第九十五話 未来へと重ねた勝利
最終話です
海を越えた先にある大陸。
その地をかつて支配していた超大国。
しかし、今はその面影はない。
魔王軍の奇襲を受け、大陸の中央にあった帝都は壊滅。
戦略的価値のある各地の主要都市も魔王軍の支配下に置かれた。
しかも敵はそれだけでは無い。
魔王の侵攻に乗じて挙兵した謎の軍閥『覇帝軍』により各地の戦闘は激化。
魔物、人間を問わず『強者』のみを徴兵する覇帝軍。
『強者』のための国を作るため、各地で魔王軍、旧帝国軍と争いを繰り広げた。
旧帝国軍、魔王軍、覇帝軍。
三つに分かれた大陸。
真っ先に疲弊したのは旧帝国軍だった。
魔王軍と交戦し戦力を失い、さらに覇帝軍に将の一部を引き抜かれた。
旧帝国軍は戦略的価値の低い土地へと撤退。
残された戦力は各地で『Z ・クルセイダーズ』としてゲリラ化。
魔王軍、覇帝軍と戦いを繰り広げていた。
魔王の軍勢。
それがとある村の支配に乗り出した。
砂漠と荒野に囲まれた小さな村。、
しかし、井戸があるため人の生活には困らない。
砂漠と荒野のオアシスにできた村だ。
この村を支配すれば、ここを拠点としてこの地区を制圧しやすくなる。
魔王軍はそう考えたのだ。
『南地区のセンナーの村を確実に手に入れよ』
魔王の命を受け出陣する軍勢。
それを相手に戦い続けるクルセイダーズの二人。
残りの兵は先に逃がした。
二人でしんがりを務めた、という訳だ。
しかし相手は数百の軍勢。
立った二人で全てを相手にできるわけが無い。
「はぁ…はぁ…なぁ、メノウ。残りはどれくらいだ…?」
「数百…といったところか…ショーナ…」
クルセイダーズのリーダーである青年と少女。
こちらへと向かってくる第二陣の軍勢に目を向ける青年。
敵の返り血でその身に纏う白いローブを赤く染めた少女。
身体中に傷を負ってはいるが、その戦意は一行に衰えを見せない。
既に半数以上である五百は倒した。
しかし相手はまだ数百も残っている。
雑兵とはいえ全てを相手にするわけにはいかない。
「どうするメノウ、撤退するか?」
撤退するということはこの村を明け渡す、ということ。
それだけはしたくは無い。
しかしこれ以上の戦闘続行も難しい。
一旦撤退し、体勢を立て直す。
そして改めて戦おう、青年はそう提案した。
「あと少し倒したら…」
少女がそう言いかけたその時だった。
無人となった村の中に響く声。
それは彼女にとって、とても懐かしい者の声だった…
「撤退といわず、全滅させようじゃないか。なぁ、二人とも!」
「レービュ!」
「約束通り、最高の助っ人を連れてきた!」
その声の主はレービュだった。
仲間を探すため国を脱出し、テルーブ王国へ訪れていた彼女。
そんな彼女がこの大陸に帰ってきた。
新たなる仲間を連れて。
「敵の数が多いな、百では済まないな」
そう言うのはエリム。
こちらへと向かってくる敵の軍勢を見ながら軽くつぶやく。
彼女は雑兵を相手とした戦術を得意としている。
そんな彼女を尻目に、カケスギがクルセイダーズの二人に歩み寄る。
軽い回復魔法をかけ、青年と少女の二人の傷を治す。
「最低限の治療はした」
「ありがとう、助かったよ」
「お前さんの名前は?」
「後で話す。まずはここを片付けよう」
そう言いながらカケスギが剣と刀を引き抜く。
かつて勇者の聖剣と呼ばれていた剣。
そして愛刀、五光姫狐を。
雑兵相手ならば二刀流の方がやりやすい。
そう考えたのだろう。
「まずは俺が突っ込み攪乱する。みんなはそこを頼む!」
そして拳を構えながらコロナが叫ぶ。
数百の軍勢。
普通に戦えばかなりきつい相手だ。
しかも相手は統率のとれた軍勢。
野良の魔物とは話が違う。
しかし…
「わかった」
「任せるぞ、コロナ」
「全員でここを突破する!」
この場にいるのは彼一人では無い。
カケスギ、エリム、レービュ。
そしてなにより、クルセイダーズの二人がいる。
既に五百の軍勢を下してきた二人だ。
「よし、行くか!」
