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第二十一話 魔族VS初級魔導師

「ふざけたこと抜かしやがって……。貴様、俺が何者かわかってないな?」


 黒々としたオーラを放ちながら、こちらを睨みつけてくる男。

 身体を吹き飛ばされても生きているあたり、間違いなく人間ではないだろう。

 翼が生えていることからすると、悪魔か何かだろうか。

 俺がその正体を考えていると、リーフォルスが告げる。


『こやつは魔族のようだな』

「魔族? もしかして、あの伝説の?」

『うむ。下級の個体のようじゃがの』


 伝説の存在を前にしても、リーフォルスは至って冷静であった。

 それどころか、相手のことを若干馬鹿にしているような余裕さえある。

 一方、その様子に魔族は怒り心頭と言った顔をする。


「下等生物が調子に乗るんじゃねぇ。潰してやるよ!」


 そう叫んだ瞬間、半分になってしまっていた魔族の身体が急速に再生を始めた。

 赤黒い肉が蠢き、見る見るうちに失われていた手足が生える。

 まったく恐ろしいまでの生命力だ。

 

『これは、一息に焼き尽くすしかないの!』

「ええ! そこの人、俺の後ろに来てください! そこだと巻き添えを食いますよ!」

「……わかった!」


 軽く頭を下げると、俺の背中側へと避難してくる少女。

 よし、これでひとまずは安全になったな。

 こちらへ近づこうとしていた冒険者さんたちも、危険を察したのか距離を保ってくれている。


「さあ行くぜ! 闇の参拾! 黒死槍!」

『ほう、無詠唱か!』

「それなら! 碧の参、疾風!」


 魔族の手から放たれた無数の黒い槍。

 俺はとっさに風魔法を使うと、すぐさまそれらを吹き飛ばした。

 それでもなお突風の勢いは衰えず、魔族の体までが宙を舞う。


「ぐおっ!? おのれ……!」


 翼を羽ばたかせ、どうにか空中でバランスを取ることに成功した魔族。

 彼はこちらを睨みつけながら、ギリギリと歯を軋ませる。


「上級魔法を無詠唱とは、下等生物にしてはやるようだな。だが、その程度では勝てんぞ!」

「いえ、初級ですって」

「闇の肆拾伍、闇雷球!」


 雷を纏った黒い球。

 大きく広げられた翼から、人の頭ほどのそれが次々と放たれた。

 小さくともその威力はすさまじいらしく、掠めただけで付近の魔物に穴が空く。


「どうだ! こいつを風で吹き飛ばすのは不可能だ!」

「なら受け止めればいい! 地黄の弐、土壁!!」


 大地が隆起し、巨大な土の壁が形成された。

 厚さ数メートルにも及ぶそれは、いともたやすく黒い球を受け止める。

 衝撃。

 壁の向こうから爆音が響いたものの、たったそれだけ。

 俺の造り上げた壁は、見事に攻撃を防ぎ切った。


「馬鹿な……! 四十番台の闇魔法だぞ!? まさか、無詠唱で超級が使えるのか!」

「だから、初級魔法だって言ってるでしょ!」

「まあいい! てめえら人間には使えねえ魔導の極致を見せてやろう! 喜べ、ここまで出すのは久しぶりだ!」


 魔族は俺の話を完全に無視すると、自信満々に宣言した。

 そして何やら、羽虫が鳴くような不快な音を奏で始める。

 うへえ、何だこれ!

 頭の奥を引っ掻かれているようで、ものすごく気分が悪い。


『古代魔族語の詠唱じゃな! 何度聞いても、耳が悪くなりそうじゃ!』

「うん、こりゃキツイ」

「&$&’#$”!! ――行くぞ! 闇の仇拾壱、暁闇魔光衝!!」


 大気を揺さぶり、極太の光線が放たれた。

 俺もすぐに対抗するための魔法を繰り出す。


「紅の壱、火球!!」


 赤々と燃える火の球から、大気を焼くほどの熱線が飛び出した。

 衝突。

 魔族の放った光線と、俺が放った熱線が真正面からぶつかり合う。

 するとあっという間に、光線の方が熱線に呑み込まれていった。

 その圧倒的な威力の差に、魔族はたまらず目を見開く。


「ありえん!! 俺はこの世を支配する魔族だぞ、それがなぜ下等生物の魔法などに……! うぼあああああァっ!!!!」


 壮絶なまでの断末魔。

 魔族の身体は光に呑まれ、一瞬にして消えていった。

 ふぅ、何とか倒せたな。

 これでこそ、修行を行った甲斐があるというものだ。


『よくやった。魔族を倒すとはさすがじゃぞ』

「ははは、魔法を連発してただけですよ」

「……それでもすごい、こんなことできない」


 俺の後ろにいた少女が、パチパチと手を叩き始めた。

 こちらを見るその目は、さながら俺を崇拝しているかのようである。

 そこまで凄いこと、したかなぁ?

 俺がおいおいと思っていると、駆けつけてきた冒険者たちまでもが拍手に加わる。


「すげえぜ、あんなの倒しちまうなんて!」

「これで俺たちは救われたな!」

「ノエル! ノエル!」


 どこからか、自然とはじまったノエルコール。

 それはあっという間に広まると、その場を包み込んだ。

 ははは、まさかこんなことになるなんてな。

 名前を連呼される気恥ずかしさに、俺の顔はたちまち赤くなる。


「あ、ありがとうございます! じゃあ、残りの魔物も狩りましょうか!」

「おう、ノエルがいれば万人力だぁ!!」

「……負けない、私も頑張る」


 そのまま、残った魔物の掃討に入る俺たち。

 あの魔族が司令官だったのだろう。

 すっかり総崩れとなっていた魔物は、あっさりと冒険者たちに狩られていった。


「これで、危機は去りましたね」

『うむ、任務完了じゃな』


 こうしてこの日の夕方。

 俺は無事、街に攻めてきた最後の魔物を狩り終えたのだった。


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