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第三話 最後のクルセイダーズ

 


 ソミィの投げたカード。

 それに弾き飛ばされるファリナの小剣。

 その衝撃で彼女は意識を失ってしまった。

 バーツの言葉によって受けた精神的ショックも強かったのだろう。



 ファリナはその場に倒れた。

 混濁した意識は次第に底へと沈んでいく。

 そんな彼女が見た夢。

 それは…


『よお、お前がファリナか』


 意識を失ったファリナ。

 そんな中、彼女の虚ろな夢の中で語りかけるものがいる。

 夢の中に現れた一人の青年。

 会ったことも無い男。

 しかし、なぜか懐かしさを感じる。


『懐かしいなぁ。お前の母親の…昔のアイツによく似てるぜ』


 そう呟く謎の青年。

 アイツとはいったい誰だ。

 何の話をしているのか。


『あなたは…』


『お前の父親、と言えばわかるか?』


『じ、じゃあ…』


 夢の中に現れたその男。

 それはあのキルヴァだった。

 ファリナは顔も見たことが無い。

 だが彼がキルヴァであるとはっきりと理解できた。


『そうだ。俺がキルヴァだ』


『何の用なの?』


『親が実の娘を心配するのは当然だろ?』


 そう言うキルヴァ。

 しかしその顔は下衆な目つきをしたいやらしいモノ。

 どう贔屓目に見ても、自身の子どもを心配するような顔では無い。


『アイツらについていけ。こんな田舎の村など捨てちまえ』


 バーツたちはファリナを『勇者の娘』として祭り上げるだろう。

 そうなれば、今よりもずっと贅沢な生活が送れる。

 これまでの『奪われる側』から『奪う側』へと回れる。

 義理の親や友人など捨てろ。

 目の前の男、キルヴァはそう語りかける。


『なぁ、俺に着せられた汚名を晴らしてくれよ』


『いやだ!』


『あの俺を見下した野郎共にお前が復讐するんだよ。娘であるお前が…』


 ファリナに近づき、そう呟くキルヴァ。

 それに抵抗するファリナ。

 声を荒げ彼に対し叫ぶ。


『あたしはアンタの娘なんかじゃない!アンタなんかしらない!単なる悪党だ!』


『おいおい、実の父親に向かって何言ってんだよ!』


『アンタみたいに悪くない!残虐じゃない!』


『お前は成長すればいい女になるぜ。色気仕掛けでもなんでも…』


『嫌ぁ!』


 そう叫ぶファリナ。

 キルヴァを思い切り突き飛ばした。

 そのまま転び、頭を地面に叩きつけられるキルヴァ。

 その衝撃で彼の頭が割れ、血が噴き出た…


『何が悪くないだ』


『ヒェッ…』


『お前は俺と同じなんだよ』


 ボロボロになったキルヴァ。

 その彼がファリナに這いずりながら近づいてくる。

 二人には同じ血が流れている。

 今更それから逃れることは出来ない…


『なぁ…』


『嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』




 ---------------------




「…あッ!」


 その声と共にファリナは目覚めた。

 たった数秒。

 彼女が気絶していたのはたったの数秒だった。

 だがそれはとても長い時間に感じられた。

 とても長い時間、夢を見ていた気がする。

 その中で彼女は恐ろしい存在と出会っていた。

 顔は霞がかかって思い出せない。

 けどその名前ははっきりと聞いた。

 キルヴァ、と…


「あれ…?」


 ファリナは手に持っていた小剣が無いことに気が付いた。

 小剣を弾き飛ばしたもの。

 それは一枚のカードの投擲と一人の少女の声。

 声の主…

 十年前、大陸へと旅立っていったあの少女だった。


「久しぶり!ケニーくん!」


 かつてカケスギと共に行動を共にしていた少女、ソミィだった。

 そんな彼女が、一人の戦士としてこの地に戻ってきた。

 黒く長い髪を風に靡かせて。

 大陸でZ・クルセイダーズとして戦い研磨を積んできた。

 それは、彼女の佇まいを見れば一目瞭然。


「いきなりで悪いけど、随分と厄介なことになってるみたいだね」


 無数の黒装束。

 それに襲われていたファリナとケニー。

 そしてその黒装束たちを束ねる男、バーツ。


「ああ、まあな…」


 先ほどバーツに斬られ、受けたケニーの傷。

 浅いとはいえ範囲が広い。

 痛みよりも出血が気になるところだ。

 バーツの気が逸れている間に、腰布を引きちぎりそれを包帯代わりにあてがう。


「なんだあの女…?」


 バーツの気は、既にケニーからソミィに移っていた。

 突如現れ、ファリナの自害を阻止した謎の女。

 彼にはソミィがそのように見えていた。

 そして彼女が、自身にとって『味方では無い』ということも理解していた。

 ハンドサインで部下に警戒するように伝える。


「ケニーくん、これ!」


