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10・一緒にごはん

 立岡先生の言ったことは本当であった。

 少し心配していたが、翌日から俺や清水にちょっかいを出してくる者は一人も現れなかった。


 だが。


「なんか見られてるね」


「ああ」


 俺と清水が二人で喋っていると、ジロジロと視線を向けられていた。

 まあ、しかしそれも「あの二人どうなっちゃうのかな?」というような好奇な視線を向けられているだけのように思えるが。


「でもこれで他の人を気にせず、いっぱいお喋りすることが出来るね」


「そ、そうだな」


 今までは少し気にしてたからな。

 そもそもモブキャラの俺が、清水のような主要キャラと喋るなんてイレギュラーすぎる。


 清水の言った通り、人の目線を気にする必要はなくなったが——。



 ジーッ。



 一人、他とは明らかに異質な視線を向けている者がいた。


「ジーッ」


 というか口に出しちゃってるし。


「なんか小西さんに超見られてる……」


 清水も気付いているようだ。


 そうなのだ。

 同じ美化委員の小西だけは、何故だか俺達のことを「ジロジロ」といった感じより「ジーッ」……つまりガン見しているような気がした。


「清水さんと悠真君が仲良し……いいないいないいな。でも付き合ってないから大丈夫大丈夫大丈夫……」


 しかもギリギリ聞こえるか聞こえないかくらいの声量で、ぶつぶつとなにか呟いている。

 ちょっと怖い。


「なんだか落ち着かないね」


 清水は居心地悪そうにしていた。


 さて。

 今は四限目が終了し、お昼ご飯の時間。

 あらかじめ清水とご飯を食べようとしていたが、これではたまったもんじゃない。


「あ、そうだ。屋上に行こ」


 そう思っていたら、清水がそう提案した。


「屋上?」


「うん。ここじゃあ落ち着いてご飯食べられないし」


 それは名案だな。

 いくら誰もちょっかいを出してこないとはいえ、こんな針のむしろみたいなところで食べても、美味しく感じない。


「でも屋上なんて行けるのか?」


「大丈夫。わたし、屋上の扉の開け方知ってるから」


「なんで、そんなの知ってんだよ」


「ふふふ、秘密だよ」


 清水が口の前で人差し指を立てる。

 その動作が彼女らしくて可愛らしかった。


「じゃあ早速行こうか」


「うん!」


 こうして、俺達は屋上でお昼ご飯を食べることになった。


 ◆ ◆


 南高校の屋上は開放されていない。事故防止のためだと聞いた。

 なのでダイヤル式の鍵が取り付けられているわけだが……。


「まあダイヤル式といっても三桁だし。しらみつぶしにやっていけばいつかは開く……のか」


「そういうことだよ」


 なんか昔、適当にダイヤルを弄くってたら開けられるようになったらしい。学校のザルな管理方法に心配を覚えた。


 屋上に着くと、爽やかな風が吹いていた。

 少し寒いが……我慢出来ないほどではない。


「悠真君はなにを食べるの?」


 清水が覗き込んでくる。


「ん……いつもは母さんに作ってもらっているんだがな。今日は忙しかったみたいで、コンビニのパンを買ってきた」


 パンが入った袋を掲げる。

 こういうことは割とよくあるのことなのだが、母さんがお弁当を作れなかった時は。



『ごめんね、ゆう君! 帰ってきたらちゅーしてあげるからね!』

『しなくていいから!』



 なんていうやり取りがいちいち繰り広げらていることは、みんなには内緒だ。


「清水は?」


「ふふん、わたしは手作りのお弁当なのだー!」


 清水は膝の上で、自信満々にお弁当箱を広げた。


「おお、旨そうだな」


「でしょっ! へへん」


 得意気に清水が鼻を鳴らした。

 可愛らしいお弁当箱の中に、ハンバーグや唐揚げ。ポテトサラダといったものが入っている。


「だが、朝から作るの大変だったんじゃないか?」


「早起きして作りました!」


 と彼女のドヤ顔。


「悠真君も食べる?」


「いいのか?」


「うん! 悠真君にもわたしのお弁当食べて欲しい!」


 正直、パンだけなら素っ気なかったので、清水の心遣いは助かる。


「悠真君、なに食べたい?」


「そうだな……唐揚げとか好きだから、食べてみたいな」


「分かった! じゃあ……あーん」


 ……ん?

 清水が箸でひょいっと唐揚げをつかんで、そのまま俺に食べさせようとしてきた。


「いや、清水よ。それはいくらなんでも……」


「あーん」


 有無を言わせない威圧感である。


 さて、困った。

 とはいっても俺はパンを食べようと思っていたし、一人分の箸しかないのも事実だ。

 手づかみで食べようとしていたが、この調子だと清水は引き下がってくれそうにない。

 仕方ない。


「じゃあ遠慮なく……」


 唐揚げをぱくっと口の中に入れる。無論、清水の箸に唾液が付着しないように配慮してだ。

 すると唐揚げのジューシーな旨味が、早速口の中に広がっていった。


「どう、美味しい?」


「ん、ああ。メッチャ旨い」


 言ってやると、清水はぎゅっと親指を立てた。

 これはお世辞ではない。

 元々唐揚げが好きだったのもあるが、これならいくら食べても飽きがきそうになかった。


「すごいなあ、清水は。俺は料理出来ないし、素直に尊敬するよ」


「はう。悠真君に褒められてる……早起きして作ってきてよかったあ……」


 清水はとろけた顔をして、なにやら呟いていた。


「そうだ! 悠真君のパンも食べさせてよ」


「俺のか?」


 清水みたいに手作りというわけじゃないんだがな……。

 どうして急にパンを食べたくなったんだろうが。


「まあ別にいいぞ。ほら」


 パンを手渡そうとすると、


「あーん」


 清水が目を瞑って、口を開いた!

 もしや、さっき清水がやったみたいにしろということか!


「おい、清水。それはさすがに恥ずかし……」


「あーん」


 ダメだ。

 清水は口を開いたまま、まだかまだかと待ちわびている。


「まあ別にいっか……」


 やましいことをするわけでもないしな。なにをそんなに照れる必要があるのか。

 それにこういうのは意識するから照れるのだ。


 今の俺はモブキャラじゃなく陽キャ陽キャ……。


 と自分に暗示をかけ、清水の口にパンを近付けてやった。


「もぐもぐ」


 なんてわざわざ言いながら、清水はパンを噛む。


 そしてごっくんと喉を通した後、


「美味しい! さすが悠真君チョイスのパンだね。とっても美味しいよ!」

「そ、そうか。ありがとう」


 まさかコンビニで買ったパンを、そこまで褒められるとは思わなかった。



 そんなこんなで、お昼ご飯の時間は楽しく過ぎていった。


「ねえねえ、悠真君」


 すると突然、清水が俺の名を呼んだ。


「悠真君に一つ聞いてもいい?」


「ん、どうしたんだあらたまって。別にいいぞ」


 当初、彼女はもじもじしてなかなか口を開こうとしなかった。


 しかし「よし……!」と意を決したように、


「じゃあ言うよ」


 こう続けたのだ。



「ゆ、悠真君って……好きな人とかいるの?」

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