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大切な幼馴染と聖女を寝取られた少年、地獄の底で最強の《侍》と出会う  作者: 剣竜
第七章 王都決戦

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第八十三話 狂い咲きミーフィア

 


 革命軍により革命がついに始まった。

 王都の各地で起こる暴動。

 打ちこわし。

 革命軍はこの日のために牙を磨き続けてきた。

 一方の王国側。

 主力隊が出払い、戦力不足の状態。

 親衛隊とその他残存兵力では、もはやその勢いは抑えきれぬほどだった。


「おとなしく解散しろ!今なら重い罪には問わん!」


 王国軍を率いるのは総将グフ。

 藩将を纏める人物であり、本来は戦場には出ぬ立場にある。

 しかし本来、この軍をまとめ上げる将は今ここにはいない。

 今日は王都クロスにいる王国軍の主力部隊の数が最も少なくなる日。

 強力な主力部隊の一部が、別の地区へ訓練に行っている。


「くッ…こんな日に…」


 この情報が革命軍に漏れていたことは明白。

 グフがパンコとシンバーに視線を移す。

 純白の装束に身を包み、『革命の乙女』として祭り上げられたパンコ。

 トライデントを片手に構えるシンバー。


「そっちこそ、ここを黙って通したほうがいいっすよ」


「こっちの人数はそっちの三倍以上はある!戦うだけ無駄だぞ!」


 シンバーの怒号と共に革命軍の士気がさらに高まっていく。

 それを受け、逆に委縮してしまう王国軍。

 大通りで革命軍本隊と王国軍の残存部隊が衝突している。

 しかし争いが起きている、という訳では無い。

 互いに手を出せぬ状態なのだ。


「くッ…貴様ら…」


「このまま押し通すッすよ…」


「ああ…」


 王国軍のグフ、革命軍のパンコ、シンバー。

 互いに武装をしている状態。

 数で勝る革命軍。

 武器の質と戦闘経験で勝る王国軍。

 手を出せば混迷の争いになる。

 互いに迂闊に交戦はできない。

 そのままこう着状態が続いていた。


「さっさと解散しろ!」


「解散なんかしないっすよ!この聖剣にかけてね!」


「そうだ!正義は我々にある!」


 かつて初代勇者カーシュが所持していた聖剣。

 その弟子であるコーツが受け継ぎ、その後にキルヴァが手にした。

 最終的には、パンコがそれを手にした。

 未だに聖剣の威光は一部に効果がある。


「都合のいい時にばかり聖剣の威光に頼りおって…」


 総将グフがそう言い放った。

 このままではらちが明かない。

 しかし、ここでこう着状態にある限り革命軍本隊が動くことも無い。

 兵力差と残存部隊の戦力を考えれば、ここで本隊と戦って鎮圧はできない可能性が高い。

 ここでうまく交渉できれば…


「あ…」


「雨っすね…」


 朝から雨雲で包まれていた空。

 そんな中、ついに雨が降り始めた。

 革命の最中、降り始める雨。

 それはこのテルーブ王国の涙のようにも思えた。



 --------------------



 王都各地で上がる革命の狼煙。

 その勢いはもう止められない。

 王城では残された戦力が鎮圧のために動いていた。

 しかし主力部隊のいない今、かなり厳しい状況のようだった。


「王を護るための親衛隊は最低限の人数を残し、残りを全て鎮圧に回すんだ!」


「マルク将軍、城の警備は…」


「藩将リーヴィスの連れてきた兵たちをそちらに回せ!」


「わかりました!」


「土地勘が無い者は街に回すな!死兵は絶対に作らん!」


 大将軍であるマルクが指揮を執る。

 城の警備は必要最低限の兵で回す。

 国を守るための兵を自国民に対して派遣しなければならない。

 そのことに複雑な思いを抱いていた。


「どちらかが折れない限り長期戦になる!確実に!」


「長期戦ですか…?」


「もし三日持ちこたえることができれば、主力部隊が帰還する。周辺の藩将の応援も期待できる…」


 先ほど伝書鳩を飛ばした。

 この王都クロスの周辺の街を治める藩将たちに対して。

 到着には時間がかかるかもしれないが、来てくれれば確実に戦力となる。

 帰還した主力部隊と共に民衆を鎮圧できるだろう。


「城の非戦闘員は上階に回しているか?」


「はい」


「少し様子を見てくる。このようなことに慣れぬ者も多いだろうからな」


 城の中の非戦闘員。

 使用人や客人たち、王族。

 城の上階に避難していた。


「ま、街が…革命…アイツが…ッ!」


 城から街を眺めるミーフィア。

 もう彼女にまともな判断ができる精神力は残されていなかった。

 革命の日はすでに上がった。

 エリムがコロナを討伐しに行く、と言っていたがキルヴァを倒したコロナに勝てるとは思えない。


「必ず来る…アイツが…」


 革命など関係ない。

 コロナは確実に自分を殺しに来る。

 もう前回のように隙を突いて逃げることはできないだろう。


「わ、私だけでも…ッ!」


 もうこうなっては王城にもいられない。

 持てるだけの金を持ち、城から脱出する。

