第七十九話 集合
クレセントコーツの村を出たコロナ一行。
王都の郊外にあるという、革命家オリオンが用意した小さな家にたどり着いた。
しばらくはここを使ってくれて構わない。
オリオンからの手紙にはそう書かれていた。
「ここか…」
付近の集落から少し離れた位置にある小さな家。
さらに少し行けば王都にも行ける。
中途半端な位置ではあるが、それが逆に丁度良いともいえる。
「鍵は手紙に入ってたよな?」
「ああ。ここにある」
そう言ってカケスギが鍵を取り出す。
そして中に入る一行。
家の中は大部屋とロフトだけの簡易な作り。
あとは小さな部屋が少しあるのみ。
家具なども最低限の物しか置かれていなかった。
しかし…
「あ、遅いっすよー!」
「そろそろ来るころだと思ってたよ」
「あ!お前らは!?」
そこにはすでに先客がいた。
パンコとレイスだ。
部屋の中央にある大きなテーブル。
その周りの椅子に腰かけ、コロナたちを待っていたらしい。
そして…
「よお、久しぶりだなぁ!」
「オリオン!」
「ミッドシティの田舎から出てきたんだ。ちょっと訳ありでな…」
二階のロフトから顔を出したのは、革命家オリオン。
彼はこの国の政治に不満を持つ者達が集まり組織した『革命軍』。
その若きリーダーだ。
各地に拠点を持っており、外部からはどこに滞在しているのかはよくわからなくなっている。
この家もそんな拠点の一つ、という訳だ。
かつてミッドシティで出会った男である。
「そいつか、オリオン?お前が言っていたのは…」
「ああそうだ、シンバー」
そしてそこにいたのはオリオンだけでは無い。
ロフトから飛び降りてきた一人の男。
コロナたちは彼とは初対面となる。
との男は以前、王都で暴動騒ぎを起こしていた男『シンバー・ホーンズ』だった。
あの暴動騒ぎの後、オリオンに説得され仲間に加わったという。
「しかしオリオン達は一体なんでここに…?」
「それは後で話す。それより…」
全員をテーブルに集めるオリオン。
そして、一旦全員でテーブルを囲うように、椅子に座る。
「互いに初対面のヤツも多いだろう。軽く全員で自己紹介といこうじゃないか」
そして軽く自己紹介を済ませる。
コロナを初めとした、カケスギ、レービュ、ケニー、マリス、ソミィの六人。
そしてオリオン、レイス、パンコ、シンバー・ホーンズの四人。
合計して十人、それぞれが自己紹介を終えた。
「ソミィ、ケニー、お前たちには少し難しい話になるかもしれんぞ」
「そうなの?」
「邪魔になると迷惑になるし、席外してるよ」
「できればマリスの手伝いをしてやってくれ。一人では大変そうだ」
マリスは一人で先に席を外し、一人で茶の用意をしていた。
持っていた食料と、小屋においてあった食材で簡単なお茶うけを作っているようだ。
確かにこの人数分のそれを用意するのは大変そうだ。
「うん、わかった」
「よし、頼むぜ二人とも」
カケスギにそう言われ、席を外すケニーとソミィ。
確かに彼の言うとおり、ここから先の話は彼らにとっては少々難しい話となる。
何より、あまり彼らのような子供を巻き込みたくない。
というのもある。
マリス、ケニー、ソミィの三人が抜けた七人で話を続ける。
「…しかしオリオン、こんな子供連れで本当に大丈夫なのか?
そう言うのはシンバー・ホーンズ。
彼も一通りのコロナたちの活躍はオリオンから聞いている。
しかしどうやら、思っていたのとは少し違ったらしい。
「勇者キルヴァに勝利した人物がどんな強者かと思っていたが…」
「別にどんな奴だろうが勝手だろ、俺は俺だ」
「…まぁ、強さは確かなようだが」
確かに性格は多少甘いのかもしれない。
その甘さから、ミーフィアを逃してしまった。
しかし彼らの強さは確かに本物。
シンバーは直感でそう感じた。
一方、カケスギはパンコにあることを尋ねた。
「おいそこの女」
「ウチっすか?えっと…カカ…カカ…?」
「カケスギだ」
「あ、そうそう!あとウチの名前はパンコっす。パンコ・シヨーク」
「パンコ、聖剣はどうした?ちゃんと保管してあるのか」
「もちろんっすよ」
パンコによると、聖剣は時が来るまで保管しているらしい。
場所を知る者もかなり限られている。
少なくともキルヴァが持っていた時よりはマシな環境だ。
パンコはそう言った。
それを聞き安心したのか、カケスギはそれ以上は問わなかった。
「なぁレイス」
「どうしたんだ、コロナ」
「アレックス・サンダーって知ってるよな」
「ああ。クレストコールの元藩将、それがどうかしたのか?」
レイス達はアレックスを倒したのがコロナたちとは知らなかった。
一通りの事情を話すコロナ。
アレックスを倒したのが自分たちであると話した。
そして、アレックス・サンダーを倒したのが自分たちであるということを前提に、あることを彼に尋ねた。
「アレックスより強いヤツってこの国にいるのか?」
「いや、僕は聞いたことが無いな…」
「ウチも知らないっすよ。オリオンは知ってるっすか?」
「いや、知らないな。ある程度腕の立つ奴は警戒リストに入れてはいるが…」
「アレックスと言えば武闘派の藩将として有名だ。それを超える奴などいないだろう」
レイス、パンコ、オリオン、シンバー。
その四人から帰ってきた答えは同じだった。
アレックスより強い人物はこの国に存在しない、と。
「なるほど、アレックス・サンダーより『強い奴』はいないか…」
「一騎当千の猛者でもない限り、革命に個人の強さはさほど重要では無い」
「オリオン…」
「本題を話したい。なぜ俺たちがここにいるのか、そして…」
一気に部屋の空気が重くなる。
ちょうどお茶と菓子を持ってきたマリス達にもそれは理解できた。
明らかに『流れ』が変わったのが。
マリスからお茶を受け取り、軽く一礼をするオリオン。
そして先ほどの話の続きをする。
「そして、『革命』についてだ」
「革命…」
「ああそうだ。直球で話す。五日後に革命を起こす!」
「五日後!?」
オリオンのその宣言。
それを聞き、さすがのコロナでも動揺を隠せない。
五日後に革命を起こす、と聞き驚かぬ者はいないだろう。
カケスギはギリギリ平静を保っているが、レービュもコロナと同じような反応をしていた。
レイスとパンコ、シンバーはすでに彼から聞いていたのか動揺はしていなかった。
「ああ、そうだ五日後だ」
「しかし、なんで五日後なんだ?」
「ああ、それはな…」
オリオンが提示した五日後という理由。
王都クロスにいる王国軍の主力部隊の数が最も少なくなる日なのだ。
主力部隊の一部が、別の地区へ訓練に行くのだという。
とはいえ、劇的に数が減るわけでは無い。
しかし、これほどの数が減るという機会はめったに無い。
「確かな情報なのか?」
「ああ。レイスが仕入れてきてくれた」
「なるほど。じゃあここで待っていた理由っていうのは…」
「キミたちを確実に戦力として加えたかった。人手は多いほど有利だ」
「ああ、そうだな」
「それに今は『勇者キルヴァ事件』や『藩将アレックス・サンダー事件』で国の体制に対する不信感が高まっている」
「その流れに乗って一気に…」
「王都を制圧し、この国をひっくり返す!」
オリオンがそう言った。
五日後。
それはこの王都の戦力が最も少なくなる日。
そこを攻め、この国を一気に落とす…!
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