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10.白熊、糸目にお昼を御裾分けする。

何度も更新日を延長し、大変お待たせして申し訳ございません。

何とか編集が間に合いました。

本当に申し訳ございません。


「わぁ、美味しそうだねぇ。これ、全部ミーナの手作り?」

「はい、そうです。……リックさんのお口に合うといいのですが……」


 ミナリアは、今、とある日のようにお腹を空かせたエリックに自分のお昼ご飯をお裾分けしようと、座っていたベンチのような倒木の上に自分で作ったお弁当を広げていた。

 エリックに手作りか聞かれ、改めて、家族や精霊たち以外では初めて自分の手作りの品を振舞うことに気が付き、どこか落ち着きなく、もじもじ、そわそわしてしまう。

 今、ここにはミナリアとエリックの二人しかいない。


 ロベルトとラルフはこの後用事があるからとそれぞれの自宅へと帰って行ってしまった。

 精霊たちも夜にオルソ家にて『ミナリア入学おめでとうパーティ』に参加するために、それまでには仕事を終わらせるのだと、各自それぞれの仕事場へと散っていった。

 ここに残ると散々駄々を捏ねていたアレスも、アクアにずるずると引きずられて行ってしまったのだが、ジタバタと抵抗し、運ばれていくその姿は精霊たちの王であるにもかかわらず、威厳の欠片も見当たらない。

 まるで、子どものように駄々を捏ねる姿を見て、ミナリアは何とも言えない気持ちになり、何だか悲しくなってしまった。

 実は精霊たちの中で一番の問題児はアレスなのではないかということに思い至ってしまい、だからアクアの問題児への対応が年々荒くなっていたのかと、思わず遠い目になってしまう。


 そして、ここにはエリックと二人だけが残ったのだった。


 仲のいい精霊たちのいない、今。

 それでも、ミナリアは一人になった不安や寂しさに押しつぶされそうな気持ちにはならない。

 いつも一緒にいる精霊たちがいなくても、今のミナリアは決してひとりぼっちではない。

 当たり前のようにミナリアと手を繋いでくれて、取り留めのない話ができるエリックがいる。

 エリックに会ったのは今日で二回目だし、会話したのは今日が初めてだ。

 それでも、エリックと一緒にいることに不安になることはなく、何故だか安心感があった。

 

(初めはマイペースなエリックにとても戸惑ってしまったけれど、エリックに話しかけられるたび、……こちらに向けられる周りからの視線が気にはなってしまうものの、エリックと話をするのは好きだなと思う)


 だから、エリックから、もう少し二人で話をしようと提案された時も、ミナリアは即座に頷いた。

 このまま解散してしまうのは寂しく、もう少し話をしたいと思っていたから、その提案は凄く凄く嬉しかったのだ。


 ミナリアは夢中になってエリックと様々な話をしていたが、ミナリアの一番好きな苺タルトの話の途中で、エリックのお腹が空腹を訴えてきた。

 あの森での出来事を連想させる音にミナリアは思わず吹き出してしまう。

 そんなミナリアの反応に、エリックが頬を薄っすら赤く染めながら困ったように頭をかき、ごめんと謝っていたが、何はともあれ、今はエリックのお腹を満たすためのご飯が必要だ。

 すでにお昼の時間を大分過ぎており、時間が遅くなってしまったが何か食べないとという話になった。

 今の時間でしっかりと食事をとるのなら、学園の敷地外、つまり、人通りの多い場所に出なくてはならない。

 

「何処かに食べに行く?」


 エリックは当たり前のようにミナリアを一緒に誘ってくれたが、流石に人通りの多い所でミナリアと一緒にいるのはエリックに迷惑を掛けそうで躊躇してしまう。

 かと言って、ここでお昼を食べに行くエリックと別れて家に帰ってしまうのは寂しい気がする。

 悩んでミナリアが出した結論は――


「リックさん、今日はお弁当を作ってきているので、よかったら一緒に食べませんか?」


 ミナリアが作ってきたお弁当を一緒に食べる、だ。

 

 と言うのも、元々ミナリアは入学式後、森へ行って大好きな苺を摘みつつ、精霊たちと一緒にお昼ご飯を食べようかなと考えていたのだ。

 きっと入学式では何かしらの騒動を起こす可能性が高いと考え、落ち込んだ自分を慰めるつもりで入学式後の予定を立てていた。

 しかし、実際には、入学式の会場でエリックと再会したことによって、予測していたような騒動は起らず、ミナリアは一人寂しい時間を過ごすことなく済んだ。


 精霊たちとは元々約束していたわけではなく、森に行ってから声をかけてみて、手の空いている子がいたら一緒に食べようと思っていたので、お弁当をエリックと二人で食べてしまっても問題ない。


 と言うことで、ここでお昼を食べることになった。

 ミナリアが蓋を開けたバスケットの中身を見て、エリックが感嘆の声を上げ、一つ一つじっくり見定め、どれにしようか選んでいる姿は、予定とは違うけど、こうやって喜んでもらえるのは嬉しいなと口元が緩んでしまう。


「どれも美味しそうで迷うなぁ。でも、本当にもらっていいの? ミーナのお昼ご飯だったんじゃ……」

「いえ、流石に一人でこんなに食べられないので、一緒に食べてもらえると助かります」


 ミナリアが大きさや重さも関係なしに何でも入る真紅のポシェットから取り出したものは、何種類ものサンドイッチやおかずがぎゅうぎゅう詰めにされた大きなバスケットで、その中身を見てエリックは嬉しそうにしたものの、すぐに申し訳なさそうに眉を下げてしまった。

