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大切な幼馴染と聖女を寝取られた少年、地獄の底で最強の《侍》と出会う  作者: 剣竜
第七章 王都決戦

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第八十七話 通してやれ!

 

 このテルーブ王国の『王』。

 革命軍に味方する戦士、コロナとカケスギ。

 三人の戦いがついに始まった。

 ぶつかり合う三人の攻撃。


「ぬあぁぁッ!」


「ちッ!化け物か!?」


 カケスギが珍しく難色を示す。

 二メートルを超える大剣を『王』は軽々と振り回す。

 迂闊には近づけない。

 しかも片手でも扱えるのか、随分と小回りが利くようだ。

 なんとか近づき攻撃を加えるも、いずれも決定打にはならない。


「な、なあ王様よ」


「なんだ護人?」


「も、もうさ、アンタ一人で勇者やってりゃよかったんじゃねーの?」


「あの程度の魔物、儂が出る必要が無い。だからガキ共に任せたまでだ!」


「ゲェー…!」


 王の圧倒的な自信。

 コロナは絶望や怒りの前に、呆れや笑いが来てしまった。

 いろいろな感情が彼の中で混ざり合う。

 そしてついによく分からなくなってしまった。


「ははは、マジかよ…」


「ちゃんと戦えコロナ!俺が全部受け止めてるんだぞ!」


 王の剣を受け止めながらカケスギが叫ぶ。

 もちろんコロナもただ話していただけでは無い。

 カケスギが剣を受け止めている、それはつまりコロナに攻撃が来ない、ということ。


「わかってる!ずあッ!」


 勢いよく飛び上がり、カケスギの身体を飛び越える。

 そして『王』の顔面に全力の拳を叩きつけた。

 ナックルダスターを強く握りしめての一撃だ。

 しかし…


「効かん!」


「うおッ!」


「なに!?」


 コロナの攻撃は通用しなかった。

 その気迫の前に吹き飛ばされてしまう二人。

 この戦いはしばらく長引きそうだ。

 二人はその身でそう感じていた。



 一方、ミーフィアは…


「に、逃げないと…」


 コロナは確実に自分を殺しに来る。

 ノリンとキルヴァ。

 二人にそうしたように。

 前回のように隙を突いて逃げることはできないだろう。

 持てるだけの金を持ち、城から脱出する。

 先ほどマルクにばら撒かれた金や金品はすでに纏めなおしてある。


「この混乱の隙に…」


 ミーフィアは金をかき集め城から逃げる準備をした。

 邪魔者の将軍マルクは何故か下の階に降りて行った。

 兵士の様子でも見に行ったのだろうか。

 それは分からぬがこれはチャンス。

 彼女はそう考えた。


「なんで私がこんなッ…!」


 城の通路を駆けながらそう呟くミーフィア。

 元をただせばすべて彼女たちのせいだ。

 しかし他罰的思考でその責任を他人になすりつけていく。

 コロナ、カケスギ、あの黒魔術師の少女アルア…

 無能のノリン、邪魔者のマルク、役立たずのナグモとエリム…


「くッ…おわわッ!?」


 通路を駆けるミーフィア。

 しかしその途中で転んでしまった。

 金品の詰まった鞄をその場にまき散らしてしまった。

 単に不注意で転んだわけでは無い。


「何でこんなところに縄が…?」


「聖女さま」


「貴女たちは使用人の…!」


 通路に貼ってあったのは細い縄だった。

 それを張ったのは使用人の少女…

 いや、彼女だけでは無い。

 他の使用人たちもだ。

 逃げるタイミングを逃し、城に残ってしまった者達だろうか。


「この城が落ちるのももう時間の問題」


「そ、そんなこと無いわよ。まだ王様が…」


「それでも保険を掛けといて損は無いはず」


 転んだままのミーフィアを押さえつける他の使用人たち。

 そして料理人の男が解体用の大きな刃を取り出す。


「お願いします」


「おう、まかせろ」


「ちょ、ちょっと!」


「聖女さま、貴女の首を頂きます。革命軍に差し出せば私たちは助かるかもしれませんから」


 死んだような目でそう言う使用人の少女。

 それとは対照的に、料理人の男は刃をゆっくりと構える。

 怒りを込めた眼で。

 他の者達も必死な形相でミーフィアを押さえている。

