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第一話 十年後…

番外編です。

 

 あの戦いから十年が過ぎた。

 以前に比べ、テルーブの国はとても住みやすくなった。

 国家間の情勢も安定。

 国内もかつてのような争いは減っていた。

 しかし、その代わりに『とある勢力』が国内に現れるようになった…



 場所は山間の小さな村『クレセントコーツ』。

 二代目の勇者コーツが治める村だ。

 ある晴れた日の静かな正午過ぎ。

 クレセントコーツの村の外れにある広場。

 そこは子供たちの格好の遊び場となっている。

 今日も数人の子どもがそこで遊んでいた。

 しかし何やら様子がおかしい。

 …どうやらケンカが起きているようだった。


「おちついて!『ファリナ』ちゃん!」


「ダメ!こいつビーくんをいじめたんだよ!?」


「もういい、もういいよ!やりすぎだよ!」


 小太りの少年の上に馬乗りになり殴り掛かる『ファリナ』という少女。

 何発も殴られ泣きわめく少年。

 それを止める少女の友人二人。


「ビーくんのためにやってるのに!」


「もういいんだよ!」


 少年が馬乗りになっていたファリナを引きはがす。

 その隙に小太りの少年は逃げて行った。


「はなして!はなし…」


「もういいよ…」


「…ごめん」


 友人の言葉を聞き、落ち着きを取り戻すファリナ。

 その美しい金色の髪はぼさぼさに乱れている。

 たまにあるのだ。

 激情を止められず、暴走してしまうことが。

 ファリナ自身もこんな自分は好きでは無かった。

 直そうともずっと思っている。

 しかし、どうもうまくいかない。

 カッとなると自分を抑えきれなくなってしまうのだ。


「ごめんね…二人とも…」


「で、でも僕のためにやってくれたんだし…」


 友人二人もファリナが嫌いなわけでは無い。

 彼女の性格は昔からよく知っている。

 なんとかフォローを入れるも、今のファリナにはそれがとても心苦しく感じた。


「ちゃんと謝らないと…」


 さっきの小太りの少年にも謝らないといけない。

 そう考えつつも、今すぐというのはどうもやり辛い。

 日を改めてまた謝ろう。

 それにもうすぐ日も暮れる。

 そう考え、三人は解散した。


「ただいま…」


 帰宅するファリナ。

 村の中心から少し離れた場所。

 そこに彼女の住む家はあった。

 遊びに出た時は綺麗だった服は泥で汚れていた。

 帽子はとどこかへ忘れてきてしまった。


「ファリナ…」


 ファリナに親はいない。

 代わりに初老の『おじさん』と『おばさん』に育てられている。

 迎えたのはおじさんだった。

 怒られる…!

 そう考えるとどうしても憂鬱になってしまう。


「今日もケンカをしたみたいだね」


「何で知ってるの?」


「聞いたんだ」


 おじさんはファリナを叱った。

 強く怒鳴り散らすわけでは無い。

 静かに、諭すように。

 その言葉はファリナに痛いほど突き刺さった。

 全て自分でもいけないと思っていること。

 しかしどうしても激情が止められない。

 ファリナは言った。


「自分が…止められないの…」


「…ッ!」


 何故かおじさんは顔を歪めた。

 言い返され怒っている、という訳では無い。

 その表情はどこか奇妙な感情が潜んでいるようだった。


「…部屋で反省していなさい」


「はい…」


 そう言ってファリナは自室へと戻っていった。

 少しして、彼の妻が帰宅した。

 どうやら買い物をしていたらしい。


「ただいま。あら、ファリナちゃんは?」


「ああ、部屋にいるよ。なぁ『ノート』…」


「随分と弱々しい声ね。かつての勇者『コーツ』の名前が泣くわよ?」


 そう。

 ファリナの育ての親。

 それは先代の勇者と聖女であるコーツとノートだった。


 そしてファリナの本当の親。

 それは十年前の革命の中討伐されたあの二人。

『偽りの勇者』キルヴァと『偽りの聖女』ミーフィアだった。

 あの戦いの後、コーツとノートはまだ赤ん坊だったファリナを育てることを決めた。


「実はな…」


 コーツは今日起きた出来事をノートに話した。

 ファリナが友人と取っ組み合いのけんかをしたことを。

 単なる喧嘩ならば特に気にすることも無い。

 しかしファリナの場合はその頻度が特に多いのだ。

 単に怒りっぽいだけか。

 それとも…?