 その反応に、どうしたのかと戸惑ってしまったものの、エリックの言い回しから、もしや、ミナリアが三~四人前くらいあるこのサンドイッチたちを一人で全て食べるつもりだったのではと誤解されているのではないかと気が付き、やんわりと一人でこの量は無理であると伝えておく。


「そうなの……? なら、遠慮なく――」

「はい、どうぞ。……やっぱり、リックさん、私がこの量を一人で食べるつもりだと思っていましたね?」


 ミナリアの言葉にエリックは焦ったり、後ろめたくなるような様子も見せず、照り焼きチキンサンドを手に取ったので、何か一言チクリと言わずにはおれず、エリックをジットリと見つめながらぽつりと文句を言うと苦笑が返ってきた。


「うん。違ったんだよね? ごめん」

「もう! いくら私が白熊姿だからとは言え、こんなに沢山は食べれませんよっ!」


 ぷんぷん怒るミナリアの頭を、サンドイッチを持っていない方の手で撫で、エリックはその考えに至った理由を話してくれた。


「そうだよなぁ。普通はこの量を一人では食べられないよなぁ。……ごめんね、ミーナ。ちょっと影響され過ぎたみたいだ。――実は、ロベルトはいつもこれくらいの量をペロリと食べちゃうんだ。だから、ミーナもそうなのかと思っちゃって……」


 困ったように笑うエリックに、ミナリアは何も返せず、ぽっかーんと口を大きく開けたまま、上手く情報が呑み込めず、そのままバスケットを見て、エリックを見てと繰り返し、エリックから大きな頷きをもらい、何とかその思いもよらない情報を無理矢理飲み込んだ。


「…………吃驚しました…………。今日、初めてお会いしましたが、そんなに食べられるような方には見えませんでした……」

「うん。俺も初めてロベルトとご飯を食べに行った時は、異様に沢山注文するから何事かと思ったよ。しかも、それをちょっと嬉しそうな顔をしながら全部食べちゃうもんだから、あの時は驚きのあまり中々正気に戻れなかったよ」


 その時のことを思い出しているのか、遠い目をしてどこかを見つめて帰ってこないエリックを何とか現実に戻し、手に取っていたサンドイッチに口を付けてもらう。

 ミナリアには人間の友達がいなかったため、家族や精霊たち以外に自分の手料理を振舞ったことがなく、美味しいと言ってもらえたら嬉しいけど、美味しくなかったらどうしようと不安になりながらもミナリアはエリックの判定を待つ。


「……うん、美味しいよ。ミーナはお料理上手なんだね」

「本当ですか!?」

 

 空腹が何よりものスパイスになっているとはいえ、エリックの言葉に若干前のめりになりながら聞き返すミナリアに、エリックは何度も頷き返してくれた。


「うん、本当だよ。ミーナはいいお嫁さんになれそうだねぇ」


 何気なく言われたであろうその言葉にミナリアは反応してしまう。


「あ、あのっ! 本当に、その、お嫁さんになれると思いますか……?」

「ん? うん。なれると思うよ? …………ミーナ、どうしたの?」


 どこか切羽詰まった様子で尋ねるミナリアにエリックは戸惑いながらも答えてくれた。


「私、こんな白熊姿ですが、一応、人間なんですよ。……いつか、お嫁さんになれるかもしれないと思って、お母様に習ってお料理やお菓子作りとかお掃除やお洗濯なんかも特訓したんです。…………でも、今日みたいにみんなに驚かれたり、遠巻きにされている内は、お嫁さんになるのは無理だろうなと思ってしまって……」


 話している内にしょんぼりし始めるミナリアに、エリックはもう一度ミナリアの頭を優しく撫でてくれる。


「ミーナ、そんなに悲しそうにしないで。大丈夫だよ、ミーナならきっといいお嫁さんになれるよ。ミーナは沢山努力したんでしょう? ……なら、大丈夫だよ。こんなに可愛くて料理上手なミーナなら、みんなお嫁さんに欲しがると思うよ。俺も自分のお嫁さんになるなら、こんなに素敵なお嫁さんならいいなぁと思うし」

 

(――なんと!?)


 エリックの言葉に伏せてしまっていたミナリアの顔が勢いよく上がり、ミナリアを心配そうに見ていたエリックと目が合い、お互いに驚きの表情で見つめ合ってしまう。


「リ、リックさん! ほ、本当に私みたいなのでもお嫁さんにしたいと思ってくれますか!?」

「う、うん。こんなに素敵なお嫁さんがもらえるなら、俺は幸せ者だなぁって思うよ」


 ミナリアの勢いにやや押されがちになりながらも、エリックは当たり前のように返事をしてくれた。

 幸せ者、と呟き、エリックの言葉を嚙みしめると、ミナリアは周りに花が舞い散りそうになりながら喜んだ。


「リックさん、ありがとうございます!」


 全身で嬉しくてたまらないと喜びの感情を溢れさせつつ、ミナリアの変化をニコニコと見守ってくれるエリックに、お腹を空かせていたのに中断させて申し訳ないと他のサンドイッチも勧める。

 あれこれ食べてくれるエリックを見ながら、自分もサンドイッチに口を付け、今日はエリックに苺やベリーのような美味しいけどそこら辺で摘んだだけのものではなく、ちゃんとしたご飯を分けてあげられたことが嬉しくて、ミナリアはニコニコと微笑んでいた。





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