蛇考
道を歩いていたら、ふいに話しかけられた。
振り向くとそこに蛇がいた。
蛇は言った。
果たしてお前は自由に生きているのか、と。
俺は答えた。
わからない、と。
蛇は言った。
ならば、今の生活に満足しているのか、と。
俺は答えた。
それもわからない、と。
蛇は言った。
昔、誰かが俺の姿を見て、手と足が無いのが可哀そうと言った。
しかし、果たして本当にそうか。
俺は一度だって手足が無いことに、不自由を感じたことはない。
これが当たり前だからだ。
可哀そうと思うのは、手足が当たり前にある、お前達から見ればの話だ。
俺から言わせれば、逆にお前達こそ、その自由に使える手足によって、
自らを不自由にしてしまっているではないか、と。
俺は言った。
そうかもしれない、と。
蛇は再度言った。
果たしてお前は自由に生きているのか、と。
俺は言った。
自由に生きていない、と。
蛇は再度言った。
ならば、今の生活に満足しているのか、と。
俺は言った。
満足していない、と。
それを聞くと、蛇は満足そうに草むらの中へと姿を消した。
俺は再び歩き始めた。
今度は、整備された道を外れ、道なき道を歩き始めた――。