第二十六話 狩り勝負!
「さあて、勝負と行こうか」
冒険者ギルドに着いたところで、ガディウスは高らかに宣言した。
その声の大きさに、たちまち周囲の冒険者たちの視線が集まる。
「なんだ? 何が始まるってんだ!?」
「あれはノエルたちと……ガディウスさんじゃねえか!」
「ガディウス!?」
さすがはSランク冒険者、この支部でも顔は知られているらしい。
思わぬ大物の登場に、たちまちギルドの中が湧きかえる。
「すっげえ、本物だ!」
「あの動きが噂の酔拳か!?」
「さすがSランク、オーラが違う!」
「ハハハ、そう騒いでくれるなよ! 目立つじゃねえか!」
大騒ぎする冒険者たちに、鷹揚な態度で答えるガディウスさん。
彼はカウンターの受付嬢を見やると、笑いながら言う。
「そこの嬢ちゃん! これから狩り勝負をしようと思うんだが、適当な討伐依頼を出してくれねえか?」
「狩り勝負?」
手合わせって、普通に勝負するんじゃないのか?
俺が小首をかしげると、すぐにリーシャさんが説明してくれる。
「狩り勝負って言うのは、何人かで同じ討伐依頼を受けて、一番大きな獲物を見つけてきた人を勝ちとする勝負のことよ。冒険者の間じゃ、よく行われるわ」
「へぇ……そうなんですか」
「本気で勝負をして、お互い怪我をしても困るからなぁ。これで実力を見させてもらうぜ」
なるほど、これから姫様の護衛をするっていうのに身体を壊しては元も子もないからな。
直接ぶつかり合うよりは、こうしたほうが安全なのだろう。
俺としても、人とやり合うのはあんまり好きじゃない。
バートさんの時みたいなことになっても、困るしなぁ。
「……わかりました」
「言っておくが、狩り勝負を甘く見るんじゃねえぞ。油断をしていると、足元をすくわれるからな」
「はい!」
「ちょうどいい依頼、見つかりましたよー!」
俺がうなずいたところで、受付嬢さんが声を上げた。
彼女は依頼書を手に、すごい勢いでこちらに走り寄ってくる。
「これなんてどうでしょう? ロックバードの討伐依頼です」
「どれ……なかなかいいじゃねえか。この場所なら楽に日帰りできそうだ」
そういうと、ガディウスさんは俺にも依頼書を見せてくれた。
ロックバードの群れの討伐依頼で、場所は以前に訪れたこともある岩場。
ランク指定はB以上となっている。
今の俺たちにはちょうどよさそうな依頼だな。
「いいですね、これにしましょう!」
「わかった。じゃ、処理を頼むぜ」
「かしこまりました!」
カウンターに戻ると、ポンッと判子をついてくれる受付嬢さん。
よし、勝負の始まりだ!!
――〇●〇――
「うわぁ、こりゃいっぱいだ!」
久しぶりに訪れた岩場は、すっかりロックバードの生息地と化していた。
視界に映るだけでも、十羽はいるだろうか。
恐らくは、どこかの生息地から大群で訪れたのだろう。
「この前の騒動で森の魔物が激減したからねぇ。空いた縄張りを、こいつらがごっそりと奪い取ったんだわ」
「鳥にしては頭がいい」
『こちらとしては、都合が良いがのう。狩り放題ではないか』
自信ありげに語るリーフォルス。
彼女の言う通り、これだけいれば獲物に困ることはなさそうだな。
とりあえず、たくさん狩ってその中から大きなものを厳選しよう。
「碧の弐、風弾! 拡散!!」
真上に向かって、風の塊を放つ。
音をも超える速さを誇るそれは、あっという間にロックバードたちを飛び越え、雲にまで達した。
炸裂、拡散。
遥か上空で破裂した風の塊は、見えない弾となって降り注ぐ。
その岩をも貫く威力に、たちまちロックバードの群れは悲鳴を上げた。
「ギャア、ギシャア!!」
「グアアッ!!」
身体を貫かれ、次々と倒れていくロックバードたち。
攻撃が終わると、辺りは死骸だらけになっていた。
ひとまずはこんなもんでいいかな?
俺が良しとガッツポーズをすると、リーシャさんとネムが呆れたように言う。
「あんた、容赦のなさがパワーアップしてるわね」
「一網打尽」
「いやいや、これぐらいしないとSランクの人になんて勝てませんよ!」
Sランクと言えば、それこそ伝説に名を遺すような人たちばかりだからな。
それと比べれば、俺なんてまだまだだろう。
きっとガディウスさんなら、とんでもなくデカいロックバードを狩ってくるに決まっている!
「もっともっと頑張らなくっちゃ!」
「……ロックバードを絶滅させちゃうんじゃないかしら、この子」
「ほかの場所にもたくさんいる、大丈夫」
『まぁ、繁殖力の強い鳥じゃからの』
――〇●〇――
「ははは、どうだ俺のブラッドベアは!」
夕方。
狩りを終えてギルドに戻ると、ガディウスさんがなぜか巨大な熊を自慢していた。
うわぁ、すっごい大きさ!
こりゃ、森の主とかそういう類のやつだな。
俺がたくさん狩ってきたロックバードよりも、かなり格上の魔物だ。
「ガディウスさん!」
「おう、ノエル! どうだ見てみろよ、俺の獲物だぜ!」
「すごいです! でも、どうして熊なんですか?」
「それがよ、岩場に行ったらロックバードのやつが見つからなくてな。で、手ぶらで帰るのも興ざめだってことで、こいつを狩って来たってわけさ」
そういうと、得意げに笑うガディウスさん。
彼はそのまま、バンバンと俺の背中を叩く。
「こういう時、機転を利かせるのも冒険者の知恵ってもんよ。お前、今回は獲物なしだろ? 悪いが勝負は俺の勝ちだな」
「いえ、ちゃんと狩ってきましたよ?」
「ああ? 馬鹿言っちゃいけねえ、岩場を丹念に調べたがロックバードはもういなかったぜ。ありゃあ、何日も前に群れごとどこかへ引っ越したに違いない」
そういうと、ガディウスさんはやれやれとばかりにため息をついた。
彼はわかってないなとばかりに両手を上げる。
するとリーシャさんが、恐る恐るながらも尋ねる。
「ねえ、ガディウスさん。もしかしてあなた、森へ行くまでに寄り道でもしました?」
「おう、一応町を離れるんで姫さんに連絡してきたぜ。あと飯屋で軽く腹ごしらえをしてから出かけた。ま、お前たちへのハンデだな」
「あー……」
ポンッと手を叩くリーシャさん。
彼女は俺から預かっていたアイテムバッグを取り出すと、いくらか重い口調で言う。
「ガディウスさん。ロックバードなんだけど、あなたがくる前に私たちが全部狩っちゃったみたい」
「へ?」
「ほら、これ見て」
アイテムバッグの中から、ぽいぽいとロックバードの死骸を取り出すリーシャさん。
やがてそれがすっかり山になったところで、ガディウスさんが叫ぶ。
「な、な、なにいいいいぃ!!!!」




