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第十三話 タイラントモール

「デカイ……!!」


 大地を突き破って姿を現したのは、恐ろしく大きな体躯をしたモグラだった。

 その肉体は黒く光沢のある毛皮で覆われ、ちょっとした山のようである。

 ざっと見たところ、体高十メートルと言ったところであろうか。

 街道沿いに立っている木の先端よりも、頭が高いへ来ている。


「地面の下にこんなのがいたなんて……! そりゃ魔物も逃げるわけだわ!」

『こいつ、恐らくは変異種じゃの! ここまでデカいのはわらわも初めてじゃ!』

「あのドラゴンと同じか……!」


 言われてみれば、どことなく似たような気配がした。

 オーラとでもいうのだろうか?

 見ているだけでこう、背筋がゾクゾクしてくるような感じがある。


「ビビることないわ! ノエルはドラゴンだって倒したのよ、こんな大モグラぐらい一撃だわ!」

「とにかく、やるしかないですね! 碧の壱、風刃!!」


 収束した風が、不可視の刃となってモールを襲う。

 ギィンッと鈍い金属音。

 黒い毛皮の表面で、火花が激しく散った。


「やった……?」

「いえ、斬れてないですよ!」


 信じがたいことに、モールの身体は斬れていなかった。

 ドラゴンの首を一撃で叩き切る魔法を喰らったというのに、薄く傷がついた程度。

 致命傷というには程遠い。


「ど、ドンだけ頑丈なのよ!?」

『タイラントモールの毛皮は、地中の圧力に耐えるために恐ろしく強靭じゃ! ちょっとやそっとのことでは斬れぬ!』

「それにしたって、ドラゴンでも斬れる魔法よ?」

『変異種じゃからの。防御力も強化されておるのじゃろう!』

「ブオオオ!!」


 騒いでいるうちに、モールが咆哮した。

 直後、高く振りかざされた爪が一気に振り下ろされる。

 豪ッと轟く風切り音。

 たちまち爪の先端が大地にめり込み、亀裂が走った。

 おっそろしい威力だ、こんなもの当たったらひとたまりもない!


「大丈夫!?」

「何とか!」

「こりゃまずいわね、かすっただけで致命傷よ!」

「早く倒さないと……おっと!!」


 再び振るわれた爪を、かろうじて避ける。

 幸い動きはそれほど早くないが、このままではジリ貧だ。

 疲れたところを攻撃されておしまいだろう。


「リーフォルス、タイラントモールの弱点を知らない?」

『特にそのようなものは……。だが、毛皮を貫く方法はあるぞ!』

「本当?」

『うむ。炎魔法を一点に収束させて、レーザーのようにするのじゃ!』

「レーザー? 何それ?」

『ああ、そうか。今の者にはこう言っても伝わらぬか。ええっとそうじゃ、炎を絞って線にするのじゃ!』


 虫眼鏡で、太陽光を集めるみたいなものだろうか?

 何となくではあるが、リーフォルスのやりたいことは伝わってきた。

 でも、それって制御がものすごく大変じゃないか?


「正直、それやれる自信あんまりないです!」

『やるしかない! 大丈夫、わらわもついておる!』

「そうよ! ノエルならできると思うわ!」


 攻撃を必死にかわしながらも、励ましてくれるリーシャさん。

 ここまでされては、やるしかないよな。

 俺は魔力を高めると、それを一気にリーフォルスへと流し込む。


『おおお! 来た来た、来たぞ!』

「紅の壱、火球!」


 たちまち形成される炎の球。

 あとはこれを、小さく細く凝縮していく。

 するとたちまち、炎は一筋の赤い光となって伸びていった。

 その勢いは全くとどまることを知らず――。


「ブギイイイ!!」


 モールの身体を、光はいともたやすく貫いていった。

 そこからさらに伸び続け、蒼空を赤い光が抜けていく。

 その様はまるで、地上から天に向かって光の柱を立てたかのようだ。


「おお……! さすがの威力ね!」

『これがわらわとノエルの実力じゃの』


 よしっといい笑顔をするリーシャさんたち。

 その直後、モールの巨体が倒れた。

 今度こそ倒すことができたようである。

 やれやれ、ヒヤッとさせられたけど何とかなったな……。


「さてと。素材を回収して、今日のところは帰りますか」

「そうね。しかしこれだけデカいと、さすがのアイテムバッグにも入らないんじゃない? たぶん、ドラゴンの倍ぐらいあるわよ」

「分割すれば、たぶん行けますよ」

『まてまて、モールの毛皮は斬ったら価値が下がるぞ! 生きておる時は極めて硬い毛皮じゃが、死んだあとは柔らかくなって極上の敷物となるのじゃ』


 へえ、そうなのか。

 モールの身体に触れてみると、リーフォルスの言う通り、針金のようだった毛皮はすっかり柔らかくなっていた。

 けど、分割できないとなるとさすがに俺のアイテムバッグにも入らないな。

 容量的には問題ないが、入り口につかえてしまう。


「うーん、どうしましょう?」

「だったら、このまま運べばいいんじゃない?」

「いや、さすがに無理ですよ。こんなの動かそうとしたら、十人はいりますって」

「だったら集めればいいのよ。ちょうどいい具合に、みんなこの街道近辺にいるんだし」

「あ、そうか!」


 ポンと手を叩く俺。

 こうして数時間後――。


「よいしょ、よいしょ!!」

「な、なんだ!?」

「でかっ!!」


 タイラントモールを担いだ俺たち一行は、無事に魔導都市へと凱旋するのだった。


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