怒らせると中々に厄介なので、そんな愚行は犯せない。


(大体、最盛期だなんて、嫌味もいいところだ)


 大方、その話の詳細を聞きたがったのだって、興味本位からというわけではなく、国において最も重要な人物の一人ともいえる次期オルソ侯爵に対する行いで、これから先、起こりえる問題に事前に対処するための確認だろう。

 オルソ家を継ぐのは、その家の直系のみ。

 オルソ家の直系の子どもはミナリアしかいないので、次代のオルソ侯爵はミナリアで決まりだ。

 精霊と交流が持てるのは世界中を探してもオルソ侯爵家の直系だけ。

 そんな最重要人物に国の王子が不敬を働き、彼らの不興を買ってしまった、王家の恥とも言える出来事を、そうそう他の者に話せるわけがない。

 ――――だが、そうだとしても、信用のおける側近には話しておいてもいいだろうと、ラルフは口を開いた。


 ♪ ♪ ♪


(――あれは、春の日差しが温かく過ごしやすい日だった)


 その日は、子ども同士の交流会という名目で王子二人と歳の近いものが王宮に集められ、お茶会が開かれていた。

 実際には、二人の王子の婚約者と側近選びのために開かれた会で、もちろん、ラルフもそれは聞かされていた。

 しかし、ラルフはそうだと知っているからこそ、不貞腐れていたのだ。

 

 現在、国王には子どもが二人おり、どちらも男児で跡継ぎの心配はない。

 この国では余程のことがない限り、第一王子である兄が王位に就く。

 そして、幸いにも王太子でもあるランスロットは優秀で、王位を継ぐに相応しい人物であるため、ラルフに王位が巡ってくることはまずないだろう。

 ラルフは三歳年上の兄が王位を継ぐことに異存はない。

 ないのだが、王太子としての教育で忙しく、あまり会うことのできない兄の優秀さと比べられるのには辟易していた。

 ラルフは王太子が何かあった時のための予備だが、王太子ほどの教育は求められず、比較的自由に過ごせていた。

 もちろん、王家に対して不利益になるような行動は許されず、王子として許容される範囲の中での自由だったのだが、どこで間違ったのか、ラルフは尊大で我儘な子どもに育ってしまった。

 自分が優先されるのは当たり前。

 自分が欲しがるものは手に入って当たり前。

 王子としての教育や、剣術に魔法の授業は、気が向かないと部屋から逃げ出して遊びに行ってしまう。

 少しでもできないことがあると周りのせいにし、妙に自尊心が高く、自分の非は決して認めない子どもになった。

 

 そんな子どもだったから、自分の父親が侯爵に何度も頼み込んでようやく叶った大事な機会を、自らの手で壊し、あわや、王族から席を抜かれ、消されかねない大問題を起こしたのだ。


 その日、ラルフがいやいや出席したお茶会では、可愛い女児とは言い難い同じ年代の煩い女たちに絡まれ、かなり辟易していた。

 王族としては少々不出来な第二王子であるラルフの評価は惨憺(さんたん)たるものだ。

 みな、王太子は褒め称える。

 ラルフのことも表向きは王子として敬うものの、陰では散々貶されていた。

 もちろん、ラルフ自身もそのことは把握していた。

 なので、ラルフはランスロットと一緒にお茶会に出るのが嫌で嫌で堪らなかった。

 必ず二人は比べられる。

 そして、王太子に伴侶もしくは側近として選ばれる見込みがないと分かると、仕方なく第二王子で妥協する輩か、第二王子なら扱いやすいだろうと傀儡にしたい輩しか寄って来ないからだ。

 そのような者たちの思惑が透けて見えるたび、ラルフは苛立ち、むしゃくしゃしていた。

 

 ラルフは兄が嫌いなわけではない。

 あんな面倒な勉強や鍛錬を怠らず、黙々と(こな)す様は尊敬する。

 決して、ラルフはあの様にはできない。

 しようとも思わない。

 だけど、そんな優秀な兄と比べられ、兄ばかりを褒め称える声を聞くと、ラルフには兄だけがいい思いをしているように感じられ、とても嫌な気分になる。

 それは、ラルフが努力を怠っているからこそ、手に入らないものなのだとは、その時のラルフには理解することはできなかった。


『王太子がダメなら、仕方がないから第二王子で』


 そんな見え透いた者たちの思惑が鬱陶しくてならなかった。

 