 彼らなりに必死なのだろう。


「む、無駄なことよ!アイツらは好き勝手暴れてるだけ!」


「勇者さまと同じ死に方ですよ」


「それより協力したほうが…」


「いやです」


「つッ…この馬鹿どもがァッ!」


 一気に魔力を解放するミーフィア。

 たとえ堕ちても彼女は聖女。

 多少の攻撃魔法くらいは使える。

 全身から衝撃波を放ち彼女たちを纏めて吹き飛ばした。


「うわッ!」


「魔力を溜めてるのにも気づけないくせにッ…!」


 纏めた荷物を拾い上げ、急いで立ち上がるミーフィア。

 そして使用人の少女を蹴り飛ばした。


「私に刃向うなんて。愚かなことを…」


 そう言い残しその場から去っていった。

 中庭から追放魔法を使えば遠くへ逃げられるはずだ。

 これまでのような生活を送るのはもう無理だろう。

 しかし国外へ逃げればいくらでも再起の道はある。

 そう考えながら…



 ------------------




 王都の各地で起こる暴動。

 大通りで衝突する革命軍本隊と王国軍の残存部隊。

 しかし争いが起きている、という訳では無い。

 互いに手を出せぬ状態。

 硬直状態が続いていた。


「くッ…貴様ら…!おとなしく解散しろ!」


「そっちこそ、ここを黙って通したほうがいいっすよ」


 王国軍を率いる総将グフ。

 衝突を続ける革命軍。

 そしてその革命軍を率いる革命の乙女パンコ。

 役に立たぬと思われていた聖剣の威光。

 だが、場を硬直させる程度には役に立っていた。


「くッ…」


 朝から雨雲で包まれていた空。

 そんな中、ついに降り始めた雨。

 革命の最中、降り注ぐ雨。

 それはこのテルーブ王国の涙のよう。

 大通りにてこう着状態を続ける二つの勢力。

 両者にも雨は平等に降り注いでいる。

 と、そこに…


「通してやれ」


「エリム…」


 革命軍と王国軍。

 二つの軍勢の間に割って入ったのはエリムだった。

 先ほどの戦いで傷つき倒れた魔法剣士。

 シルト・シュパーベインの身体を抱えて。


「も、申し訳ございません…隊長…」


「あまり喋るな。怪我に響くぞ」


 シルトは決して『強者』といえる人物では無い。

 初見の相手にこそ、『魔法剣士』という属性で有利には立てる。

 しかしそれだけだ。

 あくまで初見殺しの域は出ない。

 長期戦になれば弱点を突かれ負ける。

 王国軍の主力部隊の控えのような存在だ。


「シルト、お前はこれまで実戦で前線に出たことはあったか?」


「い、いえ…」


「そうだったか…」


 そんなシルトですら切り札の一枚として使わなければならない。

 それが今の王国軍だった。

 まともな戦力はほとんどいない。


「総将、もういい…」


 先ほどエリムはコロナと交戦した。

 その後各地を回った。

 主力部隊が不在の王国軍。

 それに対し流れに乗る革命軍。

 勝敗は歴然だった。


「この戦い、我らは勝てない」


「…くッ」


 兵の心は折れかけている。

 たしかに三日持たせれば、主力部隊が帰ってくる。

 しかしそれは逆に言えば『三日持たせなければならない』、ということ。

 今の兵士たちにそれができるとはとても思えなかった。

 無理に戦っても双方に無駄な死人を増やすだけ…


「わが軍の士気は最低。とても三日持たせるのは無理だ」


「くッ…」


「あとは王と将軍に任せよう」


 貴族以外の市民のほとんどが敵にまわっているのだ。

 この状況で三日戦い抜くことは不可能。

 エリムの言葉に対し、黙って頷く王国軍の総将グフ。

 それに対し革命軍のパンコが言う。


「ウチからもお願いするっす。このまま通してください」


 その言葉を聞き、グフが兵を下げる。

 まだ反発する兵もいた。

 しかし流れがどちらに傾いているかは明白。

 反発したところでどうにもならないのは分かり切っていた。


「行けッ…!」


「ありがとうございます…っす」


「だがこの場にいる兵たちには手を出さないでくれ」


 それを聞き、黙って頷くパンコ。

 革命軍たちはそのまま開けられた道を進んでいった。

 その場に王国軍の兵を残して…



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