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大切な幼馴染と聖女を寝取られた少年、地獄の底で最強の《侍》と出会う  作者: 剣竜
第七章 王都決戦

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第八十四話 『王』と『黒魔術師の少女』

 将軍マルクと言い争いを続けるミーフィア。

 と、そこに乱入者が現れた。

 彼女は、城の窓から現れた。

 現れたのは、あの黒魔術師の少女だった。


「何故、革命を早めようとした?」


 そう言ったのはマルクだった。

 黒魔術師の少女の一連の話を聞いて。

 なぜこの少女が革命軍の動きを間接的に活性化させるようなことをしたのか。

 それが気になったからだ。

 今まさに話そうとしていた彼女。

 しかしそこにある男が現れた。

 それは…


「騒がしいな」


「お…『王』…ッ!」


 この国の『王』、彼がこの下階へと降りてきたのだ。

 ただ一人、王の間いたはずの『王』が。

 その姿を見た者、全員がその場に跪いた。

 マルクも、ミーフィアも。

 …黒魔術師の少女を除いて。


「話の途中だったか。続けてくれ」


「随分と自分勝手だね、王様」


 そう言って『王』へと視線を移す黒魔術師の少女。

 七十を過ぎた老人ではあるが、その眼には確固たる光が宿っている。

 威厳に満ち溢れたその身。

 それはまさしく、この男が『王』であるということの証。


「王とはそういうものだ」


「さすがは王様。なんでも無理が通るようだ…」


「当然だ。それが『王』と言うものなのだから」


 その気迫に押される黒魔術師の少女。

 だが彼女とて何の意味も無しにここに来たわけでは無い。

 彼女にはどうしても言いたいことがあった。

 王に…

 いや、この国の重臣たちに…


「娘、その姿は『本物』では無いな?」


「へぇ、わかるんだ」


 王の言葉。

 それは黒魔術師の少女がその姿を偽っている、というものだった。

 そう。

 この少女の病的なまでに白い、透き通るような肌。

 輝く薄い緑色の髪。

 それは異国に住む『とある少女』の物を写し取ったもの。

 彼女の生まれ持つ生来の物では無い…


「その魔力の波動に覚えがある」


「そうだよね。忘れるわけが無いよね…」


 ここにきて、黒魔術師の少女の声が震えた。

 そしてその身にかけていた変身の魔法。

 それを解除した。

 髪は黒く、肌は白いが病的というほどでは無い。

 そして片腕に刻まれた、大きな火傷の跡。

 その火傷の跡に微かに見える黄色い幾何学模様の刺青…


「やはり『あの村』の生き残りか」


「そう、私は『ベイルビバーツ』の村の生き残りだよ…!」


 彼女の言う『ベイルビバーツ』の村。

 それはかつて邪教集団の住む村として消された村。

 …今から五年ほど前になる。


「全員始末させたと思ったが」


「生き残ったの、私はね」


「…名は?」


「アルア。『アルア・サーラビス』…!」


 黒魔術師の少女…

 いや、アルア・サーラビス。

 その名は村の頭首の娘の名前。

 娘を一人逃がしていたとは…


「村の復讐のためか?」


「当たり前でしょ」


「魔族どもに尻尾を振る邪教集団めが…」


「なんとでもいいなよ。もうすぐ私の復讐は終わるんだよ」


 アルア・サーラビスの目的。

 それはこの国そのものの破壊だった。

 その為に藩将を闇討ちし、キルヴァとコロナを争わせた。

 革命軍を煽り、今回の革命が起こった。

 それらが連鎖反応的に繋がり、今の状況がある。


「ほ、ほら!全部コイツが悪いのよ!このガキが!やっぱりよ!」


「私は革命を早めただけ。それ以外は何もしていない。原因はこの国そのものにある」


 彼女が居なくとも、いずれ革命は起きていた。

 煽り、その時期を早めただけ。

 きっかけを作ったわけでは無い。

 彼女はただの潤滑油でしかない。

 しかし逆に言えば、国の崩壊を先取りさせたともいえる。

 彼女が居なければ、革命を遅らせることもできたのかもしれない…


「もうこの国は終わりだよ。ほら!」


 その声と共に城の外を指さすアルア。

 それと共に街に火の手が上がり始めた。

 降りしきる雨の中にもかかわらず。


「あちこちに少量の火薬を仕込んでおいたの。革命の火としては上等でしょ?」


 その火自体に殺傷能力があるわけでは無い。

 しかしそれを見た民衆たちは何を思うか。

「誰かが火を放ったのか」

「王国軍か?」

「革命軍か?」

「誰だかわからない。しかしやられる前にやれ」

 革命の勢いはさらに高まり続ける。