 席移動に見せかけて、しばらくどこかに避難しようと思っていたのに、非常識にも纏わりついてくる女たちが邪魔で、それもできない。

 何とか引き離せないだろうかと考えながら移動していたら、ラルフにぞろぞろと付いてきていた女の一人が何かにぶつかり、醜悪な顔と声で周りの者たちと罵る声が聞こえてくる。

 その女がぶつかったものが、意図せず動き、こちらを振り向いた時、ラルフは恐怖に駆られ、その場で無様に座り込み、思わず叫んでしまった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ! 熊だ! 襲われるぞ! 逃げろ!!」


 ラルフの声にその場は混乱に陥り、逃げ出す者たちの叫び声で、阿鼻叫喚の図を作り出していた。

 ラルフも座り込みながらも後ずさり、必死に距離を置こうとしていた。

 あの女がぶつかったのは、口元に真っ赤な血を滴らせた野生の熊だった。

 ――あの時のラルフはそう思い込んでいた。

 よく考えれば、王宮に野生の熊が現れることはないし、そもそも、その熊の口元の赤は、その熊が手に持っていた皿の苺のソースで、ぶつかった際に、どうやらタルトのソースが口についてしまっただけのもの。

 何よりもその熊は、この状況を呆然とした表情で見つめ、とても悲しそうな目をしていたのだ。

 しかし、後から考えれば単純なことでも、冷静に判断することができなかったラルフはそのことに気付かず、ラルフを助けようと名前を呼び、必死にこちらに手を伸ばす兄と、護衛の者に助けられ、何とか無事、事なきを得たと思っていた。


 その騒動の後、ラルフと兄は王の執務室へと呼ばれ、王であり、父でもあるオズワルトに叱責されていた。


「ばっかもーーんっっ!! お前たちは、特に、ランドルフ!! お前はどれだけのことをしたのか分かっているのか!!」


 あの熊は、唯一、この世界で精霊と交流ができる一族の者で、国にとっても最も重要な人物の一人であり、あの姿は精霊からの祝福の証で、元は人間なのだと改めて告げられた。

 しかも、その話はお茶会の前日に国王自ら直々に話をされていたにもかかわらず、ラルフがまともに聞いていなかったことが発覚し、更に、父の怒りに火を付けた。

 それ以前に、授業で既にオルソ侯爵家について教えられているはずのことを未だに学んでいないということも発覚し、その抜け落ちが、ラルフが何度も気まぐれに授業をサボったために起こった弊害であのようなことが起こったと分かり、ラルフは初めて父に殴られた。

 あの時、ラルフが叫んだせいで周りの恐怖心を煽り、それに加え、ラルフの周りにいた女たちが悲鳴を上げながら逃げ出したため、状況はさらに悪化し、その後、周りに伝染するかのように近場の者が叫びながら逃げ出すといった負の連鎖が起こってしまったのだ。

 このような不手際からもラルフは散々叱られ、しばらく謹慎させられることになった。

 侯爵と精霊の判断によっては、報復として国がなくなるかもしれないと言われた時は、愕然としたものの、兄も同じような失態を犯しているし、父が大げさなだけで、ラルフは自分がそこまで悪いことをしたとは思えず、寧ろ、何故、自分がここまで怒られ、殴られなくてはならないのかと憤りまで感じていた。


 父は散々ラルフを怒鳴り続けた後、気力を使い果たしたかのように脱力すると、椅子に腰かけ項垂れてしまった。

 草臥れ、萎れてしまったかのようなその姿は、普段から王として威厳のある姿しか見てこなかったラルフには衝撃的で、もしかしたら、とんでもないことをしてしまったのではないかという思いが、ちらりと脳裏を過った。


「渋る侯爵に何度も頼み込んで、友人からの頼みとして、何とかこの機会を作ってもらえたのだ。…………ランスはあちらも跡取りだから無理だとして、ラルフにせめて縁があればと思ったのだが…………」

 

 その縁で二人の身を守れればと思ったのだと肩を落とし、いつもよりぐっと小さく感じたその姿は、言いようもなく胸を締め付け、ラルフは少しだけ自分も悪かったかもしれないと後悔した。





 更新が何度も遅れて申し訳ございません。

 ラルフ視点が中々纏まらず頭を抱えています。

 枠組みができてはいるのですが、しっくりこなくて、未だ捏ね回しています。

 次話の更新も2、3日遅れるかもしれません。

 本当に申し訳ございません。

 次回更新予定は6/26までには何とか……。

 


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