その声と共にコロナが軍勢の中に突進する。
一気に囲まれるも、それを拳で吹き飛ばしていく。
剣で薙ぎ払い、鉄板入りのブーツで蹴り飛ばす。
あっという間に十数の兵を片付ける。
しかしまだ大多数の軍勢が残っている。
「ここで負けるわけにはいかない…!」
コロナはこれまで多くの戦いを経験してきた。
数年前の護人として。
追放後、スラムのデスバトルで。
キルヴァたちの復讐。
国を盗る革命。
「俺はそれを全て勝って来た!」
それらすべての戦い。
コロナはそれら全て勝った。
勝利を積み上げここまで来た。
仲間、実力、運、欲望、執念。
「勝って、勝って、勝って、勝った!」
群がる魔物を纏めて薙ぎ払う。
拳を振るい叩き込む。
そして叫ぶ。
これまでの『勝利』、それらがあっての今がある。
「そんな俺が、今さら普通の生活になんか戻れるわけないだろう!」
普通の生活を静かに送りたい。
それを希望していないか、といえば嘘になる。
もう護人でもなんでもないのだ。
静かに暮らしても、誰も文句は言わない。
しかしそれはもうできない。
もうコロナは普通の生活を送るのは無理なのだ。
「なあそうだろう!ノリン!」
敵の攻撃を受けながらもそう叫ぶ。
興奮しているのか大声での独り言が多くなっていく。
しかしそれにも構わず戦いを続ける。
カケスギ達も交戦を始めたようだ。
自身の魔力で形成した剣で軍勢に切りかかるクルセイダーズの少女。
魔力炎で襲い掛かるレービュ。
「そうだろ!キルヴァ!」
コロナの拳が魔物の兵士の頭部を砕く。
今の彼の人生はかつての仲間たちの屍の上にある。
本来ならば屍になるのはコロナだった。
しかし運命の悪戯か、実際に屍となったのはかつての仲間たちだった。
「そうだろ、ミーフィアぁッ!」
後悔などしてはいない。
悪いことをしたなどとも思ってはいない。
贖罪?なんのことだ。
あいつらと同じことをしただけだ。
勝ったのは俺自身だ。
コロナはそう考える。
「戦って勝つんだ!ずっと…!」
ここにきてコロナも敵の攻撃を思い切り受けた。
身体に大きな斬撃が叩き込まれた。
思わず一瞬、後退するコロナ。
しかしそれに怯むわけにはいかない。
かつての仲間たちから受けた傷に比べれば随分と軽いものだ。
かつての仲間たちを潰し、復讐を果たしたコロナ。
自信をこんな境遇に陥れた国も、同じく潰れた。
全てを終えたコロナ、そこで初めて彼は気づいたのだ。
復讐を終えた後、自身には『何も残っていなかった』ことに。
「戦って、戦って、戦って…そして勝ち続ける!」
一度死に、絶望の中で死んだような生活をしていたコロナ。
カケスギと出会い、復讐という目的は見つけた。
しかし、それを終えた時そこには何も残っていなかった。
確かにカケスギたち新たなる仲間とは出会った。
しかし彼らとて人間。
いつかは別れのときが来る。
彼らには彼らの人生があるのだから。
自身の元にしばりつけておくわけにはいかない。
「勝つんだ、勝って勝って勝って…ッ!」
その穴を埋めるもの。
それは『勝利』しかない。
勝利を重ね続けること。
それがコロナに唯一残された道。
「勝ち続けるんだ!敗北するまで!」
仮にこの大陸に平和を取り戻しても、コロナは戦い続けるのだろう。
まったく別の新天地で。
その時、カケスギ達を引き留める権利はコロナには無い。
彼らは新たな人生を歩むのかもしれない。
しかしコロナは違う。
場所を変え、戦い続けるのだ。
ずっとずっとずっと…
「どちらが先だ!?この俺の敗北か!?」
コロナは叫ぶ。
敵たちの亡骸の上で。
いつまでも勝利を重ね続けることはできない。
やがては敗北のときが来る。
しかしそれでもこの『勝利を重ね続ける』道を進み続けるしかない。
例えその未来に待つのが『地獄の底』だったとしても…
「それとも…この身体が灰燼と帰すその時かッ…!?」
本編はこれで終わりです。
これまでお読みいただきありがとうございました。
これで完全な終わりでは無く、すこしだけ番外編を投稿して終わります。