第十二話 魔物殲滅作戦!
「街道沿いの魔物をとにかく倒して来いなんて。ずいぶんと豪快な依頼よね」
「まぁいいんじゃないですか。仕事なかったんですし」
魔杖リーフォルスを購入した翌日。
俺とリーシャさんの二人は、魔導都市から王都へと延びる街道沿いへとやってきていた。
――さる高貴なお方が王都からお越しになられるため、街道周辺の安全を確保して欲しい。
ニコニコ顔の受付嬢さんから、そんな依頼を引き受けてのことである。
「しっかし、高貴なお方ってのは誰なのかしらね。わざわざこんな仕事をさせるなんて、並の貴族じゃないわよ」
「ですよね。俺たち以外にも、結構いるみたいですし」
あたりを見渡せば、街道に沿うようにしてちらほらと冒険者らしき人影が見えた。
周囲を見張るような動きからして、恐らくは俺たちと同じ依頼を受けたのだろう。
これだけの数の冒険者を動員するなんて、確かに並じゃない。
『もしかすると、王族かもしれんな。ガドモンも言うておったわ、今年の賢者祭は普段より気合を入れねばならんと』
「あー、あり得るわねー。だとしたら、来るのは姫様かしら」
「ルフィーア姫様ですか?」
「ええ。自称王国一の美少女の姫様」
何か思うところがあるのか、妙に棘がある言い方をするリーシャさん。
姫様と昔、何かあったわけでもあるまいに。
俺が首をひねっていると、彼女は自分から理由を語りだす。
「王都で暮らしてた時に、式典でちらっと見たんだけどさ。なーんかあざとい感じがして好きになれなかったのよね。そりゃちょっとは美人だったけど」
『まるで自分の方が美人とでも言いたげじゃな?』
「当然でしょ」
いっそすがすがしいほどの自信である。
リーシャさんが美人なのは、俺も認めるところではあるけどさ。
街で美人コンテストでも開いたら、間違いなく上位入賞するだろう。
けど、それでもなかなか言えることじゃないよな。
『おぬし、そういうことを言うておるから美人なのに色気がないんだぞ』
「ちょっと、それどういうことかしら?」
「まぁまぁ、それよりも仕事しましょ!」
今にも喧嘩を始めそうになる二人を、慌てて引きはがす。
とにかく、今は魔物を探して倒すことが先決だ。
依頼に参加した時点で最低限の参加報酬は支払われるが、本当に最小限の物。
魔物を倒さねば話にならない金額だし、そもそもサボっていると思われてしまうかもしれない。
「さっそく、リーフォルスの力を借りましょうか。探知魔法の範囲、広げられます?」
『無論だ。わらわを誰だと思っている』
「じゃあ行きますよ。碧の肆、風紋!」
魔力を孕んだ風が、草原を一気に吹きわたっていく。
おお、これは凄い!
この近くにいる人や物の様子が、次々と伝わってくる。
「どう?」
「そうですね、このあたりはかなり討伐が進んでいるようですよ。冒険者らしき反応しかないです」
「ありゃま。じゃ、場所を変えた方がよさそうね」
「そうですね。ちょっと移動しましょうか」
こうして探知魔法を掛けながら、街道沿いに歩くこと数時間。
まったくと言っていいほど魔物の気配はしなかった。
せいぜい突撃ウサギが数匹、見つかった程度である。
「全然、何もいないわね」
『うむ、討伐が行き届いておるのう』
「いや、でもちょっと変じゃないですか? ほとんど無尽蔵と言っていい魔物が、一日討伐したくらいでここまで減りますかね?」
いくらギルドの冒険者を総動員しているとはいえ、魔物なんてそうそう簡単には減らないはずだ。
今回の依頼にしたって、指定された期限は約一週間。
それだけの時間をかけることが前提の依頼となっている。
たった一日で目に見えて魔物がいなくなるなんて、ちょっとおかしい。
「もしかして、ドラゴンの時と似たような感じかもしれませんね」
「どこかに強い魔物がいて、それを恐れた他の魔物が逃げ出したってこと?」
「ええ。あくまで可能性ですけど」
「でも、そんな強そうな魔物見かけなかったけどねぇ」
『……それならば、心当たりがないでもないぞ』
少し考えこんだのち、何か思いついたように言うリーフォルス。
ここはひとつ、彼女の知恵に乗っかってみるか。
「何を思い出したんです?」
『うむ。地下に潜む魔物というのがおってな。タイラントモールというのじゃが』
「地下ですか。だったら……! 地黄の参、震動!」
魔力を放った途端、周囲の地面が小刻みに揺れ始めた。
それに釣られるようにして、どこからか俺の魔法とは別の揺れが伝わってきた。
次第にそれは大きさを増していき、地面に亀裂が入り始める。
「ちょ、ちょっと! これヤバいんじゃないの!?」
『かなりの大物のようじゃな!』
「出ますよ! うお!?」
こんもりと盛り上がった大地。
やがてそこから、巨大なモグラが姿を現した。
――〇●〇――
「楽な仕事だったな、ジェイク!」
「ああ! 何にも出ないのだものな!」
ノエルたちがタイラントモールと遭遇していた頃。
同じく街道沿いの魔物討伐をしていたはずのジェイクたち学園生は、一足先に帰還していた。
――魔物がいないのに討伐を続けても意味がない。
そう判断してのことである。
冒険者とは違い、学園生たちは魔物を討伐してもしなくても日当が支払われるため、さっさと切り上げてしまったのだ。
「でもジェイク、本当に良かったのか?」
「ああ?」
「あんなに魔物が出ないなんて、少しおかしくなかったか?」
「そんなの、ビビって逃げちまったんだろう。ギルドの冒険者はもちろん、エリートの俺たちまで討伐に出たんだから当然だ」
そういうと、ジェイクは気障っぽく笑みを浮かべた。
それを見ていた他の生徒たちも、そうだよなと笑い始める。
「だいたい、探知魔法も使ったんだ。それで異変があるわけがない」
「だよな。もしこれで漏れがあったら、俺泣いちゃう!」
「ははは!」
嘘泣きをしてふざける生徒に、笑い合うジェイク達。
そうしていると、討伐に参加しなかった女生徒たちが駆けてくる。
「ジェイクー!」
「ミラ!」
走ってきた女生徒を、すぐさま抱き留めるジェイク。
彼の胸板に抱かれた女生徒は、うっとりとした眼差しを向けながら言う。
「大丈夫? ケガはなかった?」
「俺がそんなものするわけないだろ」
「よかった!」
「さて、さっそく部屋に行こうか。お前がくるのを待ってたんだ」
「もう、ジェイクったら!」
すぐに部屋へと向かうジェイクとミラ。
事態の一部始終を見ていた生徒の一人が、ぽつりとつぶやく。
「これでもし、魔物の残りがいたら大問題になるな……」