 もう止まることは絶対にない。


「貴様ッ…!」


 マルクが叫ぶ。

 彼としてはできる限り鎮圧したかった。

 出来る限り、双方に死者を出さない方法で。

 しかしこれではもうそれもできない。

 革命の成立か民衆の死、どちらかでしか止めることはできない。

 もうその段階にまで来てしまったのだ。


「そうそう。あとこれ、お土産だよ。聖女サマにあげるよ!」


 彼女が持っていた大きな布の袋。

 その中に入っていたのは瓶に詰められたとある物だった。

 それは…


「ヒィッ…!?」


「懐かしいでしょ?仲間に取ってきてもらったんだ。みんな喜ぶかと思ってね」


「ノ、ノリン…」


 その中に入っていた者。

 それは死んだノリンの生首。

 そして彼女の物では無い、男の右腕。

 恐らくキルヴァの物だろう。


「騎士サマが首を切っているのを見てね。真似したんだ」


「うッ…」


「ほら、大切にしなよ!王サマも聖女サマもね!」


 それを『王』に投げつけるアルア。

 しかしそれは軽く避けられてしまった。

 そのまま死体の詰まった大きな瓶はミーフィアの足元で割れた。

 瓶に詰まっていた薬品により、簡単な防腐処理がされていたのだろう。

 大きな腐食は無かった。

 しかしそれでも強烈な臭いが辺りに立ち込める。


「ヒ、ヒィィィィィィッ!」


 コロナの手により、水底に沈められたノリン。

 遺体は当然、水により強い痛みがついていた。

 そのノリンの生首の視線がミーフィアと合った。

 それと同時に、切断されたキルヴァの右腕がミーフィアの足に当たった。

 彼女の片足を掴むように。


「あ、あああ…」


 その場に崩れ落ちるミーフィア。

 異臭に顔を歪ませるマルクを初めとする重臣たち。

 それを横目に、ただ佇む『王』。


「さすがは王サマ。この程度じゃ動じないんだね」


「当たり前だ」


「まぁいいけど。どうせこの国はもうすぐ終わるんだから」


 革命の火によって焼かれる。

 この王城は。

 そしてどう足掻いても、この国そのものに多大な被害が出る。

 民衆にも。

 国王軍にも。


「ここにいるみんな!こんな古ぼけた城と運命を共にするよりも逃げたほうがいいと思うよ?」


「あ、ああ…」


「城と運命を共にする気かな?」


「うわあぁぁぁッ!」


「に、逃げろ!」


「まだ死にたくない!」


 そういい残した一部の重臣と客人。

 その使用人たちは一斉に逃げ出した。

 残ったのは『王』とマルク、そして僅かな部下。

 崩れ落ち、呆然とするミーフィアの。僅か十数名のみ。

 そしてその声と共に、アルアが城の窓の前に立つ。

 先ほど彼女が入ってきた窓だ。


「逃げる気か!?」


 マルクが彼女を追おうとする。

 しかしすでに遅かった。

 アルアはそのまま窓から飛び降りた。

 そして次の瞬間、空中でその姿を消した。


「移動系の魔法か…ッ!?」


 苦虫を噛み潰したような顔でマルクが呟いた。

 周囲からは完全に反応が消えている。

 ミーフィアの追放魔法のような類なのだろう。


「逃げたか…」


「も、申し訳ございません…」


「別にいい。すべてが終わったらまた探せば…」


 そう言う『王』とマルク将軍。

 ただひたすらあ然とするミーフィア。

 と、その時…


「マルク将軍!」


「ナグモか!?どうした?」


「う、なんですかこれは…」


 その場に散らばった薬品とノリン、キルヴァの死体。

 それを見て顔を歪めるナグモ。

 しかしそんなことは大した問題では無い。


「し、侵入者です!」


「なに!?」


「城の防衛網は突破されました!半数逃亡です!」


「くぅ…」


 まずい事になってしまった。

 それ以上の言葉が見つからない。

 しかし…


「しょうがない…」


「まさか…」


「そうだ。鎮圧のため、この『王』が出るッ!」


 そう言う『王』。

 その言葉にどういった意味が込められているのか。

 マルクは瞬時に理解した。

 この王の性格。

 そしてその『強さ』を理解している彼。

 だからこそ理解できたのだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] その中に入っていた者→モノ(物) では? (遺体の全身ではなく部分なので) [一言] ノリン?誰?(すっとぼけ)
[良い点] ああ、そもそもとして戦力にカウントしちゃいけない、直接戦闘なんか想定しちゃいけない立場がよりにもよって真の最強だから、それ以外の奴等の、実効戦力として最強な奴が「ただ一人(そもそも戦わせち…
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