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第三十六話 地下洞窟

「な、なんだあれは……!!」


 首もないままに、立ち上がるドラゴン。

 その異様な姿に、会場全体が大きくどよめいた。

 伯爵はいったい何をしたというのか。

 中には腰を抜かしてしまって、身動きの取れなくなっているものまでいる。


「皆さん逃げて! 早く!!」


 唖然としてしまっている人々に、俺は慌てて避難を呼びかけた。

 伯爵が何をしたかはわからない。

 だが、あのドラゴンが危険なものであることは間違いないだろう。

 ノシノシと歩くだけでも、人の一人や二人は踏みつぶせる。


「ひっ、ひいいいっ!!」

「うわああああっ!!」


 最前列にいた観衆たちが、一斉に動き出した。

 想定外の事態に、たちまちパニックが広がっていく。

 俺たちも、姫様を連れてすぐに逃げなくては。

 戦うにしても、この場所ではあまりにも人が多い。


「ガディウスさん!」

「ああ、わかってる! 魔法学園へ逃げよう、あそこなら広いし戦力もいる!」

「了解です!」

「私たちもサポートするわ!」

「姫様、守る!」


 四人で姫様を囲うと、人波に乗って離脱を図る。

 こうして広場から去ろうとしたところで、武装した一団が正面に現れた。

 会場の警護に当たっていた騎士たちが、戻ってきたようである。


「ここは我々が押さえます! 皆様はどうか、逃げることだけを考えてください!」

「おう、助かるぜ!」

「任せますわ! どうか、この街を守ってくださいまし!」

 

 すれ違いざまに、深々と頭を下げる姫様。

 王族らしからぬ真摯な態度である。

 それを受けて、騎士たちは思い切り気勢を上げる。


「うおおお!! お前たち、絶対にあれを倒すぞ!」

「おおーー!!」


 凄まじい勢いで、ドラゴンに向かって走っていく騎士たち。

 この士気の高さなら、しばらくは持たせてくれそうだ。

 とはいえ、相手はドラゴンである。

 姫様を安全なところまで避難させたら、俺たちも戦いに戻らなくては。


「急ぎましょう!」

「ええ! ちょっとお待ちを!」


 そう言うと、姫様はスカートの裾を破り捨てた。

 おお、なかなかに大胆!

 生足をあらわにした彼女に、ガディウスさんがヒュウッと口笛を吹く。


「これで少しは走れますわ!」

「お姫様が思い切るねぇ」

「そこらの箱入りと一緒にしないで欲しいですわ」

「じゃあ、急ぐわよ!」

「ええ!」


 いっそう速度を上げて、魔法学園を目指す俺たち。

 こうして街区をいくつか過ぎていくと、長い長い塀が見えてきた。

 よし、到着だ!

 あとは姫様を安全な学園の中へ預けて、俺たちは戦いに合流すれば――。

 

「グオオオッ!!」

「なっ!?」


 魔法学園の塀の内側から、得体のしれない雄叫びが聞こえてきた。

 明らかに人間の物ではない。

 まさか、学園でも何か起きているというのか!?

 俺たちが足を止めると、塀の上からぬうっと何かが顔を出す。

 あれは……!


「オーガだ! それだけじゃない、他にも何かいる!」

「嘘でしょ!? 魔法学園がやられたっていうの!?」

「いけませんわね、こうなっては避難先として使えませんわ!」

「ちっ! 仕方ねえ、こっちだ!」


 サッと手招きをするガディウスさん。

 どうやら、避難場所の当てがあるらしい。

 俺たちは彼に続いて、路地裏へと足を踏み入れていく。

 だがたどり着いたのは、日の当たらない行き止まりであった。


「ちょっと、こんなとこに来てどうするのよ?」

「そうですわ。魔物が来てしまいますわよ!」

「大丈夫だ、見てな」


 そう言うと、ガディウスさんは足元の石畳をカツカツカツとリズムを取るように叩いた。

 ――グラリ。

 地面がにわかに振動し、横滑りしていった。

 たちまち現れる黒い穴。

 覗き込んでみれば、細い階段が地下に向かってずうっと伸びている。


「……何ですか、これ?」

「古い避難通路だよ。この魔導都市が、もともと城塞都市だったのは聞いたことあるだろう?」

「そう言えば、そんな伝説がありますわね」

「これでもSランク何でね。いざって時のために、こういうことも教えられてるのさ」


 躊躇なく地下に足を踏み入れると、足早に階段を降りていくガディウスさん。

 俺たち三人は姫様を囲うと、彼の後に続いた。

 かなり長い通路だ、それに古い。

 壁が天然の洞窟のようになっていて、染み出した地下水で濡れている。

 しかも奥に進むにつれて、次第に広くなっていった。


「……こんな場所が街にあったとは」

「私も知らなかったわ。もともとあった洞窟を使ってるみたいね」

「ん? 何かある」


 暗闇の先に、ネムが何かを見つけた。

 よくよく目を凝らすと、扉のようなものが見えてくる。


「よし、あの先だ! あの扉の向こうに、古い宝物庫がある。頑丈な造りだから、魔物が来たって破られねえ!」

「なるほど、あれなら丈夫そうね」

「安心設計」


 こうして、俺たちは扉の前まで一直線に走っていった。

 だがここで、ガディウスさんの動きがピタリと止まる。

 彼は姫様の方を見やると、そっと脇にズレて道を空けた。


「さあ姫様、扉を開けてくれ。王族の人間じゃねえと、ここは空けられねえんだ」

「わかりましたわ」


 さっそく、扉に向かって手を伸ばそうとする姫様。

 いや、待てよ。

 さすがにこの状況は……何かがおかしい。


「姫様、ちょっと待った!!」


 俺は慌てて、姫様の手を掴んで止めた。


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