 そんな中だった。

 ソミィがケニーに向けある物を投げた。

 それを掴み、同時に鞘からその『剣』を引き抜く。


「なに!?」


「これはッ…この『剣』は…ッ!」


「勇者だったんでしょ、ケニーくん!」


 ケニーが受け取ったその剣。

 それはかつてキルヴァが持っていた勇者の聖剣。

 パンコとレイスによって奪取され、革命の際に利用された。

 表向きはあの革命の際に紛失されたといわれている。

 しかし実際は違った。

 実際は革命後のゴタゴタで海の向こうの大陸へ流出していたのだった。

 それを再びソミィがこの国に持ち込んだ、という訳だ。


「聖剣の模造品か。そんなもので私に勝てると思うなよ」


 当然バーツはそんなことは知らない。

 目の前にある聖剣が本物である、ということも。

 彼にとってこの聖剣は単なる模造品にしか見えないのだ。


「私は偽聖剣使いの方をやる!」


「甘く見るなよ!」


 そう言って自身の剣で再びケニーに斬りかかるバーツ。

 彼にとってケニーは一度下した相手。

 武器が変わったところでなにも問題は無い。

 そう考えているようだ。

 彼の攻撃を聖剣で受け止めるケニー。

 必死で鍛え、学んだコーツ直伝の剣技だ、弱いわけが無い。


「意外とやるな」


「へへ、ありがとうよ」


「では、そっちの女は…」


 バーツのその声と共に、物陰から大男が現れた。

 人の背ほどもある金棒を持つ巨漢。

 バーツの部下なのだろうか。

 しかし彼のみ黒装束では無い。


「ゴルドー!お前に任せる」


 そのゴルドーと呼ばれた男は黙って頷く。

 金属混を構え、ゆっくりとソミィに歩み寄る。

 眼の奥でソミィをじっくりと睨み据える。


「でかいね」


「…」


「ゴルドー!何をしてる、あの女を始末しろ!金は先に払ってあるんだぞ!」


「があぁぁぁぁ!」


 バーツのその叫び声と共に、ゴルドーがソミィに襲いかかった。

 三メートル近くはあろう筋肉質な巨体の、金属混を構える男。

 巨大な金属混をソミィに振りかざす。


「ぬッ!」


 その金属混を刀で受け止めるソミィ。

 もちろん普通にやれば刀はあっという間に折れてしまう。

 刀身に魔力を通し、その受け身を可能としているのだ。

 だが受け止めているとはいえ、その衝撃は受ける。


「うがああああぁぁぁぁ!」


 ゴルドーが雄叫びを上げながらソミィを金属混で押し倒す。

 大地を背に、目の前には鬼のような形相で金属混を構えるゴルドー。

 ゴルドーの金属混とソミィの刀のつば競り合い。

 体格では明らかにゴルドーが有利。

 このままではソミィは負けてしまうかもしれない。

 しかし…


「貴方の攻撃には心がこもっていない」


「なにぃ!?」


「あの人たちの主張には共感できない、でも金で雇われてる」


「うッ…!」


「だから戦う、そんなところでしょう?」


 ゴルドーが彼らと同じ衣装を身に纏っていない理由。

 それは彼らの意見には一切賛同していないからだ。

 キルヴァなど単なる悪党の一人でしかない。

 小さな子供を誘拐するのに手を貸したくも無い。

 しかし金は欲しい。

 だから武器を振るう。

 己の信念を曲げて。


「ぬうッ!?」


「貴方は私には勝てないよ」


 あえて刀から力を抜き、金属混を地面に激突させる。

 鍔競り合いを解除すると同時に横からすり抜けるソミィ。

 彼女の素早い動きに対抗できない。

 ゴルドーの動きは彼女に追いつかない。

 海の向こうの大陸で修業を積んだ彼女の動きに…


「ぐがあぁぁぁ!」


 金属混をデタラメに振り回すゴルドー。

 ソミィの動きをとらえるのは不可能。

 そう悟ったのだろう。

 しかし…


「そこ!」


「うッ!?」


 刀に魔炎を纏わせ放つ奥義。

 それは…


「幻狐流剣術奥義『炎舞折朱』!」


 かつてソミィを守ってくれた人。

 その彼に追いつくために身に付けた技。

 彼が学んでいたものと同じ剣術。

 ソミィの魔力により赤熱化した刀身がゴルドーを切り裂いた。


「ぐああぁぁぁ…」


 叫び声を上げながらその場に倒れるゴルドー。

 倒れたゴルドーに軽く頭を下げるソミィ。

 彼は自分と戦った戦士だ。

 倒れた戦士を侮辱することはしない。

 出来るわけが無い。


「またいつか戦いましょう」


 小声でそう呟きながら、ソミィはファリナの元へと向かった。

 その一方では、バーツとケニーの戦いも続いていた…



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― 新着の感想 ―
[一言] うん、あの戦闘民族たちの中で育ったらそうなるよねソミィさん。 立派に育って……(遠い目)
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