表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/41

第十八話 修行開始!

「ここでいいかの?」


 魔導都市の中心から、やや東に外れた文教地区。

 そこに聳える王立研究所へ、俺とリーシャさんはマスターの案内でやってきていた。

 ――これから行う修行は、周囲に危険が及ぶ可能性がある。

 リーフォルスの言葉を受けて、安全確保のため研究所の地下室を借りに来たのだ。


「おお、すごい……!」


 案内された地下室を見て、思わずため息が漏れる。

 石を丹念に積み上げた、見るからに強固な壁。

 床には複雑な魔法陣が刻まれ、怪しい光を放っている。

 さらに扉は、金庫よろしく分厚い金属製だ。

 ここより頑丈な部屋は、恐らくこの魔導都市には存在しないだろう。


「こんな部屋があったなんてねぇ。もとは、何のための部屋なのかしら?」

「なにぶん古い部屋なので、作られた当時のことはわからぬ。だが、普段は危険な魔物を飼育しておくために使われているそうじゃ。何でも、ドラゴンでも壊せないそうじゃぞ」

『うむ、防御魔法もしっかり掛けられておるようじゃの。この部屋を作った人間は、相当に腕の立つ魔導師じゃろう』

「ああ。ここは確か、賢者様が設計なさったそうじゃ」


 賢者様……か。

 かつて災厄を打ち倒し、この魔導都市を創設した伝説の魔導師様だ。

 俺も学園にいた頃は、賢者様みたいになることを夢見て魔法を練習していたんだっけ。


『もしかすると、その賢者というのもノエルと同じ人種かもしれんのう』

「へ?」

『この部屋、これから行う修行にはとても向いておる』


 興味深げなリーフォルス。

 いくらなんでも、それはないと思うけどなぁ。

 賢者様は千にも及ぶ魔法を自在に使いこなしたと言われている。

 魔力が多いとはいえ、下級魔法しか使えない俺とは全く違うはずだ。


「それよりもさ。これから、ノエルはどんな修行をするの?」

「そうじゃな。さっきからわしも気になっておった」

『ノエルにはこれから、ひたすら己の魔力に耐える修行を行ってもらう。具体的には、身体強化を極限までかけることかの。これによって魔力に体を慣らし、潜在魔力を放出できるようにする』

「意外と、簡単そうですね」

『とんでもない!』


 俺の言葉に対して、リーフォルスはすごい勢いで反応した。

 彼女はそのまま、言い聞かせるように重々しい口調で語る。


『極限まで身体強化をかけた時の苦痛は、想像を絶するぞ。それに最低でも二十四時間、耐えねばならぬ。最悪、痛みのあまり気がふれるかもしれぬのだ』

「いっ!?」

『うむ。本来ならば、長い年月をかけて慣らしていくものじゃからの。それを短期間でやろうとするのじゃ、危険はある』


 重々しく告げるリーフォルス。

 気がおかしくなってしまうほどの激痛か。

 想像するだけでも、背筋がゾワリとして不快になってくるが……やるしかない。

 こうしている間にも、魔物の群れは刻一刻とこちらに迫ってきているのだ。

 それを退けるには、どうしても魔法の力がいる。

 俺は呼吸を整えると、ゆっくり、一言一句かみしめるように言う。


「……お願いします」

『わかった。では、そなたたち二人は外へ出てくれ。これから丸一日、絶対に扉を開けてはいかんぞ』

「承知したわ」

「任せましたぞ」


 俺たちに頭を下げると、部屋を出ていく二人。

 重い扉が、ゆっくりゆっくりと閉じられた。

 やがて足音が聞こえなくなると、完全な静寂が訪れる。


「では、お願いします」

『うむ。まずは強化魔法を掛けてくれ。それをわらわの力で、主が耐えられるギリギリに制御する』

「わかった。じゃあ行くよ。蒼の拾、剛力!」


 魔法を発動した直後、身体全体を熱いものが行きわたった。

 これが、ギリギリの強化魔法か?

 それなりに苦しいけど、別に言われていたほどじゃ――。


「……うぐッ!? うああああッ!!」


 修行を甘く見た途端に、襲い掛かってきた激痛。

 身体の肉を引きちぎるかのようなそれに、俺はたまらず悲鳴を上げるのだった。


 ――〇●〇――


「急げ急げーーっ!!」


 魔導都市を取り囲む城壁。

 その上に設けられたやぐらに、冒険者たちが次々に物資を運び込んでいた。

 既に、魔物の大発生については情報公開がされている。

 この事態に対処するため、ギルドと冒険者たちはその総力を持って準備をしているのだ。


「いやぁ、にしても良かったぜ。装備が出来た後でよ」

「ああ。こいつがあれば百人力だ」


 そういうと、自身の鎧を自慢げに叩く冒険者たち。

 彼らはタイラントモールの運搬を手伝い、その素材を分けてもらった者たちだった。

 今回の事態を受けて職人たちが昼夜惜しまず働いた結果、何とか新装備が完成したのだ。


「よーし、東の準備は完了だ! 次は西門に行くぞ!」

「へい!」


 指示を受けて、テキパキと動き出す冒険者たち。

 その様子を見ていたリーシャは、額の汗をぬぐいながらほっと息をつく。


「この分なら、ノエルが修行を終えるまでは持ちそうね」

「あたぼうよ! このバートが現場指揮を執ってるんだからな! 坊主が戻ってくるまで、魔物なんぞ入れやしねえよ!」

「あんた、ずいぶんと張り切ってるわね」

「ああ、またとない昇格のチャンスでもあるからな!」


 そういうと、力強いポーズをとるバート。

 ギルドでAランクに昇格するためには、何かしらの功績が必要とされている。

 なかなかBランクから上に行けなかったバートにとっては、今回の事件は良い機会でもあった。

 乗り切ることさえできれば、ほぼ確実に昇格できるのだから。


「そんなこと言って、魔物を舐めちゃだめよ? わかってるだろうけど」

「もちろんだぜ! さあ、どこからでもかかってこい!」


 リーシャの心配をよそに、さらにヒートアップするバート。

 するとここで、偵察に出ていた冒険者たちが戻ってくる。


「た、大変だぁ! 魔物どもの動きが、急に早くなりやがった!!」

「なにいいいっ!?」


 予想外の報告に、その場は騒然とするのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