第二十二話 思わぬ申し出
「うおおおっ! 俺たちの勝利に乾杯!!」
「かんぱーーいっ!!」
ギルド併設の酒場にて。
バートさんの音頭で、盛大に乾杯が行われた。
街の防衛を祝して、宴会が開かれることとなったのだ。
太っ腹なことに、お代はすべて街とギルド持ち。
どれだけ飲み食いしてもタダのため、戦いに参加した冒険者たちのほとんどが出席している。
「ノエル、お前の魔法は本当にすげえな!」
「ああ! お高く留まってる先生方も、みーんなびっくりしてたぜ!」
「ほんと、俺たち冒険者の誇りだよ!」
俺の周りを囲みながら、高笑いする冒険者たち。
街に戻ってきてからというもの、ずーっとこの調子だった。
常に誰かが俺を囲んでいて、騒いでいるのだ。
魔族を倒したことによって、俺は自分が思っている以上に有名になってしまったらしい。
「しっかし、よく間に合ったわよね。最低でも一日は修行を続けて、その後もすぐには動けないって聞いてたのに」
「ええ、だから早く終わるようにしたんですよ」
『うむ。まだ修行を完遂したわけではないぞ。今の状態でも、こやつの潜在能力の半分と言ったところかの』
「え? これで半分!?」
目をぱちぱちとさせながら、動きを止めるリーシャさん。
傾けていたジョッキから、エールが少しこぼれた。
やがて再起動を果たした彼女は、猛然とこちらに詰め寄ってくる。
「ど、どどどういうことよ!? あんた、あれよりもさらに強い魔法を使えるってわけ!?」
「ま、まぁ……そうなりますね」
『可能じゃの。さすがのわらわも、負担が大きいゆえあれ以上はやりたくないが』
「そういう問題じゃなくて! え、ええっ!?」
ひたすらに驚きまくるリーシャさん。
彼女だけでなく、周りの冒険者たちもおいおいと呆れた顔をしている。
ヤバい、ちょっと引かれちゃったかな……?
俺が誤魔化すように苦笑すると、不意に後ろから豪快な笑い声が聞こえてくる。
振り向けば、そこには何ともご機嫌なマスターが立っていた。
「ははは、良いではないか! 強い冒険者、けっこうけっこう!」
「マスター! どうしてここに!」
「実は、おぬしにちと話があってな。付いて来てくれぬか?」
「あ、はい!」
「リーシャも来てくれ。そなたたち、パーティに関わりそうな話じゃ」
「わかったわ」
いったい、何の話だろうか?
俺とリーシャさんは、すぐさま食事を中断するとマスターの後についていった。
こうして二階にあるマスター専用の執務室に入ると、そこには――。
「こんばんは」
「あっ! 魔族の近くにいた子!」
部屋で待ち構えていたのは、魔族と戦っていた白い鎧の少女であった。
あの後すぐにどこかへ行ってしまったのだが、こんなところにいたのか。
騎士か何かだと思っていたが、彼女も冒険者だったのかね?
「あの時はありがとう。感謝している」
「いいえ! 当然のことをしたまでだよ!」
「そんなことはない。あなたが来なければ、私は死んでいた。命の恩人、感謝しきれない」
そういうと、少女は深々と頭を下げた。
その改まった態度に、こちらが逆に恐縮してしまう。
女の子が困ってたら助けることぐらい、基本なんだけどね。
「それで、どうしてこの女の子がいるのかしら? 何か話と関係あるの?」
「ああ。この子の名はネム、奴隷じゃ」
「奴隷? でも、立派な鎧を着て戦ってましたよね?」
「その通り。正確には……戦わされたのじゃがな。主人の身代わりとして」
マスターの言葉に、俺とリーシャさんは揃って息を飲んだ。
いくら奴隷と言えども、そのような使い方は許されない。
奴隷の命を守ることは、その主人の義務だからだ。
これは国の法律でも定められていて、破った場合は貴族でも厳しい罰則が科せられる。
「誰がそんなことを! しかも、あんな大事な時に!」
「そうですよ! 奴隷を身代わりにして栄誉を得ようなんて!」
「うむ、その者の処分については今検討中じゃ。それよりも今は、ネムの処遇について話がしたい」
俺たちの興奮を鎮めるように、マスターは幾分か強い口調で言った。
そうだな、今は目の前にいるネムの方が大事だ。
軽く深呼吸をすると、気持ちを落ち着かせる。
「……大丈夫です」
「わかった。それで、話というのはの。ノエルよ、そなたネムの主人にならぬか?」
「……へ?」
俺が……ネムのご主人様!?
――〇●〇――
「どうして俺が! ちくしょう!」
魔導都市を守護する騎士団の詰め所。
その奥に設けられた留置場に、ジェイクはその身を拘束されていた。
手足に鎖を繋がれたその姿は、まさに罪人そのものである。
「ジェイクー!」
「アマンダ! 来てくれたのか!」
騎士に連れられて、ジェイクの女であるアマンダが部屋に入ってきた。
それを見たジェイクはすぐさま立ち上がると、鉄格子にかぶり寄る。
「頼む、俺をここから出してくれ! お前からもここの連中に言ってくれよ、な?」
「ダメよー、悪いことしたんだから捕まってなくちゃ」
「はぁ!?」
予想もしていなかった言葉に、動揺をあらわにするジェイク。
彼は鉄格子との距離をさらに詰めると、必死の形相で叫ぶ。
「何言ってんだよ、アマンダ! お前は俺の味方だろう?」
「味方だった、よ。私、悪いことする人嫌いだもの」
「お前だって話を聞いた時は、面白そうにしてたじゃねーか!」
さらに声を荒げるジェイク。
それに対してアマンダは「やだー!」と大げさにおどけて見せた。
完全にふざけているようだ。
「私ね、今日はあなたにお別れを言いに来たの。だって今のあなた、全然いけてないんだもの」
「んだと、このアバズレ!」
「それを言うなら、あなただってさんざん浮気して来たじゃない! 私が気づいてないとでも思ってた? ひどいときは五股ぐらいかけてたわよね?」
そういうと、アマンダは持ってきていた袋を鉄格子の前に置いた。
そしてその口を開き、中に入っていた鞄や宝飾品を見せつけながら言う。
「あなたにもらったプレゼント、ぶっちゃけダサいから全部返すわ。じゃあね、負け犬さん」
そそくさと部屋を出ていくアマンダ。
彼女の後を追い、護衛の騎士もまたいなくなった。
ひとり取り残されたジェイクは、力なく天を仰ぐと――。
「クソが! クソクソクソッ!!!!」
声が枯れるまで、延々と叫び続けるのだった。




