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第二十九話 祭りの始まり

「賢者様がこの地に街を開いてから約四百年。今年も無事、賢者祭りを開催できたことを、私――」


 魔導都市の中心部にある広場。

 この日のために用意された壇上で、市長が粛々と祝辞を述べる。

 それを俺たちは、広場の脇に設けられた貴賓席の脇で聞いていた。

 

「すごく長い」

「静かに、聞こえますよ」

「眠くなってくるわね……」


 市長が話を始めてから、かれこれ十分ほど。

 ずっと立ちっぱなしだし、さすがにちょっと辛くなってきたな。

 隣に立っているネムの身体が、フラフラっと揺れ始める。


「もう少しだ、我慢しろよ。ほら、姫さんだってシャンとしてるぜ?」


 後ろに立っていたガディウスさんが、たしなめるように言った。

 その視線を追いかけてみれば、先ほどから微動だにせずに座っている姫様の姿があった。

 さすがは王族、こういう行事にも慣れているのだろう。

 にこやかな笑みを浮かべながら、足を揃えて上品に座り続けている。


「さすがね、やっぱり姫様だわ」

「外面は最高だからな、外面は」

「……それ、不敬罪とか言われません? 大丈夫です?」

「へーきへーき」


 目元をゆがめ、愉快そうに笑うガディウスさん。

 そうしているうちに、係員に呼ばれて姫様が席を立った。

 彼女はそのまましずしずと会場内を進んでいくと、市長に代わって壇上に立つ。

 途端に、広場にいた群衆から歓声が沸き上がった。


「ルフィーア姫様ーー!!」

「ばんざーい! 姫様ばんざーーい!」


 大歓声に対して、優雅に手を振ってこたえる姫様。

 その仕草は美しく、立っているだけでも絵になりそうなほどだ。

 外面は完璧とガディウスさんも言っていたが、本当にそうだな。

 先日見た、わがままいっぱいな雰囲気の姫様とは全く印象が異なる。


「市長に代わりまして、私が祭りの開催を宣言いたします。第三百九十三回、賢者祭の始まりです!」


 姫様がそう告げた途端、近くの空き地から次々に花火が打ち上げられた。

 青空に光の華が咲き乱れ、景気のいい爆音が轟く。

 それに合わせて、広場に待機していた楽隊が勇壮なファンファーレを奏でた。

 観衆たちの熱気も最高潮、まさに祭りの始まりにふさわしい雰囲気だ。

 

「ではわたくしは、これにて失礼いたします」


 さっと優雅に礼をして、その場を後にする姫様。

 貴賓席まで戻ってきた彼女は、俺たちにそっと視線を走らせると、無言で着いてくるように促す。

 そしてそのまま、人目に付きにくい路地裏へと入ると――。


「あーー、だっる!」


 周囲からの視線がなくなった途端に、姫様の背中が丸くなった。

 彼女は肩をぐるぐると回すと、仕事帰りのおっさんよろしく情けない声を出す。


「あのジジイ、話が長すぎますわ。今度やられたら文句を言ってやろうかしら」


 市長への悪口を言いながら、体をほぐしていく姫様。

 しかし、それだけでは物足りなかったらしい。

 彼女はリーシャさんの方を見やると、くいっと手招きをする。


「あなた、肩揉んでくださる?」

「私が、ですか?」

「そうですわ。このわたくしの高貴な身体に触れられるのですから、喜ぶべきことでしてよ」

「別に私、そういう趣味でもないし……」

「何か、文句がございまして?」


 どこか凄味のある笑みを浮かべる姫様。

 これが、いわゆる無言の圧力というやつなのだろうか?

 得体のしれない迫力に、たまらずリーシャさんは勢い良く首を横に振る。


「そ、そんなことございません!」

「では頼みますわ」


 仕方なく肩揉みを始めるリーシャさん。

 こりゃ、思ってたよりもずっと大変な任務になりそうだな。

 ことあるごとに、姫様に便利に使われてしまいそうだ。


「ふぅ……なかなかよかったですわ。ご苦労様」

「もう少し、手荒く揉んでやればよかったかしら」


 手をワシワシとさせながら、ブツブツとつぶやくリーシャさん。

 その背中からは、何か暗いオーラか何かが出ているようだった。

 見かねたガディウスさんが、すかさずそっと耳打ちをする。


「姫さんもいろいろと疲れてるんだ。多少は付き合ってやってくれ」

「多少ねぇ……」

「本当にヤバくなったら、俺が言ってやるからよ」


 そういうと、俺に任せておけとばかりに胸を叩くガディウスさん。

 何だかすっかり、姫様の保護者みたいな感じだな。

 ただの冒険者と依頼主にしては、ずいぶんと関係が深そうだ。


「ガディウスさんって、姫様と仲がいいんですね」

「まあな。姫さんがまだちっこい頃に、護衛を依頼されてからの間柄だ。それからずっとってわけじゃねえが、ちょくちょくこうやって依頼を受けてる」

「へぇ……」

「皆さん、そろそろ戻りますわよ」


 俺が感心していると、いつの間にか身だしなみを整えていた姫様が声をかけてきた。

 先ほどまでのだらけた様子はどこへやら、表情もキリッとしている。


「今日はあと三件、視察がございますわ。夕食会にも誘われていますから、そのつもりで」

「は、はい!」

「では参りますわよ」


 颯爽と歩きだす姫様。

 俺たちもまた、その後に続いて路地を出る。


「それで、その視察先というのはどこでしょうか?」

「市庁舎と王立研究所、それからラグーナ魔法学園ですわ」

「え? ラグーナ魔法学園!?」


 思いがけず耳にした名前。

 溜まらず俺は、姫様に聞き返してしまうのだった。

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