梨の実を落とす話……
ストン。
サク、ストン。
有りの実を切り落とす。
大きなハサミで、小気味良く落としていく。
ーーこれは有りの実〝彼女〟の首だーー
本当の彼女が死なない為に。代わりの首を落としている。彼女の気がすむまで、彼女が明日も、朝を迎える為に。サクリ、サクリと落としていく、大きな梨の木の上から。どれくらい落としていたのかわからないほど、長い間数えきれないほど、沢山の有りの実を切り落とした。
ふと、下から視線と足音を感じた。いつからいたのか、今も実を落とし続けるボクの手元を見ていた。それはただの〝人間〟だった。
人間はボクのしていることを見て。
ーー何故、この実を落とすのか?ーーと聞いてきた。ーーいらないから落とさなきゃならないーーと答えた。
彼女の〝辛い〟や、〝苦しい〟は、すぐに大きくなる。だから彼女の代わりに、有りの実を切り落とさなくてはならない。
ーー彼女の首が、落ちなくていいようにーー