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第三十一話 エリートと元落ちこぼれ

「ここが、我がラグーナ魔法学園の誇る大講堂でございます! 見てください、あの奥にありますのが当学園を創設されました初代学園長の像です。その隣にありますのが――」


 ラグーナ魔法学園の校舎内。

 そこで俺たちは、姫様と共に学園長の案内を受けていた。

 まずは一通り、施設の紹介を済ませるつもりらしい。

 教室を次々とめぐりながら、つらつらと長い説明を受ける。


「ところで学園長。先ほどから生徒さんたちの姿が見えませんが、今日はお休みなんですの?」

「はい。ですが選ばれた生徒たちは、姫様を歓迎するために校庭へ集まっております。一通りの案内が終わりましたら、すぐにそちらへ参りますよ」


 選ばれし生徒たちねぇ……。

 大方、貴族組の生徒たちのことだろうな。

 学園に重要なお客様がくるときは、決まって平民組の生徒は寮へと帰されるのだ。


「そうでしたの。わざわざそんな準備をしてくださるとは、ありがたいことですわ」

「いえいえ! 姫様をお迎えするのですから、当然です!!」


 揉み手をしながら、ここぞとばかりにヨイショをする学園長たち。

 そのにんまりとした顔は、見ていて不気味なくらいであった。

 姫様もどことなくそれを感じているのか、若干だが声のトーンが硬い。


「さて、そろそろ生徒たちの元へ参りましょうか」

「かしこまりましたわ。さ、行きますわよ」


 姫様の後に続いて、校庭へと向かう。

 するとたちまち、集まっていた生徒たちから盛大な拍手が沸き起こった。

 おお、こりゃ凄いな……!

 広い中庭に、百人ほどの生徒たちが整列している。

 よっぽど練習したのだろう、お辞儀が見事に揃っていた。

 しかしその一角が、にわかにざわめく。


「おい、あれって……」

「ノエル……だよな?」


 ヤバいな、俺がいることがバレた!

 容赦なくこちらへ向けられる視線に、たまらず顔を下に向けた。

 やっぱり、何かしら理由をつけて来なけりゃよかったよなぁ……。

 ちょっとばかし、後悔の念が湧き上がってきた。

 だがここで、脇を歩くリーシャがグッと俺の身体を押す。


「ほら、顔を上げなさいよ」

「いや、でも……」

「恥ずかしくないわよ。今のノエルは立派なんだから」

「その通り、胸を張るべき」


 そういうと、自ら率先して胸を張るネム。

 身体のわりに大きなふくらみが、フルンッと気持ちよく揺れた。

 こうなってしまっては、仕方ないか。

 俺は大きく息を吸うと、胸を張って歩きだす。


「やっぱりノエルだ!」

「どうしてあの劣等生がこんなとこに……」

「確か、追い出されたはずだよな?」


 生徒たちのざわめきは一層大きくなった。

 俺の落ちこぼれっぷりは、逆に珍しくて有名だったからなぁ。


「諸君、静粛に! 姫様の御前だぞ!」


 騒々しい生徒たちに痺れを切らせた学園長。

 彼が一喝すると、喧騒がウソのように静まり返った。

 こうして場が落ち着きを取り戻したところで、彼はふっと足を止めて周囲を見渡す。


「姫様。ここにおりますのが、我が学園でも選りすぐりの優秀な生徒たちです」

「なるほど。皆、良い顔をしておりますわね」

「そうでしょうそうでしょう! では今から、実技を披露いたしましょう。どうぞごゆっくりご堪能ください」

「はい、じっくりと」

「ではノエル君、君はあちらへ行きたまへ」


 そう言って学園長が指さしたのは、校庭の奥に設けられた射撃場のようなスペースだった。

 そこにはすでに何名かの生徒が詰めていて、杖の整備に余念がない。

 どうやらあそこから魔法を放ち、遠くの的を打ち抜くようだ。


「なるほど……わかりました」


 リーフォルスを手にすると、急いで指定の場所まで走っていく。

 すると先に待っていた生徒たちは、いきなり加わった俺に向かって怪訝な顔をした。

 中には、露骨にこちらをあざ笑っているものまでいる。

 まあ無理もない、集められていたのは学園でも選りすぐりの成績上位者ばかりだった。


「これから君たちには、出現する的を次々と魔法で撃ち落としてもらう。そして、最も撃ち落とした数が多いものが優勝者だ。姫様の御前である、ぜひとも奮起し頑張ってほしい」

「はい!」


 さあて、何が出てくるかな。

 俺はリーフォルスを構えると、緊張しながら前方を見つめる。

 そして数十秒後。

 突如として地面が隆起し、等身大ほどの土人形が出現した。

 すぐさま、全員が呪文の詠唱に入る。


「中天に座すもの、闇の底より……」

「紅の壱、火球!」


 皆が詠唱を終えないうちに、俺の火球が飛び出した。

 まっすぐな軌道を描いたそれは、瞬く間に人形を吹き飛ばす。

 おっと、緊張したせいか少し魔力の練りが甘かったかな?

 人形の足が、ほんの少しだけ残ってしまった。


『これ、魔力の制御が甘かったぞ!』

「すいません、緊張しちゃって」

「……は?」


 隣に立っていた生徒たちが、詠唱を中断した。

 彼らは揃って俺の方を見ると、目をぱちくりとさせている。

 そして――。


「何だその魔法!!!!」


 校庭全体に、みんなの叫び声が響いた。


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