第八十話 五日後…
王都クロス。
その王城の一室。
地方から王都へ訪れた高官がしばし滞在する部屋だ。
報告のために、各地の藩将は定期的に王都へと訪れることになっている。
もちろん、ある程度の兵力を連れて。
今回、訪れていたのは南の端の地区の藩将『リーヴィス』。
初老の女性であり、比較的民衆からの支持も高い。
「ふう…」
飲んでいた紅茶のカップを置き一息つく。
この年齢では地方からの移動も身体にこたえてしまう。
既に60を過ぎているのだ。
「報告も終わったし、早めに戻りたいけど…」
基本的に滞在は一週間程度。
その間、連れてきた兵士たちは王都の警備の手伝いをすることになる。
しかし、地方から連れてきた兵士たちは、基本的に仕事は辺境の警備と事務作業のみ。
武闘派の藩将の兵士や王都の兵士と比べるとどうしても強さの質が劣ってしまう。
出来ることならば早めに自らの治める地区へと戻りたい。
そう考えるリーヴィス。
「…まぁ長くて一週間。ゆっくり待ちましょうか」
そう言って再び紅茶を飲む。
窓から指す朝日。
だが天気はあまりよくないようだ。
もしかしたら午後からは雨になるかもしれない。
そう考えながら、持ってきた本を鞄から取り出す。
「せっかくだから…」
報告自体も大した内容は無いのだ。
どうせならば王都滞在中にこの本を読破してしまおう。
そう考えて。
と、その時…
「り、リーヴィス様!」
「どうしたの?そんなに慌てて」
「く、クーデター…いえ、『革命』です!」
「なんですって!?」
そう。
今日は革命軍がその『革命を起こす日』だったのだ。
朝日が昇り、王都に日がさし始める。
街が始動を始める。
その時間を狙い、革命軍が動き出したのだ。
「王都各地で民衆たちが決起!暴徒化し軍と交戦中とのことです!」
「将軍たちに連絡は?」
「他の者が既に…リーヴィス様は他の方々と共に上階へ!」
「わかったわ…」
予想外の事態が起きた。
以前から民衆の不満が溜まっていたのはリーヴィス自身も知ってはいた。
部下から何度も報告を受けていた。
出来る限り自身の治める地区では民を大切にしてきた。
しかし他の地区はそうでは無い。
それに加え、『勇者キルヴァ事件』や『アレックス・サンダー事件』…
民衆の怒りが爆破するのは当然といえる。
「街が…」
上階へと移動する最中、リーヴィスが窓から見た景色。
窓から見える城下町、各地から上がる煙。
大規模な火災こそまだ発生していない。
だが、それが起きるのも時間の問題かもしれない。
「王城はリーヴィス様のお連れした兵士たちが守護しています」
城の警備はリーヴィスの連れた兵士で守る。
直接的な鎮圧には王都の軍の兵士が出動する、とのことだった。
さらに、兵たちの指揮を上げるため、王の親衛隊の騎士団も先陣を切るという。
「そう…」
革命、その前代未聞の事件。
それを前にリーヴィスはそう言うことしかできなかった。
そのまま上階へ向かうリーヴィス。
一方その頃、王城の別室。
ミーフィアの滞在している部屋。
そこでは恐怖に震える彼女のその姿があった。
「こ、このままじゃ…」
「あ、あのう…」
その傍らにはナグモの姿が。
彼女をより安全な上階へ案内すべく来ていたのだ。
周囲からの評価は最悪なミーフィア。
あれだけのことをしてきたのだ、当然だ。
誰も口には出さないがその印象は最悪。
しかしまだナグモからは好意を抱かれていた。
「ナグモくん…」
「ここは危険です。早く上へ…」
「コロナのヤツを…」
「へッ…?」
「なんとかできなかったの!?この役立たずが!」
「うッ…!」
そのままナグモを突き飛ばすミーフィア。
もう彼女にまともな判断ができる精神力は残されていなかった。
単なる密偵であるナグモに彼らをどうにかできるわけが無い。
そんなことは火を見るよりも明らか。
だがそんなことすら、今の彼女には判断できなくなっていた。
それほど追いつめられていたのだ。
「聖女様…」
そんな彼女でも、ナグモは見捨てることはできなかった。
彼は静かに、黙って部屋から出て行った…
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それとほぼ同時刻。
市街地では革命軍とそれに合流した民衆が一斉蜂起。
各地で王国軍とのにらみ合いに発展していた。
まだ本格的な交戦こそないが、そう遠くない内に戦いになるだろう。
それだけでは無い。
主要な国の建物などの打ちこわしも起きていた。
「壊せー!」
「こんなもの必要ねぇー!」
多くの民衆が集まり破壊していたのはキルヴァの屋敷だった。
主を失い、ミーフィアにも捨てたられたその屋敷。
打ち壊され火を放たれていた。
権力の象徴とも言うべき像や建物は破壊。
倉庫や博物館などは占領されていた。
そして…
「よし、そろそろ僕たちもいこう」
「ああ。そうだなレイス」
裏町の振るい酒場からそう言って出てきたのはレイスとコロナ。
そしてカケスギとレービュだった。
ソミィ達は郊外の小屋に残してきた。
さすがに今回の革命には巻き込むわけにはいかない。
もし何かがあった時は三人で逃げるようにも言ってある。
「以前も言った通り、民衆の扇動は『聖剣を持ったパンコ』と『シンバー・ホーンズ』に任せてある」
「ああ」
「オリオンは街の各所を士気高揚のため走り回っている」
聖剣を持ち革命の乙女としてパンコを祭り上げる。
そして以前から民衆に人気のあったシンバー・ホーンズ。
この二人が革命のメイン勢力となる。
メインであると共に、デコイでもある。
「僕たちで王都に残っている実力者を各個殲滅する」
レイスの言葉を聞き、黙って頷く三人。
兵力のほとんどは鎮圧にさかれている。
そのどさくさに紛れて、王国軍の実力者を一対一で倒す。
とはいえ、そんな実力者もそう多く居るものでは無い。
「親衛隊の騎士団のメンバーが残っているはずだ。王都の各地で鎮圧を開始しているだろう」
親衛隊のメンバー自体はそう多いものでは無い。
しかし実力は高い。
戦い慣れしていない民衆を鎮圧する事など造作も無いだろう。
もちろん、各地に散った革命軍のメンバーが応戦するがそれでも万全とは言えない。
「そのような者と遭遇しなければ、そのまま城へ向かってくれ」
「わかった」
「城の戦力も大幅に下がっているはずだ」
親衛隊のメンバーを倒せるならば倒す。
遭遇しなければそのまま王城へ向かう。
そして一旦、王城の裏手で落ち合う。
という作戦だ。
「長期戦になるとこちらが不利になる。主力部隊の帰還前に確実に王都を落とす!」
「ああ…」
「任せろ」
「うん」
そう言って手を合わせる四人。
そしてそれぞれ別々の道を通り王城を目指す。
それぞれの目的を果たすために。
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