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第三十四話 祭りの目玉

 楽器を打ち鳴らしながら、整然と行進をする音楽隊。

 靴の足音も高らかに、石畳の道をまっすぐに進んでいく。

 賢者祭もいよいよ三日目。

 今日からがいよいよ本番だとばかりに、街は熱気に包まれていた。

 建物は盛大に飾り立てられ、道の端にはここぞとばかりに露店が出ている。

 だがそんな中、眠そうな顔をしている人物がいた。


「んん……」


 広場とそこへつながる通りを一望する観覧席。

 その真ん中の主賓席で、姫様はあくびこそ堪えているものの、気だるげな声を漏らした。

 無理もない、ここ数日はずっと夜が遅かったからな。

 街の有力者たちが主催する晩餐会や舞踏会。

 それに片っ端から出席していたので、忙しいことこの上なかった。


「私もちょっときついわね……」

「眠い」

「そう言って、二人とも昨日は喜んで食べてませんでした?」


 姫様を迎えるにあたって、贅を凝らして作られたご馳走の数々。

 それを口にできるとあって、リーシャさんもネムも気合を入れて食べまくっていた。

 二人の細い身体のどこに収まっていくのか、見ていて不思議なほどに。

 あんなに食べていれば、そりゃ翌日がつらくなっても仕方がない。


「まったく、しっかりしてくれよ。お前たち二人も、ちったぁ頼りにしてるんだからな」


 最上段に陣取っていたガディウスさんが、やれやれと声をかけてきた。

 すかさず、リーシャさんとネムは曲がっていた背筋を伸ばして返事をする。


「だ、大丈夫よ! 身体はしっかり動くから」

「戦いは可能」

「ならいいけどよ」


 そういうと、視線を上に戻すガディウスさん。

 彼は先ほどからずっと、この周辺を警戒しっぱなしである。

 姫様の護衛として来ているのだから、当然といえば当然なのだが……。

 その目つきの鋭さは、それだけではなさそうだった。


「どうかしたんですか?」

「どうもしてないから問題なんだよ」

「ん? どういうことです?」


 俺が聞き返すと、ガディウスさんはわかってないなとばかりに頭をかいた。

 彼はそのまま、俺の肩を掴むと観覧席の裏側へと移動する。

 身体を引っ張られた俺は、よろけながらも彼についていった。


「姫さんがローラン派に命を狙われているって話はしたよな?」

「はい、初日に聞きました」

「あれから今まで、姫さんを暗殺するチャンスは何度もあった。いや、俺が何度も作ったんだが……一度も食いついて来てねえのが気味悪ぃんだよ」


 顔つきを険しくするガディウスさん。

 安易に食いついてこないということは、それだけ念入りな準備をしているということか。


「なるほど。用心に越したことはないですね」

「ああ。あくまで俺の経験則なんだが……こういう時はだいたい厄介だ。気を付けてくれよ」

「はい!」

「じゃ、嬢ちゃんたちにもそれとなく警戒するよう言っといてくれ」


 そういうと、席に戻っていくガディウスさん。

 俺もしっかりと、周囲を警戒しなくちゃな。

 姫様に万が一のことがあってからでは、手遅れなのだから。


『何事もなければいいのだがのう』

「そうだね」

『しかしあのガディウスという男、言っておることの割には不用心じゃな』

「え?」

『姫を守らねばならんのに、ホイホイと現場を離れすぎじゃろ』


 言われてみれば、その通りだった。

 もし先ほど姫様が襲われていたら、俺とガディウスさんは対応できなかっただろう。

 それだけではない。

 初日に至っては、俺たちとの勝負のために半日ほど姫様の傍を離れている。


「ううーん……確かに」

『まぁ、あの男は信用できると思うがの。もし敵側なら、すでに姫は死んでおるはずじゃ』

「おーーい、何してるのよ! 早く戻ってきて!」


 リーフォルスと話し込んでいると、上から声を掛けられた。

 見上げれば、リーシャさんが少し怒った顔で観覧席の上段から身を乗り出している。


「あ、すいません! 今行きます!」


 返事をすると、俺はすぐさま観覧席へと戻った。

 ちょうど、次の出し物が始まるところである。

 広場に設けられたステージに司会者が上ると、こちらに向かって深々とお辞儀をする。


「それでは、紳士淑女の皆様! 本日のメイン……いえ、この賢者祭の目玉である大競りを始めさせていただきたいと思います!」

「おーー! 待ってました!」

「早く始めとくれよ! こちとら、一年待ってたんだ!」


 たちまち沸き起こる大歓声。

 一般の観衆はもちろんのこと、俺たちのいる貴賓席の周辺でもどっと声が響いた。

 大競りには、貴族向けの高価な品々も多数出品される。

 普段は澄ましている上流階級の人々も、この時ばかりは羽目を外すのだろう。


「では、美術品の部から始めます! エントリナンバー一番! レイシア王国が誇る大芸術家ココッホの絵画です!」


 司会者の合図で、アシスタントの女性が大きな板のようなものを運び込んできた。

 かけられていた幕が外されると、たちまち見事な薔薇の絵が姿を現す。

 色彩鮮やかなそれは、華麗にして妖艶。

 ある種の色気のようなものを感じさせた。


「こちらは花を得意としたココッホが、晩年に描いた傑作中の傑作であります! 二百万からのスタートです!」

「三百!」

「おっと、いきなり百万あがりました!」

「三百五十!」


 次々と値を吊り上げていく富豪たち。

 いよいよ、祭りの熱気が最高潮に達しようとしていた――。


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