 一方その頃。

 ファリナは自室で外を眺めていた。

 窓から入る月の光が彼女を照らす。

 今日は妙に月が明るく感じる。


「おかしいのかな、あたし…」


 最近どうにも感情のコントロールがつかない。

 ちょっとしたことで怒ってしまう。

 まるで人が変わったように。

 激情を押さえようとしても抑えきれない。

 身体の内側からくる『何か』がそれを掻き立てるのだ。


「気をつけないと…」


 コーツに言われた通り、椅子に座り静かに反省をするファリナ。

 何が悪かったのか、どうすればいいか。

 頭では理解している。

 しかし、内からくる激情がそれを実行させまいとしている。

 この感情は一体なんなのか。

 内から湧く激情の正体は…


「ん?」


 それを考えながらながら外へと顔を向ける。

 ふと月の前に黒い物が。

 鳥か動物か何かか、いや違う。

 それは…


「失礼いたします、お嬢様…」


 部屋の窓から響く静かな声。

 そちらへ視線を向けるファリナ。

 その声と共に部屋を吹き抜ける疾風。

 風と共に部屋に入ってきたのは一人の黒装束の男。


「貴方は?」


「驚かないんですか?私のような怪しい男を」


 この謎の男からは敵意を感じなかった。

 とはいえ『善人である』ともいえない。

 敵意は無いから善人である、という訳では無い。

 しかし中々の手慣れであることは確実。

 コーツとノートにその気配を悟られることなくこの場に現れたのだから。

 違う部屋にいるとはいえ、一般人ならばその気配を悟られてしまうだろう。


「気は強い方なの」


 この男は何かを隠している。

 ファリナは直感的にそう感じていた。

 しかしその想いよりも好奇心が勝っていた。


「とてもいい顔をしている。さすが『あのお方』のご子女…」


「えッ…?」


「貴方の本当のご両親を、私は知っています」


「あたしの…本当の…?」


 コーツとノートが本当の両親でないことは知っている。

 ファリナは二人に両親のことを尋ねたことがあった。

 しかし、何度聞いても絶妙にはぐらかされ、まともな答えを知ることはできなかった。


『かつて国のために戦い、そして死んだ』


 とだけ聞かされていた。

 それ以上のことは知らなかった。

 しかし…


「知りたいですか?」


「う、うん…」


 知れるのなら知りたい。

 自信の本当の親を。

 一体どのような人物だったのか。

 どんな人生を歩んだのか。

 何故自身の前から姿を消したのか…?


「お父さん…お母さん…」


 先ほどの悩みが吹き飛ぶような衝撃だった。

 それを見て笑みを浮かべる謎の男。


「もし知りたいというのであれば…」


 そう言って黒装束の男は一枚の紙を取り出した。

 そこに書いてあったのは、この村の周囲の地図。

 村はずれの旧石切り場に印がつけてある。

 大昔には誓われていたが、今では人がほとんど来ない。

 現在は放棄された場所だ。


「三日後の夕方、その印の場所へ来てください」


 そこで全てを話す。

 黒装束の男はそう言った。

 しかし一つの条件を付けた。

『他の誰にも話してはいけない』と。


「では三日後、また会いましょう」


 黒装束の男はそう言った。

 それと共に再び部屋を吹き抜ける疾風。

 風と共に彼は去っていった…


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― 新着の感想 ―
[一言] おお、続きが……! サイクロンさんよりも怪しいやつが出てきましたねこれは。
[一言] 番外編きた! 感情を抑えられない子供ですか。勇者でも聖女でも無理だったかな?さらに怪しい展開があるようで、実の父母の正体を知った時にどうなることやら。正確に教えてもらえるとは思えないし、コロ…
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