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「あ、あれ?」
階段から落ちてからしばらくすると、案外普通に目を覚ました。それはもう、寝て起きるくらい至極自然に。
不思議とどこも痛くないし無傷な状態に若干の違和感を覚えた私は自分の今の状況を確認した。
階段から落ちたのだから、普通ならダサい格好で床の上に転がってるはずだが、なぜか大きなふっかふかのベッドの上に横たわっていた。
なにここ? 病院?
そう思ったものの、私の格好はドレスでなんだか乙女ゲームに出てきそう。
「大丈夫か!?」
焦ったような大声が真横からしておもむろに声の方を見ると、そこには宝石のような赤い瞳の黒髪で貴族やら王族のような格好をした美少年がいた。歳は見た感じだと15、6といったところだろうか?
それにこの人……どこかで見たことあるような……ないような?
「だ、大丈夫……です……」
たどたどしく答えるとその人は安堵のため息をついた。
「本当に心配したぜ。階段から足を滑らせて転落だなんて、もし目覚まさなかったらと思ったら……」
痛いほど心配してくれてる事が伝わる面持ちで私の手をギュッと握ってる。
イケメンに心配されて悪い気はしないが、初対面だから流石に怖い。
まじで、状況がよくわからないんだけど……
「あ、あの……心配してくれてるのは嬉しいのですが……どちら様ですか?」
私の言葉に時が止まったかのようにその人は動かなくなった。
そして、2、3秒後に私が階段から落ちた時といい勝負くらいの劈く絶叫が響いた。
「えええええ!?」
「な、なに!?」
「俺の事を忘れたのか!? 記憶喪失!?」
「え? え?」
さも知ってて当たり前とでもいいたげな口調にさらに混乱する。
一向に思い出せそうにない私を見て、悲しそうな表情をするがすぐに優しく微笑んだ。
「……ごめんな。取り乱しちまった。階段から落ちたショックで一時的な記憶喪失なんだろ」
私の頭を優しく撫で、その人は続けた。
「俺の名前はレオ・シャロン。この国の第1王子だ」
「お、王子……様!?」
身分が高そうだとは思っていたが、想像の斜め上をいき驚愕する。
そんな王子様と親しげ(?)な私っていったいなに!?
そんな疑問を見透かしたかのように王子は口を開いた。
「それで、お前はアンナ・ルシヨン。俺の婚約者」
「……え?」
「ちなみに、お前は伯爵家のご令嬢でもあるからな」
婚約者!? 伯爵家のご令嬢!?
理解し難い状況が重なりに重なって頭がパンクした私はまたバタンっとベッドの上に倒れたのであった。