 それしかない。

 そう考えたミーフィアは金をかき集め城から逃げる準備をした。

 そして鞄に金と貴金属を詰め部屋を出る。

 中庭から追放魔法を使えば遠くへ逃げられるはずだ。

 しかし…


「ミーフィア…!貴様…!」


「ま、マルク将軍…!」


 逃亡途中をマルクに見つかってしまった。

 鞄を抱え、明らかに逃げの姿を見せるミーフィア。

 そんな彼女にマルクの怒りが爆発した。

 この革命のきっかけの一つは『勇者キルヴァ事件』だ。

 つまりミーフィアはこの革命の原因の一つでもある。


「貴様のせいで兵と民に甚大な被害が出ているんだ!それを無視して逃げる気か!?」


「はぁ?私だけの所為じゃないでしょ?まともな政治をしない国の所為よ」


「お前たちが勇者にふさわしい立ち振る舞いをしていれば、不満が爆発する前に改革もできたのだ!それを…」


「私を聖女に認定したのは国よ!?こんな事態を予想しておくのは当然でしょ!?」


「ふざけるな!勇者も婚約者も聖女も!どいつもこいつもこんな屑ぞろいだとは想像もできんわ!」


「まともな政治をしない国が悪いのよ!私は悪くない!」


「国とて一枚岩では無い!すぐには変えられんのだ!ゆっくりと改革していくものだ!だがそれをする前にこのありさまだ!貴様らクソッタレ勇者とバカ二人の所為だ!」


「コロナを見捨てたのも国だし勇者制度を作ったのも国でしょ!私は悪くない!」


「コロナもお前たちが死んでいるといったからだ!第一、勇者制度は王に一任してある!こちらに言われても困るというものだ!」


「それに悪いのは私じゃなくてノリンよ!アイツが…」


「そんなふざけた妄言など、今更だれが信じるか!」


「妄言って…」


「知らぬと思っているのか!みんな本当のことなどとうの昔に知っているわ!」


 そのまま廊下の壁にミーフィアを叩きつけるマルク。

 逃亡用の金を詰めた鞄が開き、金が周囲にばら撒かれた。

 大将軍マルク、珍しく彼が怒りを露わにしたのだ。

 その騒ぎを聞きつけ、部屋に避難していた者たちも集まってきた。


「一体どうしたんです?」


「お金が散らばって…」


 状況を理解できずに混乱が広がる。

 しかし状況から、ミーフィアがよからぬことをしようとしていたのはなんとなく察しがついた。

 と、そこに…


「ふふふ…お楽しみ中、失礼しますよ」


 廊下の窓から響く静かな声。

 そちらへ視線を向けるマルク、ミーフィア達一同。

 静かな声ではあるが、はっきりと脳内に響く声だった。

 それと共に窓から廊下を吹き抜ける疾風。

 風と共に入ってきたのは一人の黒装束…


「何者だ、お前は?」


 マルクが声を荒げる。

 しかしミーフィアは彼女が何者か知っていた。

 この時と似たような状況で、彼女はこの少女と会っていたからだ。


「貴女は…あの時の…」


「これはこれは聖女サマ…」


「あの夜の…!」


 少女の纏っていたローブとその緑色の髪が軽く風に靡く。

 病的なまでに白い、透き通るような肌。

 輝く薄い緑色の髪。

 そう、あの黒魔術師の少女だった。

 キルヴァがノリン、ミーフィアと寝ていたあの夜の日。

 今から一年程前になるか…


「貴女が…あんなことを言わなければ…!」


「行動したのは勇者サマですよ?私を責めるのはお門違い…」


「うるさい!」


 ミーフィアが殴り掛かろうとするも、それを軽く避ける黒魔術師の少女。

 そのまま床に叩きつけられるミーフィア。


「貴女が居なければ革命など起きなかった!あんなこと言わなければキルヴァ様もコロナなど相手にしなかった!」


「これはこれは…」


「全部コイツが悪いのよ!このガキが!」


「それは違う、私は革命を早めただけ」


 そう。

 彼女が居なくとも、いずれ革命は起きていた。

 煽り、その時期を早めただけ。

 きっかけを作ったわけでは無い。

 聖女とは思えぬ口汚い言葉で黒魔術師の少女を罵るミーフィア。


「その為に各地の藩将を闇討ちした!あのバカ(キルヴァ)ども(コロナ)を争わせた!


「何故、革命を早めようとした?」


 そう言ったのはマルクだった。

 なぜこの少女が革命軍の動きを間接的に活性化させるようなことをしたのか。

 それが気になったからだ。


「それはね…」



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― 新着の感想 ―
[一言] なんかミーフィアさんたらコロナの到着を待つまでもなくざまぁされそうですね……。 サイクロンさん久しぶりです。
[良い点] ここまで同情の余地のない聖女も珍しいですね。 こんなんでも、本当に昔は優しい性格だったのでしょうか……。 この責任の押し付け合いは、まさに人間という感じです。 [一言] エリムさんくらい…
[良い点] 多少の誘導があったとは言え、革命軍の胎動もコロナの復讐も黒魔術師が接触してくる一年前なんかよりずっと前に原因があるんだから本当に「早めただけ」でしか無いのに責任を押し付けようとはミーフィア…
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